★★★☆☆
あらすじ
オスカーを獲得するなど役者として数々の栄光を手にしてきたホアキン・フェニックスだったが、突如引退してラッパーに転向することを表明する。
原題は「I'm Still Here」。106分。
感想
有名俳優ホアキン・フェニックスがラッパーに転向した姿を描くドキュメンタリー風映画、いわゆるモキュメンタリーだ。ただ通常のモキュメンタリーは虚構の中で行われるが、この映画は現実の中で行っているのが興味深い。
実際に彼の俳優引退やラッパーとして活動する様子は、エンタメニュースとして普通に報じられていた。この当時は彼の奇行がよく話題になっていたのを思い出す。自宅やホテルの一室といったプライベートな場所はともかく、パブリックな場所でのシーンだけ見れば、ドキュメンタリーと言っていいかもしれない。
ホアキン・フェニックス、心はもうラッパー。新作プロモーションに身が入らず | cinemacafe.net
彼がライブをやったり曲を作ったりする様子が描かれていく。大物プロデューサーであるP.ディディ(ショーン・コムズ)にプロデュースしてもらおうと、あちこちと追いかけるのは面白かった。そしてついに面会を果たし、曲を聴いてもらうが、微妙な顔をされてしまう。
ただホアキン・フェニックス側の意図を、皆がどこまで知っていたのかは気になる。何も知らずに彼を信じて対応した人たちは、きっと後で嫌な気分になっただろうなと胸が痛む。それが常に気になってしまい、あまり楽しめないところがあった。P.ディディも相当警戒していたが、彼らからすればドッキリ番組みたいなものだ。
ホアキンの下手なラップやなぜかすぐに全裸を見せつけてくる男が登場したりと、次に何が起こるのかとついつい見てしまう映画ではあった。最初と最後のシーンがつながるのも巧い構成だ。
ただそれよりもこのモキュメンタリー、というかドッキリの裏側がどうなっていたかの方が見たかった。世間の反応を見てどう思ったのか、やらせじゃないかと噂されていたのは想定内だったのか等が気になる。それこそ本物のドキュメンタリーが見たい。
今見ると世間を騒がせて必死に注目を集めようとしているユーチューバーのようで、時代の先を行っていた映画だったのかもしれない。彼のでっちあげた物語を、虚実は大して気にせず楽しんでしまう人がたくさんいるというのも予言的だ。
スタッフ/キャスト
監督/脚本/製作/撮影/編集/出演 ケイシー・アフレック
脚本/製作/出演 ホアキン・フェニックス