iOS6地図にデータを提供していると言う事で、一時は悪者にされかけてたインクリメントPやOpenStreetMapですが*1、日本ジオ業界の古老森さんの記事の拡散等もあって、無事問題はAppleの編集能力にあり、データ提供元に問題はないという認識が広まったように思います。
それじゃ、そもそもインクリメントPのデータはどこに使われてるのだろう?というのをちょっと調べてみました。
建物の外郭形状
iOS6の建物外郭。右下が空き地で建物ないのに注目してください。
(c) Apple
MapFanの建物外郭。驚く程そっくり。
iOSで空き地の部分に建物があるが、この描画色が少し他の建物と違います。
(c) IncrementP
参考までに同じ地域のGoogle Maps。やっぱり元データが違うから、大分違います。というか、本当に大分違うね…。
(c) Google / Zenrin
ご覧の通り、建物の外郭形状は驚く程酷似している、というかそのものです。
また、一部iOS側に存在しない建物があるが、その建物の描画色がMapFan側では全て一緒です。
描画色は建物の属性、つまりメタデータによって塗り分けられてますが、その特定の色がコンスタントにiOS側では描かれていないと言う事は、恣意的にかミスかは判らないけれど、属性によって描き分けられていると言う事です。
それは取りも直さず同じデータソースを使っているという証拠でもあります。
というわけで、建物外郭は間違いなくiPCが提供したデータでしょう。
土地利用範囲の形状
MapFanの土地利用外郭。似てるっちゃあ似てるけど、違うところがちらほら…。
(c) IncrementP
OSMだとこの地域の人間がサボってるので(誰だ!俺ですすみませんすみません)公園の中の路地などは書かれてなく、これがデータソースでもない。
(c) OpenStreetMap CC BY-SA
土地利用の外郭は、描かれているところは明らかに出自同じだろ!と思うくらい形状が似てるんですけど、時々ポリゴン単位で抜けてるところもあったり、或いは左端の平城4号公園等、MapFan側では路地があるのにiOS側ではベタ塗りされてたりと、よく判らない差もあります。
限りなくiPCが採用されてると思われるものの、一応保留。
地名データ
すみません、これについては採り上げる予定なかったんだけど、書いてる最中に気付いてしまったので…。
iOS6地図が出た直後、私はTwitterでこう呟きました。
こちずふぁん on Twitter: "iOS地図、紙地図とかからOCRや人的アウトソースで作ったデータもあるんじゃないか?これ近所だけど、地名は「平城」なのに、「平成」になってるところが結構ある。これで元がデジタルソースなら相当質の悪いとこと契約してるな。 #fb http://t.co/89hHWUmf"
iOS地図、紙地図とかからOCRや人的アウトソースで作ったデータもあるんじゃないか?これ近所だけど、地名は「平城」なのに、「平成」になってるところが結構ある。これで元がデジタルソースなら相当質の悪いとこと契約してるな。
が、一つ前のセクションでMapFanの地図、左の方を見てみると…平成西配水池…平成第一団地…。
Appleさんすみません、少なくとも私が見つけたこの一件に関しては、iPCのデータの問題だったようです。
とはいえ、iOS地図のランドマークデータは明らかに複数のデータソースから得てるし、全部のデータの問題がiPCの問題でないのは当然だし、座標系ズレや属性ズレなんかはデータ料理する側の問題なので、この一つで「ほら見ろ、やっぱりiPCデータ品質のせいじゃないか!」とならないのは当然の事です。
まあ、iPCだって無謬ではないということで。
道路データ
道路データと言えば、iPCの真骨頂じゃないでしょうか。
日本の地図データ所有各社は、各々出自が住宅地図で都会の建物形状に強いだとか、出自が紙版道路地図で描画デザインセンスに優れているとかいろいろ特徴があるんですけど、その意味ではiPCはカーナビ地図が出自です。
道路データに関してはお手の物のはずで、iPCのデータ使うなら道路データ使わないと嘘ですよね、という感じになると思うのですが…。
iOS6の道路形状。中心付近の街区に食い込む小路地の形状等に注目ください。
(c) Apple
MapFanの道路形状。なんか全然違うよママン…。
(c) IncrementP
違う!なんか全然違うぞ!
iOS側の地図は、道路の幅や路肩の形状は描画してなくて、明らかに道路の属性(国道とか一般道とか)だけで太さを描き分けてるので、ちゃんと路肩形状を描き分けてるMapFanとはもし同じデータを使っていても見た目は少し変わるのは判るのですが、それを考慮に入れても違い過ぎます。
路地の数が違うし、繋がり方が違うし、微妙な形状が違う。
とても同じデータとは思えません。
かといって、
OSMの道路形状。サボっているのは(ry すみませんすみ(ry
(c) OpenStreetMap CC BY-SA
OSMのデータでもないようです。
結局、この道路データの出自は判りません。
憶測ですが、iPhotoでiOS地図のファーストプレビューが出た際、それがあまりにもOpenStreetMapに似過ぎていながら、しかしOSM側にない道路等もたくさん加わっているのを見て、
「Appleは航空写真から道路を抽出する技術を持った会社を買った(はず)から、そうやって抽出した道路データを、OSMのデータとマップマッチングして精度を高めているのではないか」
という予測を言った人がいました。
飽くまで憶測、予測なので、真偽のほどは判りませんが、そういった感じで自前で作った道路データを使っているのかもしれません。
いずれにせよ、iPCの道路データを使っていないのは明らかです。
道路情報が得意と言えるiPCからデータを買っておきながら、そのデータを使わないとは、わけが判らないよ、の世界です。
もちろん理由は想像はついて、ナビを売りにして出したかったから、世界中同じデータ形式の道路データを揃えたいと考え自作データにこだわった、或いはiPCデータを使う意思はあってもコンバートが間に合わなかった、とかあたりだと思うのですが、
しかしそれにしたって、データの特性や強みも考えず採用するデータを取捨選択するあたりに、森さんの言うエンジニアリングの不在があったんだろうなあ、という印象は持ちます。
追記 10/1
その後道路データについて、@niyalistさんよりタレコミをいただきました。
https://twitter.com/niyalist/status/252448507720503296
道路データに関しては,MapFanの1/12500で出てくる道路データが,それ以上の縮尺でも使われている感じではないですか?MapFanでもこの縮尺までが,線データになっている気がします.
何!という事で調べてみると、
ほんまや…よう似てはるわ、瓜二つや…。
路地の数の違い、繋がりの違い、全部iOS地図で見られた違いと一緒です。
つまりは、道路データもiPC起源だったんだけど、小縮尺用に作られたデータを大縮尺にまで使っていたという感じだったようです。
このタレコミを受けての結論としては、
- データは結局ほぼiPC起源で、OSM起源データ等はよく判らなかった。
- とはいえ、小縮尺用データを大縮尺にも適用してるとか、よく判らない図郭のポリゴン落ちがあるとか、やはりAppleのデータハンドリングには大いに難あり。
という感じになりますでしょうか。
おまけ
YOLPの中の人の記事で、地図デザインエンジニアリングの大変さが話題になっているところですが、
私は地図デザインとかは傍目で見てただけで自分で取り組んだわけでも何でもないですけど、でも数年前は地図会社で働いていて、各社が切瑳琢磨して地図デザインが向上する現場を目にした事があります。
私が勝手に「暗峠戦争」と呼んでる出来事ですが*2、
国道308号にある暗峠の地図を比較してみた (2009-05-08)
上記の記事で、暗峠という「酷道」、国道なのに狭すぎて通行困難な道路の表現を採り上げて、「Yahooやアルプスの地図以外は、道幅の描き分けが国道、県道といった属性値に従って描かれているだけで、実際の道路幅に沿って描かれていない」という問題提起がなされました。
するとその後、Googleまで含め各社表示を改善していって、いまや国内の地図サービスでは、広域図はともかく詳細図では、暗峠の表現で「太い幅一定の国道」みたいな表現をしている地図はないと思います。
まさに各社が切磋琢磨して地図表現をブラッシュアップしていった一例なわけですが、ではその切磋琢磨を共有しなかったiOSの場合、どうなっているかというと、
(c) Apple
切磋琢磨で表現を磨いたiPCが提供した、道幅ギリギリまで迫る建物形状の下に、出自不明の道路データを国道属性に従って一律太さで描画してしまったので、道路の上に建物が大量にはみ出しているという、おかしな事になっています。
信貴生駒スカイラインと交わるところの、トンネル表現もありません。
こういうところ一つ見ても、時代を共有しなかったApple、そして日本にも技術者がいてそれなりの権限もあるGoogleと違い、シリコンバレー一辺倒でそこから世界を支配する発想のAppleが、何時こういう問題に気付いて同レベルの対応が出来るのか、等を考えると、まだ同レベルまでの改善への先は長いなあ、という気はします。