ノルドシェライフェの誘惑と安全の探求
2012年 10月 31日
BMWのM社は製品もリリースするが、
ドライブトレーニングを定期的に開催し、
世界の顧客に広く門戸を開放している。
まだ薄暗い朝一番に、
トレーナーのミーティングが開かれる。
今回のトレーニングで我々を担当してくれたのが
ヨルクだ。
BMW社で自動車開発に携わる傍ら、トレーナーを務めている。
そして更に凄いのは、
VLN(ニュルのシリーズ戦)でM3 GT4を操るバリバリの現役レーサーだ。
与えられたのはM3。
V8を搭載しあっという間に時速200キロオーバーの世界へ誘う。
素晴らしい機会に恵まれた。
このドラトレは精神修行そのものだ。
恐らく世界中で一番、
「今の自分」のためになる。
クルマを操ることより、
生き方を見直すチャンスにさえなる。
どんな優秀な人間でも、出来ると思っていることが出来ていなかったり、
素直に生きていると思っていても、我を張り人の言うことが聞けていないことがあるのではなかろうか。
出来ないことを素直に認め、
生き方を変えるくらいの気持ちで対峙すると、
スルリと一皮剥ける瞬間がある。
今回のドイツ訪問では、NBRを行動の中心に据え
数々の勉強を進めた。
その中でも「緑地獄」と称される聖地で、
自己の運転技術をゼロから見直す覚悟を持てたことは、
これから大きく役立つに違いないと思う。
一周20キロ以上ある北コースを9のセクションに分ける。
そこを繰り返し走る事で、
安全かつスムーズに速く走れる技術を磨く。
さて、
何事も言うことは容易くても、
実行するには苦難の道が数多く待ち受けている。
この様にツルツルのアスファルト路面を
場所によっては時速200キロ以上で走る。
この写真で解るように、
この路面はただ激しく走ることで磨かれた訳ではない。
アイデアルラインという、最も論理的な走行ライン上には、
度重なるブレーキングでこってりとゴムが塗り込まれている。
M3に装着されたタイヤも特別な物ではない。
前日にもあったトレーニングで痛めつけられても、
※その時のタイヤの状態
五分山以上あれば使用される。
しかも三次元の複雑な路面が、
いくつもの罠を仕掛けて待ち構えているから、
無理な走りでクルマを強引に操ると「あっ!」っと思った瞬間に破綻するだろう。
しかし、ここで多少なりとも覚悟を決め、
正確なトレーニングを受ければ、
70歳を過ぎるまでNBRを自分の庭のように走る事が出来るのではないかと考えている。
そして、その経験を糧にして
スバルの販売に少しでも多く寄与したい。
クルマの開発姿勢や販売方法に口うるさく意見を言う以上、
謙虚に自分の腕を磨き、耳年増にならいように心がけよう。
初めてニュルブルクリンクでクルマを走らせると、
これまで操っていたと思っていた自尊心はあっという間に崩壊する。
思うようにならないもどかしさだけでなく、
これまで習った「自動車教習」という日本の自動車文化の根幹すら怪しく疑い深い物になる。
ここはシュエーデンクロイツと呼ばれる、ニュルブルクリンクの中でも難しくて危ない場所だ。
このトレーニングは、
自分の目と足で大地に触れながら学習できるから、
他では味わえない素晴らしさがある。
スタートから5キロの看板が見える。
この場所の危なさは、タイヤの付けた黒いマークを見ればすぐ解るだろう。
更に目を凝らせば「魔物」が見えるはずだ。
一見、平らに見えるこの場所が複雑な起伏と左右の傾斜を併せ持つ、
特異な路面だと言うことが見てとれる。
良くある峠を攻めたときに出来た、
タイヤマークではない。
ここでドリフトを楽しむような狂気に満ちた人間は居ないからだ。
進入の方法が悪く、ここで破綻したらお終いだ。
黒くマジックで描かれた、明後日の方向に行くようなラインは、
全てその名残だ。
ヨルクのトレーニングにより最新の知識を与えられる。
彼は明るく陽気で素晴らしいトレーナーだ。
極めて解り易く、しかも体を使って教えてくれる。
その場所から、
後ろを振り返るとこちらに向かって長い下が見える。
「右の方から下って来ると、アスファルトの継ぎ目があるから、
そこでステアリングを真っ直ぐにして一気にここまで来い!」
時速200キロ以上でこの丘を駆け抜け、
ジャンプ。
前を見よう。
その後、着地してからブレーキで少し速度を調整するので、
アスファルト路面が黒いのだ。
そして先ほどのシュエーデンクロイツを過ぎて、
この下りコーナーに繋がる。
ここは、これまでの経験が全く通用しない場所で、
アクセル閉じて減速するのではなく
アクセルを踏み加速する方が安全に走れる。
なぜかを、極めて論理的に説明してくれる。
歩いて戻ろうと彼は言った。
そしてその先まで来ると、
おもむろに自分の選ぶべき走行ライン上に腰を下ろした。
そこに、まさしく車内から見る景色があった。
そして、この後、
「何を考え」、
「どこに注意し」、
「何をすべきか」と問うて来る。
考えあぐねていると、
「まっすぐ右に寄れ」
「飛ぶ前にブレーキングで速度調節」
と指示が出る。
そしてその理由を説明すると言って立ち上がり
歩き始めた。
見えてきた。
右側沿いに黒くタイヤ痕が続く。
そして更に前へと歩き続ける。
ここで着地点から先が真っ黒になっているのが解る。
もし右にピッタリついていないと、
ここを時速200km以上で通過してシュエーデンクロイツにさしかかったとき、
理想的なラインをなぞることが出来なくなる。
右へ寄れという理由はそこにあった。
ニュルブルクリンクでは雨か晴れかによってアイデアルラインが異なる。
全てのコーナーを最も理想的にクリアする能力を身に付けることが、
最も重要だと言うことが解った。
覚えた上で、自分を俯瞰的に見る。
そして常にその先を考えながら、
自分の位地を瞬時に判断する能力、
それがコースセッティングだ。
その上で、その判断を適切に行動に移す能力、
コーストラッキングが重要になる。
これを研ぎ澄まさないと、
ニュルブルクリンクでは安全かつ早く楽しく走ることが出来ない。
なぜなら、トレーニングで鍛えた上で、
沢山のクルマが混走する「激流」に身を置かねばならないからだ。
そこで必要な能力が、
コースアレンジといえる。
ここでは、
タイヤのグリップ力と
ステアリング操作に頼ったドライビングは「死」に直結することさえある。
これを聞くと、
そんなはずはない、それは運転の基本だろうという人がいると思う。
いると思うと言うより
そんな常識を知らんのかと憤慨する人さえいるのではなかろうか。
世界中から聖地でトレーニングを受けたいと願う人たちが集う、
この「運転講習会」は、
BMWの関連するドラトレの中でも最高峰に位置する。
オールドコースを使って極めて綿密なレクチャーを受けると、
そういう身に染み込んだステレオタイプ(固定概念)は霧散する。
ここはトータル20キロの中で最も速度が落ちる、
幅の狭い難しい場所だ。
ここでインストラクターは、
自身が編み出した極意を伝授してくれた。
「ここでは何を見て、どうすべきか」
と問われた。
師曰く、「ここを見ろ」
何のことか
さっぱり解らない。
すると
「ここなんだよ、ここだ」
指を指して熱くレクチャーを続けた。
何と白線と紅白の縁石が僅かに離れたこの場所が、
重要なのだという。
この様に左の前輪をすっぽりとこの中に入れれば、
次のコーナーに楽に進入できるというのだ。
人は出来る限り謙虚に生きる方が美しいと思うが、
煩悩を持ちすぎると、いつの間にかそんな心はどこかに消え失せる。
ニュルブルクリンクで禅を組むように「運転道」を極めることは、
何よりも優先すべき重要課題だろう。
最初のうち、
このポイントは凄く走り難かった。
怖いのではなく、どうブレーキで速度を落とし、どういう風にクルマを操れば、
2つのコーンを奇麗にかすめてラインを描けるのかさっぱり解らない。
(ちなみに、トレーニングの間、
全てのアペックス(頂点)にコーンが立ててあり、
コーナーが見極めやすくなっている)
ところが師の言葉を素直に受け入れてから、
極めて余裕を持って
この場所を駆け抜けられるようになった。
しかし、修行はまだ足りないようだ。
常に背後で走りを見守る兄弟子の丸山氏から、
「代田さん、ダメですっ。まだ気合いで曲がってます」
と厳重注意を受けたのだった。
ドライブトレーニングを定期的に開催し、
世界の顧客に広く門戸を開放している。
まだ薄暗い朝一番に、
トレーナーのミーティングが開かれる。
今回のトレーニングで我々を担当してくれたのが
ヨルクだ。
BMW社で自動車開発に携わる傍ら、トレーナーを務めている。
そして更に凄いのは、
VLN(ニュルのシリーズ戦)でM3 GT4を操るバリバリの現役レーサーだ。
与えられたのはM3。
V8を搭載しあっという間に時速200キロオーバーの世界へ誘う。
素晴らしい機会に恵まれた。
このドラトレは精神修行そのものだ。
恐らく世界中で一番、
「今の自分」のためになる。
クルマを操ることより、
生き方を見直すチャンスにさえなる。
どんな優秀な人間でも、出来ると思っていることが出来ていなかったり、
素直に生きていると思っていても、我を張り人の言うことが聞けていないことがあるのではなかろうか。
出来ないことを素直に認め、
生き方を変えるくらいの気持ちで対峙すると、
スルリと一皮剥ける瞬間がある。
今回のドイツ訪問では、NBRを行動の中心に据え
数々の勉強を進めた。
その中でも「緑地獄」と称される聖地で、
自己の運転技術をゼロから見直す覚悟を持てたことは、
これから大きく役立つに違いないと思う。
一周20キロ以上ある北コースを9のセクションに分ける。
そこを繰り返し走る事で、
安全かつスムーズに速く走れる技術を磨く。
さて、
何事も言うことは容易くても、
実行するには苦難の道が数多く待ち受けている。
この様にツルツルのアスファルト路面を
場所によっては時速200キロ以上で走る。
この写真で解るように、
この路面はただ激しく走ることで磨かれた訳ではない。
アイデアルラインという、最も論理的な走行ライン上には、
度重なるブレーキングでこってりとゴムが塗り込まれている。
M3に装着されたタイヤも特別な物ではない。
前日にもあったトレーニングで痛めつけられても、
五分山以上あれば使用される。
しかも三次元の複雑な路面が、
いくつもの罠を仕掛けて待ち構えているから、
無理な走りでクルマを強引に操ると「あっ!」っと思った瞬間に破綻するだろう。
しかし、ここで多少なりとも覚悟を決め、
正確なトレーニングを受ければ、
70歳を過ぎるまでNBRを自分の庭のように走る事が出来るのではないかと考えている。
そして、その経験を糧にして
スバルの販売に少しでも多く寄与したい。
クルマの開発姿勢や販売方法に口うるさく意見を言う以上、
謙虚に自分の腕を磨き、耳年増にならいように心がけよう。
初めてニュルブルクリンクでクルマを走らせると、
これまで操っていたと思っていた自尊心はあっという間に崩壊する。
思うようにならないもどかしさだけでなく、
これまで習った「自動車教習」という日本の自動車文化の根幹すら怪しく疑い深い物になる。
ここはシュエーデンクロイツと呼ばれる、ニュルブルクリンクの中でも難しくて危ない場所だ。
このトレーニングは、
自分の目と足で大地に触れながら学習できるから、
他では味わえない素晴らしさがある。
スタートから5キロの看板が見える。
この場所の危なさは、タイヤの付けた黒いマークを見ればすぐ解るだろう。
更に目を凝らせば「魔物」が見えるはずだ。
一見、平らに見えるこの場所が複雑な起伏と左右の傾斜を併せ持つ、
特異な路面だと言うことが見てとれる。
良くある峠を攻めたときに出来た、
タイヤマークではない。
ここでドリフトを楽しむような狂気に満ちた人間は居ないからだ。
進入の方法が悪く、ここで破綻したらお終いだ。
黒くマジックで描かれた、明後日の方向に行くようなラインは、
全てその名残だ。
ヨルクのトレーニングにより最新の知識を与えられる。
彼は明るく陽気で素晴らしいトレーナーだ。
極めて解り易く、しかも体を使って教えてくれる。
その場所から、
後ろを振り返るとこちらに向かって長い下が見える。
「右の方から下って来ると、アスファルトの継ぎ目があるから、
そこでステアリングを真っ直ぐにして一気にここまで来い!」
時速200キロ以上でこの丘を駆け抜け、
ジャンプ。
前を見よう。
その後、着地してからブレーキで少し速度を調整するので、
アスファルト路面が黒いのだ。
そして先ほどのシュエーデンクロイツを過ぎて、
この下りコーナーに繋がる。
ここは、これまでの経験が全く通用しない場所で、
アクセル閉じて減速するのではなく
アクセルを踏み加速する方が安全に走れる。
なぜかを、極めて論理的に説明してくれる。
歩いて戻ろうと彼は言った。
そしてその先まで来ると、
おもむろに自分の選ぶべき走行ライン上に腰を下ろした。
そこに、まさしく車内から見る景色があった。
そして、この後、
「何を考え」、
「どこに注意し」、
「何をすべきか」と問うて来る。
考えあぐねていると、
「まっすぐ右に寄れ」
「飛ぶ前にブレーキングで速度調節」
と指示が出る。
そしてその理由を説明すると言って立ち上がり
歩き始めた。
見えてきた。
右側沿いに黒くタイヤ痕が続く。
そして更に前へと歩き続ける。
ここで着地点から先が真っ黒になっているのが解る。
もし右にピッタリついていないと、
ここを時速200km以上で通過してシュエーデンクロイツにさしかかったとき、
理想的なラインをなぞることが出来なくなる。
右へ寄れという理由はそこにあった。
ニュルブルクリンクでは雨か晴れかによってアイデアルラインが異なる。
全てのコーナーを最も理想的にクリアする能力を身に付けることが、
最も重要だと言うことが解った。
覚えた上で、自分を俯瞰的に見る。
そして常にその先を考えながら、
自分の位地を瞬時に判断する能力、
それがコースセッティングだ。
その上で、その判断を適切に行動に移す能力、
コーストラッキングが重要になる。
これを研ぎ澄まさないと、
ニュルブルクリンクでは安全かつ早く楽しく走ることが出来ない。
なぜなら、トレーニングで鍛えた上で、
沢山のクルマが混走する「激流」に身を置かねばならないからだ。
そこで必要な能力が、
コースアレンジといえる。
ここでは、
タイヤのグリップ力と
ステアリング操作に頼ったドライビングは「死」に直結することさえある。
これを聞くと、
そんなはずはない、それは運転の基本だろうという人がいると思う。
いると思うと言うより
そんな常識を知らんのかと憤慨する人さえいるのではなかろうか。
世界中から聖地でトレーニングを受けたいと願う人たちが集う、
この「運転講習会」は、
BMWの関連するドラトレの中でも最高峰に位置する。
オールドコースを使って極めて綿密なレクチャーを受けると、
そういう身に染み込んだステレオタイプ(固定概念)は霧散する。
ここはトータル20キロの中で最も速度が落ちる、
幅の狭い難しい場所だ。
ここでインストラクターは、
自身が編み出した極意を伝授してくれた。
「ここでは何を見て、どうすべきか」
と問われた。
師曰く、「ここを見ろ」
何のことか
さっぱり解らない。
すると
「ここなんだよ、ここだ」
指を指して熱くレクチャーを続けた。
何と白線と紅白の縁石が僅かに離れたこの場所が、
重要なのだという。
この様に左の前輪をすっぽりとこの中に入れれば、
次のコーナーに楽に進入できるというのだ。
人は出来る限り謙虚に生きる方が美しいと思うが、
煩悩を持ちすぎると、いつの間にかそんな心はどこかに消え失せる。
ニュルブルクリンクで禅を組むように「運転道」を極めることは、
何よりも優先すべき重要課題だろう。
最初のうち、
このポイントは凄く走り難かった。
怖いのではなく、どうブレーキで速度を落とし、どういう風にクルマを操れば、
2つのコーンを奇麗にかすめてラインを描けるのかさっぱり解らない。
(ちなみに、トレーニングの間、
全てのアペックス(頂点)にコーンが立ててあり、
コーナーが見極めやすくなっている)
ところが師の言葉を素直に受け入れてから、
極めて余裕を持って
この場所を駆け抜けられるようになった。
しかし、修行はまだ足りないようだ。
常に背後で走りを見守る兄弟子の丸山氏から、
「代田さん、ダメですっ。まだ気合いで曲がってます」
と厳重注意を受けたのだった。
by b-faction
| 2012-10-31 14:57
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