プレイバック2024

アイドル“推し活”がDolby Atmosで盛り上がった! 大興奮で最高潮に幸せです by杉浦みな子

熱かった、映画版WEST.。個人的に、本編ラストで飛び出た“大興奮兄さん”というワードがツボでした

2024年もさまざまなトピックが生まれたオーディオビジュアル業界。しかしどんなに振り返っても、筆者の頭の中は、直近の“あの映画”の記憶で埋め尽くされている。

そう、「WEST. 10th Anniversary Live "W" -Film edition-」(以下、映画版WEST.)の記憶である。

11月22日から全国で劇場公開された本作は、男性アイドルグループ「WEST.」とWOWOWがタッグを組んで制作したオリジナルライブを映画化したもの。先んじてWOWOWで放送され、それを一部再編のうえ劇場でDolby Atmos上映された。

簡単に言うと、「アイドルのスタジオ収録ライブを、リッチな劇場用アトモスで満喫できる映画」なのだが、いや本当に良作だった。

「カメレオン」/WEST. 10th Anniversary Live "W" -Film edition- 【特別映像】

当初、2週間だけ上映予定だった映画版WEST.だが、途中から応援上映が解禁になったり、一部の映画館では12月半ば以降まで続映(!)されるという快挙を成し遂げた。映画館に“推し”の姿を観に行った観客から、いかに好評を博したかがわかる。

注目は、何気にDolby Atmos音声がそんな“推し活”を盛り上げていたことだ。オーディオビジュアル業界の片隅に生息する者として、この事象については語っておかねばなるまい。

……まあ要するに、この場を借りて「映画版WEST.最高だったよ」という話をしたいのです! では行ってみよう。

スタジオ収録のライブから溢れる“生のグルーブ感”

突然だが、筆者は“J-POP好き兼アイドル楽曲オタク”の属性持ちである。そんな流れで先日、ここAV Watchで「JBLイヤフォンで推し活しようぜ」という記事を書かせていただいた(なんだそりゃと思った方は以下記事をご覧いただければと※なお長文)。

そこで取り上げた、最近の“推しグループ”のひとつがWEST.だった。彼らの広い音楽性と高い歌唱力は、もはやアイドル楽曲の枠を超えた満足感を聴く者に与えてくれる。オリジナルメンバーのまま10周年を迎えた、中堅アイドルの力強さも魅力だ。

そして、ちょうど上述の記事を書いている途中で、映画版WEST.上映決定のニュースが飛び込んできたのである。タイムリーな流れにテンションが上がり、「これは熱いぞ」ってことで本作を観に行った。

「グランドシネマサンシャイン 池袋」で観てまいりました。近年はずっとグラシネ推しです

なお、アーティストの通常ライブをDolby Atmos音声で収録して、劇場上映するイベントはこれまでにもある(先駆けはサカナクションあたりだったような)。いわば、ライブの記録を劇場上映する取り組みだ。

しかし映画版WEST.は、それとはテーマが異なる。本作が収録するのは、観客を入れないオリジナルのスタジオライブ。公式パンフレットの中でWOWOWのプロデューサー・島本時氏が、RADIOHEADなどが出演した英国のスタジオライブ番組「From the Basement」のイメージを語ったことからもわかるとおり、コンセプチュアルに作られたライブ映像作品なのだ。

監督を務めたのは、映像作家の丹修一氏。J-POPアーティストのミュージックビデオを多く手掛けてきた人物である。丹監督の描くWEST.は、根底から“ロック”が滲み出ていて見応え抜群だった。

パンフレットの表紙もほんのりオールド&ロックに世界観が統一されててカッコ良い

JBLイヤフォンの記事でも書いたが、 WEST.は各メンバーの声質が個性的で、「ボーカルが7人いる」という表現がぴったりなグループ。今回の映画版WEST.も、まさにアイドルの枠を超えて「バンド演奏を背負う7人のボーカル」が映っていた。

特にすごいと思ったのは、7人のパフォーマンスから“生のグルーブ感”が溢れていたことだ。もちろん編集やミックスの妙はあるだろうが、そもそも観客を入れないスタジオライブでグルーブ感を生むのは相当大変だと思う。しかし本作は、最初から最後まで全21曲、音も映像も“熱”が途切れる瞬間がなかった。

Dolby Atmosで推し活が盛り上がるムーブ

そして、Dolby Atmosである。本作がWOWOWでの放送だけに終わらず、映画として劇場公開されたことの価値。その要素の一つに、劇場用Dolby Atmosによる高クオリティ音声での上映があるのは間違いない。

特に、普通のバンドなどではメインボーカルはひとりだが、本作は歌い手が7人いるからこそ、Dolby Atmosの位置情報(オブジェクト)が生きていた。基本は自然に、Dolby Atmosフォーマットによる没入感のある音声にミックスされていて、楽曲によって各メンバーの声の位置がよりわかりやすかった印象だ。

(↓本作を宣伝するドルビージャパン公式Xアカウントもバズってた)

しかも熱いのは、WEST.のファンの方々が「映画館で⚪︎⚪︎さんの声を体験するなら、この辺の席がオススメ」「次回は△△さんの声を聴きたいので、左後ろの席で観てみます」と、SNS上で盛り上がっていたこと。これ、Dolby Atmosで推し活がより盛り上がるムーブが起きていたと思う。

「スタジオ収録のライブ映像作品を劇場上映する」というフォーマットは、本作を一つの成功例として、今後さまざまなアイドルにも展開される可能性があるだろう。いちオタクとして非常に楽しみだ。

ただ、Dolby Atmosを生かした音声演出までは、全てのアイドルが真似できるものではないかもしれない。この点、グループ全体の歌唱力が高いWEST.は強く、リッチな演奏に歌が負けていなかった。

上映終了後、ひとりのJ-POP好きとして「これはもう1回体験しておきたい」と思い、実はおかわりしてもう一度観に行ったくらいだ。しかも2回目は応援上映で、7色のペンライトが揺れる客席に潜り込ませていただいた。すごく楽しかった。

20年以上前の青春が、まさか今のWEST.に繋がるとは……

さて、映画版WEST.の振り返りは概ね以上。ここからは、個人的な思い出語りになる。

実は筆者、丹監督のお名前を見て「何となく見覚えがあるような?」と思い、本作を鑑賞前に過去作を調べてみたのだ。……で、盛大に仰け反った。自分が10代の頃に聴いていた、J-POPの有名な楽曲PVばかりわんさか出てきたからだ。

THE YELLOW MONKEY、黒夢、BLANKEY JET CITY、LUNA SEA、MY LITTLE LOVER、Mr.Children……と、一部アーティスト名を挙げるだけでも錚々たるメンツ。「太陽が燃えている」「Like @ Angel」「小さな恋のメロディ」「gravity」「DESTINY」「ボレロ」…… マジか。全て丹監督の作品だったのか!

そう自分は20年以上前、まさに音楽に目覚めた10代の頃、丹監督の音楽映像を観て育っていたのだ。まさかその青春時代の延長線上に、今のWEST.が繋がってくるとは……。

特に丹監督の作品の中でも、hide with Spread Beaverの「ROCKET DIVE」と「ピンクスパイダー」のPVは忘れもしない。あれは1998年、筆者が中学3年時のこと。映画的な世界観とクオリティで絶賛された「ピンクスパイダー」はもちろん、ブルーがかった画面にhideのピンク髪が映える「ROCKET DIVE」の“無重力ポジティブ感”も大好きだった。ていうか、今観ても好きしかない。

言われてみれば、今回の映画版WEST.でも、「証拠」という楽曲の冒頭でライティングが少しブルー(白?)寄りになった一瞬の画に、あの頃の匂いが漂う気がする。

WEST. - 証拠 from WOWOW presents WEST. 10th Anniversary Live "W"

何だろうコレ。あえてエモい言い回しをすれば、自分の青春が実は今も続いていたことに気づいたというか……。映画版WEST.のおかげで、そんな熱い気持ちで2024年を締めくくることになった。まさに大興奮で最高潮に幸せです。

Dolby Atmosでの円盤化か配信希望

さて、最後に。アイドルのスタジオ収録ライブを高クオリティに楽しめるDolby Atmosコンテンツとして、少なくとも筆者の中で、映画版WEST.はひとつの“音声的ベンチマーク”になりそう。なので、本作がDolby AtmosクオリティでBD(UHD BD)化、またはサブスク配信されることを願ってやまない。

そういえば「男性アイドルとDolby Atoms」というキーワードで言うと、2024年は嵐やSnow Man、King & Princeなどの音源がDolby Atmos(空間オーディオ)でサブスク配信されたりもしたし、2025年も色々と展開が期待できるかも。

個人的にも、「お家で映画版WEST.のDolby Atmos音声を楽しむにはどうすれば良いの?」という記事を書く心の準備(あくまでも心のみ)はできているので……円盤化か配信、ぜひお願いします! 最後まで援護させてください。

杉浦みな子

オーディオビジュアルや家電にまつわる情報サイトの編集・記者・ライター職を経て、現在はフリーランスで活動中。音楽&映画鑑賞と読書が好きで、自称:事件ルポ評論家、日課は麻雀……と、なかなか趣味が定まらないオタク系ミーハーです。