麻倉怜士の大閻魔帳

第60回

ネットワークオーディオにノイズ対策は“マスト”。'24年印象的だった製品/サービスたち

2024年に登場した製品/サービスから、麻倉怜士氏が実際に触れたものから、特に印象的だったものを紹介していく年末恒例の連載。先日はオーディオ10選を前後編でお届けしたが、今回はカメラやスマートフォンなど、オーディオ以外のアイテムも含めて印象的だったものを5つピックアップして紹介する。

Google「Pixel 9 Pro」

――前回はオーディオ製品にフォーカスして“2024年印象的だった10選”を紹介していただきましたが、今回はテレビやカメラ、プロジェクターなどビジュアル関連のアイテムも含めて印象的だったものを5つ選んでいただきました。まずはGoogleのスマートフォン「Pixel 9 Pro」です。

左から「Pixel 9 Pro」、「Pixel 9 Pro XL」

麻倉:もはやAIに関わらない機器はないと言っても過言ではないほどの“AIブーム”が巻き起こっています。なかでもスマートフォンはAIがもっとも効果的に活用されるデバイス。特にPixelシリーズは、AI開発の“本元”であるGoogleが開発する端末ですから、スマホにおけるAI活用の最先端ショーケースとなっています。

AIが活用されているジャンルはふたつあり、ひとつは写真です。写真に関しては、2021年のPixel 6から登場した「消しゴムマジック」や2023年のPixel 8で投入された「生成」機能。音声については、こちらもPixel 8で初お目見えとなった「音声消しゴムマジック」などがありました。

撮影者(左)を先に撮影しておき、集合写真が撮れる「一緒に写る」機能

最新のPixel 9シリーズはさらに面白い。写真では、撮影者も一緒にフレームに入れるようになったのです。当たり前ですが、写真を撮影する人は、その写真に写ることはできません。でも「一緒に写る」機能では、交代して撮影することで、自分が写真フレームに“入れる”のです。

具体的には、自分用のスペースを空けて写真を撮り、次にスマホを今写真に写った人に渡して、自分はその空けたスペースに入る。スマホを受け取った相手は画面に表示されているフレームに合わせて写真を撮るだけです。

あとはAIが写真を合成してくれて、相手と自分が横に並んだ写真が完成します。とても簡単ですし、“いかにも合成しました”という痕跡もまったくありません。まさに編集マジックですね。

もうひとつの写真AIが、構図を自動で調整して、切り抜き位置を提案する「オートフレーム」機能。例えば高いビルを撮影した際、上部が切れたり、周りに余計なものが映り込んでいても、ビルの上を生成し、周りをすっきりさせた候補写真を数枚、提示してくれます。

そして写真に続くAI活用が、今まさに主流の生成AI。旧称「Bard」から名前を変えた「Gemini」は、これまで文字でやり取りするアプリで展開されていましたが、Pixel 9では日本語を含む自然言語で対話できるGemini Liveが加わりました。

Gemini Liveの会話は文字でも記録されているので確認も簡単です。もちろん、Pixel 6から投入されているボイスレコーダーの高性能文字起こし機能も健在で、音声を録音しながら、リアルタイムでかなり正確な日本語の文字データが得られます。

こういった文字起こしは、以前は録音データを実際に聴きながらタイピングして文字にしていましたが、だいたい実時間の3倍はかかっていました。それがPixelを使えば必要最低限の直し作業で、記事などに使える日本語の文字データが得られます。だから私は仕事に生活に、毎日Pixel 9 Proを使っています。

――発表会などを取材していても、今ほとんどの記者/ライターはICレコーダーではなく、Pixelを使っているイメージで、私たちにとっても仕事に欠かせない道具になっています。

パナソニック 65型4K有機ELテレビ「TV-65Z95A」

――続いては、パナソニックの2024年型有機ELテレビの最高峰モデル「Z95A」シリーズです。AV Watchで実施しているテレビアワード「AV Watchアワード」でも今年の有機EL大賞モデルになりました。

65型4K有機ELビエラ「TV-65Z95A」

麻倉:どの時代においても、パナソニックは“画質の頂点”のポジションをキープしています。映画を映画らしく観るという“ミドル・オブ・ザ・ロード”を堂々と歩んでいるわけです。

高画質な理由は数多くあります。まずはパネルの使いこなし。パナソニックはLGディスプレイのWRGBパネル最新世代を2022年のeXパネル、'23年のMETAパネル、そして今年のMETA 2パネルと、いち早く搭載してきています。

同じMETA 2パネルを使っているLG電子の最新最上位モデル「G4」シリーズは基本的に非常に明るい映像で、パネルが持つピーク輝度や平均輝度の高さを、そのまま画作りに活用しています。

一方で、パナソニックはそんなLGとは違う道を行っています。それはアートと言っても過言ではないほどの“階調コンシャス”です。

映像を観ると「レンジの広さも大事だけど、その中に含まれる実際の階調数こそ枢要である」という姿勢であることを痛感させられますね。

階調表現は、昨年モデルのMZ2500でも優秀でしたが、Z95Aではさらに向上していて、暗部の中のもののうごめきや色のバラエティなど、階調に関わる部分が、より緻密になりました。

「表現力」はパナソニックの有機ELテレビの基本的なキーワードではありますが、新モデルは表現の豊穣さがさらに増しています。過度に黒を沈めたり、白を伸ばしたりする、極端な表現には決して走らない。「どんなパネルでも最高に使いこなしてみせる」という貫禄と懐の深さを感じました。

リコー「PENTAX 17」

――続いてはカメラ。ですがデジタルカメラではなく、今年発売されたハーフサイズフォーマットのフィルムカメラ「PENTAX 17」を選ばれました。

「PENTAX 17」

麻倉:PENTAXブランドとしては約20年ぶりに登場したフィルムカメラです。発売とともに話題と人気が沸騰し、一時は受注停止を余儀なくされるほどでした。

実際に手にしてみても、使いやすいし、自分の意思が入るカメラだと思います。フィルムを巻く作業やフォーカスを合わせる作業など、ひとつひとつの手順が“人間的”なのです。

今はデジタルカメラ、なかでもスマホのカメラが主流で誰でもきれいに撮影できるのが当たり前。しかし、このPENTAX 17は違います。マニュアルフォーカスですし、被写体との距離に応じて設定を変えるゾーンフォーカスなので失敗することもあります。でも、それが良い。

なぜ、このデジタル全盛の時代にフィルムカメラなのか? と思って、リコーイメージングのPENTAX事業部商品企画兼デザイナーの鈴木タケオ氏に話を聞きました。

鈴木氏によれば「市場を調べてみると、中古のフィルムカメラを買う若者が増えていることが分かりました。でも、いざ撮影という時に故障したという話も聞きました。それなら、新しくフィルムカメラを作れば、若いユーザーさんに安心して使って頂ける。そんな思いで、2022年の末にフィルムカメラプロジェクトをスタートさせました」とのこと。

ここで大事なのは、新しいユーザーに向けた新フィルムカメラを作ろうとしたこと。懐古的に“昔は良かった”から、昔の機種をそのまま復刻したり、昔風のカメラを作るのではなく、今のユーザーに即した、“新時代のフィルムカメラはどうあるべきか”を徹底的に検討して開発したのが、PENTAX 17なのです。特にフィルムカメラに初めて触れる若者が“マニュアルの楽しさ”を感じられる演出もされています。

その象徴が縦構図。「昨今のSNSでは、縦構図がデフォルトなので、そのトレンドに合わせました。スマホを日常的に使うユーザーさんにとってとても相性がいい構図です。現像したフィルムをデジタル化してSNSでやりとりする時も、若いユーザーにとって親和性が高いのです。カメラは横長ですがファインダーは縦です」と鈴木氏は言います。

縦構図だから、必然的にハーフサイズフォーマットになり、カメラをそのまま構えて取ると縦写真になります。またハーフサイズになると規定枚数の2倍(36枚撮りフィルムなら72枚)撮影できるので、経済的なメリットも生まれます。

かつてのフィルムカメラの時代に比べ、今はフィルム価格が高い。1本2,000円くらいしますよね。しかも初心者は失敗も多い。だから倍の枚数が撮影できるのは、メリットしかないわけです。

JVCケンウッド「DLA-V900R」

――残りふたつとなりました。続いてはプロジェクター。JVCケンウッドが6月下旬に発売したD-ILAプロジェクター「DLA-V900R」です。

「DLA-V900R」

麻倉:8Kプロジェクターの歴史を作ってきたビクターですが、ここまでハイクオリティな8K映像を実現するなんて、誰が想像したでしょうか。2021年11月発売の「DLA-V90R」の8K高画質に圧倒されていたら、ナンバーのケタがひとつ上がったDLA-V900Rは、さらに“アドバンス”してきたのです。

技術的には液晶の配向制御性と画素の平坦化を追求した第三世代の0.69型4Kデバイス、第二世代の8K/e-shiftX、そして新規の超解像処理がポイントです。

従来から親しんできたリファレンス映像が一皮も二皮も剥けた映像になった。ビコム「スカイウォーク」では、横浜駅や渋谷駅の手前の大きなビルが、ハイテンションにキラキラと輝くのと同時に、背景の暗黒の住宅街でも小さな灯りが煌めき、集まっている様子が分かります。光と闇の解像度が格段に向上し、色数も増えました。

「宮古島」のチャプター4。東平安名崎灯台を遠くに臨む岩群の精密な描写、凸凹のディテール感も新鮮です。

そして見慣れた映画「マリアンヌ」のチャプター2、夜のカサブランカシーンも車表面の鮮やかな反射とツヤ感、車越しに見える建物のネオンのピーク感と色合い……など、実に生々しい。エンハンス(高域強調)と超解像のミックスが効き、艶々した美質感になっていました。

「Qobuz」

――いよいよ最後です。2024年を締めくくるのは紆余曲折を経て、10月24日に正式ローンチされた音楽配信サービスの「Qobuz」です。

麻倉:やはり音がものすごく良いです。圧縮ファイルとFLACファイルの違いも分かりやすいですし、TIDALと比べてもQobuzのほうが良い場合が多い。MQAはありませんが、リニアPCMとしては世界最高峰だと思います。

また、オーディオ製品との親和性が高い点は見逃せません。音楽配信サービスとしてはAmazon MusicやApple Musicが人気ですが、こういったサービスはスマホベースですよね。

それに対してQobuzは、ヤマハのMusicCastなど、オーディオ製品にビルトインされているものが多く、幅広い機器に対応しています(デノン・マランツのHEOSはまだ非対応)。その上、音がいい。ただ、その“真価”を発揮するには、再生側での工夫が必要ですけどね。

――そういえば、普段見かけないLINNのプレーヤーやLANケーブルが設置されていますね。あと前回お邪魔したとき、愛用のJBLスピーカー「K2 S9500」はドライバーがごそっとなくなっていて内部が丸見えの状態でしたが……。

前回取材で麻倉邸を訪れたときの1枚。JBLスピーカーの様子が……

振動板のエッジ部分が劣化していたため、交換修理に。K2 S9500の内部を見られる貴重な機会となった

麻倉:K2は振動板のエッジ部分のゴムが劣化してきていたので、振動板の交換をしていました。新品同様になったら、聴いたことないくらいの低音が出るようになりました。今年のNo.1はこれですよ(笑)。

今までボンヤリしていたサウンドが、とてもシャキッとして、JBLらしいサウンドが蘇りました。最近のヨーロッパ系スピーカーは“音場重視”という雰囲気ですが、これは音像がグっと前に出てきます。

交換を終えてK2 S9500が復活

1989年に買ったので、もう35年目。35年目でこんな音が出るとは思いもしませんでした。「松任谷由実/中央フリーウェイ」を聴いてみても、こんなにも緻密な構成の楽曲だったのかと驚かされます。高音もシャキッと伸びます。もちろん、音源として使っているQobuzの音が良いのも影響していますが。

アンプはZAIKAの「845プッシュプルアンプ」
「Akurate DS/K/2」

ネットワークプレーヤーは2010年発売のLINN「Akurate DS/K/2」を引っ張り出してきました。14年前といえばハイレゾコンテンツもちょっとしかなくて、まだCDからのリッピングが主流だった時期。PCオーディオの本を書くときに入手しましたが、正直、当時聴いたときは音が良くなかったので、そのまま使わなくなっていたものです。

ただ発売から14年も経っているとソフトウェアアップデートも複数配信されていて、それを適用したら驚くほど音が良くなりました。プレーヤー自体のポテンシャルはあったわけですが、当時はソフトウェアがあまり良くなかった。それがアップデートで改善された形ですね。

バージョンアップする前は、極端に言えば「MP3か」と思うような音でしたが、それが比べ物にならないくらい良くなっています。

English Electricのスイッチングハブ「8Switch」

あと、ネットワークプレーヤーへのLANケーブルは直挿しではなく、ノイズ対策品を経由させています。CHORD COMPANYのサブブランド・English Electricから発売されているスイッチングハブ「8Switch」とスイッチングハブとプレーヤーの間に噛ませるノイズ対策デバイス「EE1」です。LANケーブルもCHORD COMPANYの「Shawline Streaming LAN」を使っています。

「EE1」
「EE1」はスイッチングハブとネットワークプレーヤーの間に使うと特に有効だという

先程も述べたように、Qobuzはこれまでのオーディオ機器との親和性がとても高いし、音が良い。今まで聴いたことのない、しっかりした音が楽しめます。だからこそ、プレーヤーのほうで頑張ってあげるともっと良くなります。

LANケーブルはCHORD COMPANYの「Shawline Streaming LAN」

ただ、例えばPCオーディオの場合、しっかりとしたオーディオボードの上に置いたり、ノイズ抑制シートを使ったりなど工夫の余地がありますが、ネットワークプレーヤーはあまり余地がない。そこでこういったネットワークノイズ対策品の出番です。こういったものを使うと、格段に差が出てきますね。

ネットワークオーディオは、ノイズがものすごく入ってくるので、それをいかに取り除いてあげるか。そういったところを攻めると、音源の良さが出てきます。

――音楽配信サービスが主流となっている今、インシュレーターなどと同じ感覚でネットワークプレーヤーに音質改善アイテムを使うというのは、自然な考え方かもしれません。

麻倉:ノイズ対策はマストですよ。ネットワークオーディオは入ってくる信号が“汚すぎる”ので、プレーヤー本体だけでは実力を発揮できません。その信号を綺麗にしてあげるという発想は絶対に必要だと思います。

高品位なCDプレーヤーやBlu-rayプレーヤーなどは、はじめからノイズがないことが前提になっていますが、PCオーディオやネットワークオーディオは、ノイズがものすごく多いということを前提にして、「じゃあ、それをどう対策するか」を考えないといけません。

Qobuzもプレーヤー本体だけでは、いまひとつ魅力的ではなくて、自分でも対策品を使ってみて、改めて痛感しました。

番外編その1:キングレコード「SACDハイブリッド『伊福部昭SF特撮映画音楽の夕べ』実況録音盤」

SACDハイブリッド「伊福部昭SF特撮映画音楽の夕べ」実況録音盤

麻倉:番外編として、SACDとミニコンポを紹介させてください。SACDはゴジラ生誕70年、伊福部昭生誕100年記念企画として発売された「『伊福部昭SF特撮映画音楽の夕べ』実況録音盤」です。これは1983年に日比谷公会堂で行なわれた伊福部昭さんのコンサートの実況録音盤をSACDとして復刻したもの。実は私、このコンサートを現地で観覧していたんですよ。

――そうだったんですか! まさに「当時の記憶が蘇る」感じですね。

麻倉:'83年というのはCDの黎明期で、この公演はデジタル録音だけでなく、テープレコーダーによるアナログ収録もされていたそう。それによって、SACD化が実現したわけです。

小学生のころ、私は東宝特撮モノが大好きでした。ゴジラは世代的にちょっとズレているんですが、「地球防衛軍」などが大好きで、登戸にあった映画館「登戸銀映」で何度も観ましたよ。そのときから伊福部さんは好きでした。

当時、クラシック音楽界では、映画音楽を数多く手掛ける伊福部さんは“異端”な存在で、なかなかちゃんとしたコンサートは開けなかった。この'83年の公演は東京交響楽団とのコンビネーションがようやく叶ったという公演でした。

このSACD、もちろん音が良いです。録音が素晴らしいですね。日比谷公会堂はそこまで響きがある会場ではありませんが、その響きをきれいに捉えているし、レンジも広い。すごく新鮮でした。

盤面はLPを思わせるデザイン
盤面の溝は触ると凹凸感がある

またディスク自体も凝っています。盤面デザインはアナログレコード風になっていますし、触ってみると、盤面にレコード風の凹凸が掘られているのです。

以前の連載でも取り上げたSACDディスクのデザイン違い

以前の連載でも紹介しましたが、SACDは盤面の色や塗る順番で音が変わるので、そこにこだわっている製品は多い。一方で、こういったデザイン性に振ったものは珍しい。

――こういった仕掛けがあると、モノとして所有する楽しさ、喜びも増しますね。

麻倉:音楽配信サービスが流行っている時代でも、手に持つ喜びというのは大事。配信サービスは便利ですが、ややもすれば音楽が味気ないものに感じてしまいます。私は作り手でもあるので、ものすごく苦労して作っているのに、私も含めた聞き手は“いい加減な態度”で聴いていることがあるなと、改めて気付かされました。

番外編その2:日本ディックス「マイクロコンポ」

Pentaconnブランドのスピーカー「PA2-a01PC」

麻倉:ミニコンポは日本ディックスのコンパクトスピーカーです。クラウドファンディング中ですが実機を借りていて、かなり良い音がするんですよ。

――日本ディックスといえばイヤフォンやヘッドフォンのプラグ/ジャックでおなじみの「Pentaconn」を手掛けているメーカーですよね。ついにスピーカーも展開するんですか。もはや“ミクロコンポ”とでも呼ぶべき小ささですね。

麻倉:ここまで小さなスピーカーは市場に存在しませんよね。いわゆるコンパクトスピーカーとなるとPC用のサイドスピーカーくらいなもので、正直なところ質もあまり良くないものが多い。ところが、このスピーカーには音に品格があるのです。

この「マイクロコンポ」は50mm径のフルレンジドライバーを搭載した1ウェイバスレフ型です。物理的には極小ユニット、小エンクロージャーなので、オーディオ的な条件は厳しく、確かに低域は少なくて、ボリュームを上げると歪みが出てきてしまいますが、それ以下のスイートスポットの範囲内ならば、とてもクオリティの高い音が楽しめます。

Astell&KernのDAP「A&futura SE300」をアナログ接続して聴いてみたところ、例えば「チーク・トゥ・チーク」はハイまで伸びたボーカルの端正さ、雑味の少なさ、鮮度の高さ、そしてピアノの響きの美しさが印象的でした。ほかにも「ベッド・ミドラー/The Rose」は、ボーカルのニュアンスがグロッシーで情感豊か。こんなに小さなスピーカーなのに、オーケストラも心地良かった。

音質的クオリティというよりも、そこに臨場感があって、歌モノだと人物が、オーケストラならミニチュア楽団が見えるといったところでしょうか。

――スピーカーの中央にアクリルスタンドなどを置けば、“卓上コンサート”が楽しめそうです。

麻倉怜士氏の“推し”、松田聖子のアクリルスタンドと組み合わせてみた

麻倉:こだわっているのが、木製のエンクロージャーを使っていること。材質はヒノキで、木の響きがきれいに鳴ります。こだわっている分、通常販売価格は165,000円と、それなりにするのですが(笑)。とにかく気持ちの良い、クリアな“エモ”があります。

超小型高級スピーカーとも言える、新しいカテゴリの製品だと思います。小さければ“安かろう悪かろう”となるところですが、値段も音も、エンクロージャーの作り込みも本気。小さな高級車といった印象です。

――値段はともかくとして、こういった製品をきっかけに、オーディオ入門向けの製品がヘッドフォン、イヤフォンから、コンパクトな卓上スピーカーに変化していくと、よりオーディオの魅力を味わってもらえそうです。

麻倉:イヤフォンやヘッドフォンなど“耳で音を聴いてきた”人たちに、空間で音を聴くという習慣をつけるきっかけになって欲しいと思います。デスクトップだけでも高級な音を楽しめる場所にしてみてもらいたいです。

麻倉怜士

オーディオ・ビジュアル評論家/津田塾大学・早稲田大学エクステンションセンター講師(音楽)/UAレコード副代表