イナゴの群れは夏には中国に到達! というクソみたいなデマが流されるので、もう少しバッタについて説明する
ヤフーニュースでデマを流したアホタレがいたのでカチンときて、一周回ったあと笑顔で「うん、よし、ならもうちょっと書き足しておくか!!」って思ったので書いておく。
【以下は事実誤認を含む要注意記事です】
コロナに続くもう一つの危機――アフリカからのバッタ巨大群襲来
https://news.yahoo.co.jp/byline/mutsujishoji/20200307-00166447/
*****************************************************
★ここが間違い!
・アフリカから飛来し、各地で農産物を食い荒らしてきたバッタの大群が、中国西部にまで接近している
→今アジアにいる奴らはアフリカからは来ていません。パキスタン周辺で繁殖してます。
・パキスタンの北東には中国の新疆ウイグル自治区がある。つまり、バッタの大群は西からの風に乗って中国にも押し寄せる可能性がある
・中国を突き動かすバッタの大群
→途中の山脈を越えられないので、サバクトビバッタは中国には行けないです。
※これについて、以下の記事で「ルートがある」と言ってきた人がいます。風にあおられるなどして一部が辺鄙なところに到達することはあり得ますが、侵入したとして定着・繁殖できるかは別問題。繁殖できなかったらすぐ全滅しますし、途中に氷点下の地点があっても、そこで全滅します。限りなくゼロに近い可能性を煽ってどうしますか。
https://www.rieti.go.jp/jp/papers/contribution/fuji-kazuhiko/147.html
・大発生は、新型コロナとほぼ時を同じくして始まった。
→もっと前から始まってます。大規模なニュースになったのが今年に入ってからというだけです。
*****************************************************
[>前回の解説分
イナゴの群れが中国に到達! というクソみたいなデマが流れていたので、バッタの進行の見方を解説する
https://55096962.seesaa.net/article/202002article_20.html
*****************************************************
前回記事にはあまり明確に書きませんでしたが、バッタは大量発生して群れになると色が変わって戦闘力が上がります。
ちなみにイナゴは大量発生しても色や生態は変わりません。なので日本語では「蝗害」と「イナゴ」の字が充てられますが、実際には蝗害を起こすのはバッタのみです。ややこしいですがここ大事なので覚えておいてほしいです。
蝗害を起こすのはバッタ。
地域によってバッタの種類が異なり、アフリカではサバクトビバッタ、中国や日本ではトノサマバッタ。
これ↓が「孤独相」と呼ばれる、単品で生活している通常時のサバクトビバッタ。
これ↓が「群生相」と呼ばれる、群れになって暮らしている時のサバクトビバッタ。
群れになりすぎてイラついているため攻撃的なうえに、普段食べないものまで全部食いつくすヤバいやつら。飛翔力が上がり、卵産んでサクサク死んでサクサク増殖するフィーバー状態です。
※写真出展元はココ
https://forbesjapan.com/articles/detail/32395/3/1/1
蝗害というと全ての緑を食いつくすのが怖いと思われがちなんですが、一番怖いのは「成熟するまでのサイクルが早く、卵産んでどんどん増える」ってことだと思います。「夏にはバッタが400倍になる!」とか騒がれていたニュースもあったと思いますが、何で400倍かというと1匹のメスから生まれる次の世代が約20匹だからなんですよ。2世代繰り返すと20×20=400。「繁殖を止められなかった場合は夏までに2世代繰り返す」ので1匹から400匹くらいまで増える可能性があるぞ、という意味。なお、繁殖までのサイクルが短いだけで、死亡率自体は群生のほうが高いようです。
※図の出典元はこの論文
MAS を利用したバッタの発生モデルと群生相の発生原因に関する考察
https://mas.kke.co.jp/wp-content/uploads/2020/01/%E8%AB%96%E6%96%87%E3%80%80MAS%E3%82%92%E5%88%A9%E7%94%A8%E3%81%97%E3%81%9F%E3%83%8F%E3%82%99%E3%83%83%E3%82%BF%E3%81%AE%E7%99%BA%E7%94%9F%E3%83%A2%E3%83%86%E3%82%99%E3%83%AB%E3%81%A8%E7%BE%A4%E7%94%9F%E7%9B%B8%E3%81%AE%E7%99%BA%E7%94%9F%E5%8E%9F%E5%9B%A0%E3%81%AB%E9%96%A2%E3%81%99%E3%82%8B%E8%80%83%E5%AF%9F.pdf
現在のアフリカ、アラビア半島の大発生は、上記の図の中の「産卵・繁殖」大成功→yes→「産卵・繁殖」大成功 の処理をループでずっと辿っているバグったプログラムみたいなことになっていて、どこかで止めないといかんのですが…。
人間の手で止められない場合は、自然界のリセットに頼ることになります。
自然界には以下の強制終了システムが実装されています。
・乾季
・冬
以上。
お分かりのとおりバッタは昆虫なので、真冬に繁殖するとか、数カ月も雨が降らない乾季とか、カラッカラに乾いた砂漠のど真ん中で卵産んで繁殖することかは出来ません。
今回は、おととし・去年と雨が降りすぎて乾季リセットがスキップされてしまったために増えすぎているという状況なのです…。
というわけで、このバッタの害はほっといてもいずれ必ず終わります。ただ、農作物の育つ夏までに抑制できないと直撃を食らって作物が全滅してしまうので、今、必死になっているということ。(春作物は既に壊滅状態) そしてどうやら間に合わなさそう。(´・ω・`)
世界的なニュースになりはじめた今年の頭時点では、もう、ラストチャンスの時期に入っていたんですよ。
なので今さらドヤ顔で「コロナ対策に金をとられたせいでバッタに対応できていない」とか、君何言うとんねん状態。そうじゃねぇ。去年の秋時点で対策出来てなかった時点でとっくに負け戦だったわ。
そう、何度も言うけど、このバッタの害、べつに年明けてからスタートしたわけじゃないんですよ。
まずは去年からの過去履歴を見て欲しい。
見方はこちら
2019年1月
アラビア半島と紅海沿岸にバッタの群れがいることが分かる。
前年から持ち越し分。だがこの時点ではまだそんなに数は多くない。
2019年2月
イエメン参戦。
実は今回の大規模な蝗害は、内戦中でバッタの撲滅が全く出来ていないイエメンが良好な増殖地帯になっているのも起因している。
他の国でどんなにバッタの群れを叩いても、イエメンで繁殖したやつらが20倍になってまたやって来るという無限ループ。
2019年3月
この時点でパキスタンにも群れが到達している。
2019年4月
イエメンからサウジアラビアへの追いバッタ、ペルシャ湾沿いのバッタはイラン高原を越えられないためパキスタンへ。
2019年5月
気温が上がり始めたため北の方にもバッタが展開し、ヨルダン渓谷にも出現。一部エジプトへ。アラビア半島から各地へ飛散していく様子が分かる。
2019年6月
イエメンからエチオピア、エリトリアなど東アフリカへバッタの群れが到達。ここまで流れを見てきて分かったと思いますが、今騒がれている東アフリカとパキスダン周辺のバッタの群れは、アラビア半島で繁殖して、このあたりで東西に分かれた奴らの子孫です。
エジプトにバッタ来てますがこの頃なら麦の収穫終わってるのでセーフ、ギリギリセーフ。(たぶん)
2019年7月
相変わらずイエメンが対処出来ていなくて一大繁殖地と化している…。
そしてパキスタンとインド国境ももうこの時点でバッタの群れだらけですね。
2019年8月
前年に雨が多かったのはアラビア半島・紅海沿岸だけなのでアフリカ内陸部や西アフリカは平穏。
2019年9月
産卵/幼体のマークが増えて、東アフリカとパキスタン~インド間で世代交代が完了しようとしています。孵化すると20倍に増えます。
今回の蝗害の本格的なスタートはこのあたりからです。
コロナと同時に始まった、とかしゃあしゃあと言っちゃう人はよく見ててください。ニュースにならなかっただけです…ここからです。
2019年10月
それぞれの繁殖地から、成長して羽根の生えた連中が順次、展開されていきます。
2019年11月
パキスタンから出発した群れが、中国方向には向かわずに山脈に沿って北上していくのもわかると思います。
また東アフリカの群れはエチオピア高原を回り込むようにして移動します。こいつら高い山は越えられないんですよ、何度も言ってるけど。
2019年12月
パキスタンの群れは海を越えました。
東アフリカの群れはアフリカ内部と紅海沿いに移動しています。
2020年1月
そしてこの状態に。
世界的なニュースとして目に触れるようになったのは、このあたりからだと思います。しかし、ここに至るまで、一年以上かけて伏線が張られつづけていました。同時に、人知れず現地でずっとバッタと戦い続けて人々もいるはずです…。
バッタも生物なのでいきなり増えたりはしません。こうなるまでに何度も世代交代を繰り返し、手が付けられないほど増加してしまった結果がこれなんです。専門家が「去年の秋に何とかしておくべきだった」と言っている理由も判ると思います。
さらに、バッタの移動経路を見れば、パキスタン・インドで繁殖して大きな群れとなったバッタが、東の山脈へは向かわず西進している様子も判りますよね? 山越えられないんで、そっから先の中国へは行かないんですよ。「絶対に」というのは科学的ではないので付け足せませんが、もし仮にいくらかの群れが山を越えたとしても、その先に待ち受けているのは繁殖に適さない寒くて乾いた山岳地帯。繁殖できなければバッタはすぐ死にます。なにせバッタなんで。
今回のバッタ大発生は東アフリカで始まったのではなく、アラビア半島と紅海沿岸です。
あとコロナも全く関係ないです。
クソデマ流す前にバッタの動きをよく見てくれマジで。
調べもせずに思い込みで自分の言いたいことに都合よく現実を当て嵌めて読者を騙すとか、一昔前の新聞がよくやってたような手法はもう通用しませんからね?
今、バッタを倒すための資金集めに難儀しているのは事実です。このままいくと被害国が深刻な食料難になるのも間違いないです。
安全なところから高見の見物キメ込んで、「疫病に蝗害、王朝が倒れる兆し」とか「聖書にある神の罰」とかドヤ顔しても恥ずかしくない人たちほどには、私のツラの皮は厚くないようです。
********
おまけ
今週のバッタ状況。こんな発生状況は初めて見ました…
http://www.fao.org/ag/locusts/en/info/info/index.html
(※インド東部にはバッタはいませんよ!! 〇のついてるとこがバッタのいるとこです。ていうか図の見方から説明しなきゃいけないの…)
相変わらずイエメンから増殖したバッタが追加されまくっててサウジ大変ですねこれ。
イラクはバスラまで群れが到達。夏で気温が上がってると地中海に達することもあるのですが、今年はどうなるんだ…。
********
デマを流し続けている人の目的が何かは判りませんが、少なくともサバクトビバッタが中国で繁殖することはないです。「ない」と言い切れるのは、気候があまりに違うから。サバクトビバッタの卵が孵化能力を維持できるのは最大2カ月までなので、冬が2カ月以上続く地域ではそもそも孵化すら出来ない。繁殖に適した条件は意外にシビアです。
じゃあ夏に侵入すればいけるんじゃない? と言われるかもしれませんが、高地の夏は2カ月程度しかありません。これは日本の高山を見ていても判ると思います。7月終わりに開山したら、9月の終わりにはもう早ければ雪が降り出します。バッタが成虫になるまでにかかる時間を計算してください。(なので「偶然侵入しても1世代で全滅する」と言えるわけです。
また、過去にカリブまで到達したことを持ち出して、「日本まで届くかも」みたいなことを言い出す人までいたのですが、本来の生息域を離れてカリブまで到達出来た理由は「自力で飛んでない」からです。もっと詳しく言うと、ハリケーンの風で吹っ飛ばされたのです。これは日本でいう「迷い蝶」(本来は日本に生息していない蝶が台風の風に乗ってやってくる現象)と同じで、自力で飛ぶ方向を決めずに風に乗って飛ぶ省エネタイプの昆虫によく起きる現象です。飛んでるんじゃなく"吹っ飛ばされてる"だけなので、ほぼ死に体で陸地に到着します。定着はしません。
※これについては、軍隊アリと同じ方式で、「力尽きた仲間が海に落ちたのを足場にしつつ、共食いを食料にしつつ海を渡る」という方法ではないかという記述も見かけた。この場合も、大量の犠牲を出しながら、最後まで生き残ったバッタがなんとか対岸にたどり着く…という状態になる。
******
★参考までに、サバクトビバッタ以外の蝗害を引き起こすバッタ類について。
サバクトビバッタが猛威を振るっているさなか、他のバッタたちはどうしているのかというと
https://55096962.seesaa.net/article/202004article_14.html
蝗害を起こす種類のバッタは他にもいます。中国・日本で発生する蝗害はワタリバッタ(いわゆるトノサマバッタ)。
中国では頻繁に蝗害が発生しますが、もともとトノサマバッタの生息地域だから。
またチベット高原のような寒冷地にもその地域のバッタが生息しています。雲南省やチベットでバッタが! というニュースが流れたとしても、それはサバクトビバッタではなく地元にいるバッタです…。
*****
★「トラックやコンテナに紛れ込んで中国に上陸する!」は気にする必要もない話です。
なぜなら、大量発生していない単品でのサバクトビバッタは、ただのバッタだから…。
混雑状態が解消されると群生から孤独相に戻りますしね。
大量発生したサバクトビバッタがコンテナに紛れ込んで中国に! というデマが流されるので、バッタの繁殖特性について説明する
https://55096962.seesaa.net/article/202005article_30.html
【以下は事実誤認を含む要注意記事です】
コロナに続くもう一つの危機――アフリカからのバッタ巨大群襲来
https://news.yahoo.co.jp/byline/mutsujishoji/20200307-00166447/
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★ここが間違い!
・アフリカから飛来し、各地で農産物を食い荒らしてきたバッタの大群が、中国西部にまで接近している
→今アジアにいる奴らはアフリカからは来ていません。パキスタン周辺で繁殖してます。
・パキスタンの北東には中国の新疆ウイグル自治区がある。つまり、バッタの大群は西からの風に乗って中国にも押し寄せる可能性がある
・中国を突き動かすバッタの大群
→途中の山脈を越えられないので、サバクトビバッタは中国には行けないです。
※これについて、以下の記事で「ルートがある」と言ってきた人がいます。風にあおられるなどして一部が辺鄙なところに到達することはあり得ますが、侵入したとして定着・繁殖できるかは別問題。繁殖できなかったらすぐ全滅しますし、途中に氷点下の地点があっても、そこで全滅します。限りなくゼロに近い可能性を煽ってどうしますか。
https://www.rieti.go.jp/jp/papers/contribution/fuji-kazuhiko/147.html
・大発生は、新型コロナとほぼ時を同じくして始まった。
→もっと前から始まってます。大規模なニュースになったのが今年に入ってからというだけです。
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[>前回の解説分
イナゴの群れが中国に到達! というクソみたいなデマが流れていたので、バッタの進行の見方を解説する
https://55096962.seesaa.net/article/202002article_20.html
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前回記事にはあまり明確に書きませんでしたが、バッタは大量発生して群れになると色が変わって戦闘力が上がります。
ちなみにイナゴは大量発生しても色や生態は変わりません。なので日本語では「蝗害」と「イナゴ」の字が充てられますが、実際には蝗害を起こすのはバッタのみです。ややこしいですがここ大事なので覚えておいてほしいです。
蝗害を起こすのはバッタ。
地域によってバッタの種類が異なり、アフリカではサバクトビバッタ、中国や日本ではトノサマバッタ。
これ↓が「孤独相」と呼ばれる、単品で生活している通常時のサバクトビバッタ。
これ↓が「群生相」と呼ばれる、群れになって暮らしている時のサバクトビバッタ。
群れになりすぎてイラついているため攻撃的なうえに、普段食べないものまで全部食いつくすヤバいやつら。飛翔力が上がり、卵産んでサクサク死んでサクサク増殖するフィーバー状態です。
※写真出展元はココ
https://forbesjapan.com/articles/detail/32395/3/1/1
蝗害というと全ての緑を食いつくすのが怖いと思われがちなんですが、一番怖いのは「成熟するまでのサイクルが早く、卵産んでどんどん増える」ってことだと思います。「夏にはバッタが400倍になる!」とか騒がれていたニュースもあったと思いますが、何で400倍かというと1匹のメスから生まれる次の世代が約20匹だからなんですよ。2世代繰り返すと20×20=400。「繁殖を止められなかった場合は夏までに2世代繰り返す」ので1匹から400匹くらいまで増える可能性があるぞ、という意味。なお、繁殖までのサイクルが短いだけで、死亡率自体は群生のほうが高いようです。
※図の出典元はこの論文
MAS を利用したバッタの発生モデルと群生相の発生原因に関する考察
https://mas.kke.co.jp/wp-content/uploads/2020/01/%E8%AB%96%E6%96%87%E3%80%80MAS%E3%82%92%E5%88%A9%E7%94%A8%E3%81%97%E3%81%9F%E3%83%8F%E3%82%99%E3%83%83%E3%82%BF%E3%81%AE%E7%99%BA%E7%94%9F%E3%83%A2%E3%83%86%E3%82%99%E3%83%AB%E3%81%A8%E7%BE%A4%E7%94%9F%E7%9B%B8%E3%81%AE%E7%99%BA%E7%94%9F%E5%8E%9F%E5%9B%A0%E3%81%AB%E9%96%A2%E3%81%99%E3%82%8B%E8%80%83%E5%AF%9F.pdf
現在のアフリカ、アラビア半島の大発生は、上記の図の中の「産卵・繁殖」大成功→yes→「産卵・繁殖」大成功 の処理をループでずっと辿っているバグったプログラムみたいなことになっていて、どこかで止めないといかんのですが…。
人間の手で止められない場合は、自然界のリセットに頼ることになります。
自然界には以下の強制終了システムが実装されています。
・乾季
・冬
以上。
お分かりのとおりバッタは昆虫なので、真冬に繁殖するとか、数カ月も雨が降らない乾季とか、カラッカラに乾いた砂漠のど真ん中で卵産んで繁殖することかは出来ません。
今回は、おととし・去年と雨が降りすぎて乾季リセットがスキップされてしまったために増えすぎているという状況なのです…。
というわけで、このバッタの害はほっといてもいずれ必ず終わります。ただ、農作物の育つ夏までに抑制できないと直撃を食らって作物が全滅してしまうので、今、必死になっているということ。(春作物は既に壊滅状態) そしてどうやら間に合わなさそう。(´・ω・`)
世界的なニュースになりはじめた今年の頭時点では、もう、ラストチャンスの時期に入っていたんですよ。
なので今さらドヤ顔で「コロナ対策に金をとられたせいでバッタに対応できていない」とか、君何言うとんねん状態。そうじゃねぇ。去年の秋時点で対策出来てなかった時点でとっくに負け戦だったわ。
そう、何度も言うけど、このバッタの害、べつに年明けてからスタートしたわけじゃないんですよ。
まずは去年からの過去履歴を見て欲しい。
見方はこちら
2019年1月
アラビア半島と紅海沿岸にバッタの群れがいることが分かる。
前年から持ち越し分。だがこの時点ではまだそんなに数は多くない。
2019年2月
イエメン参戦。
実は今回の大規模な蝗害は、内戦中でバッタの撲滅が全く出来ていないイエメンが良好な増殖地帯になっているのも起因している。
他の国でどんなにバッタの群れを叩いても、イエメンで繁殖したやつらが20倍になってまたやって来るという無限ループ。
2019年3月
この時点でパキスタンにも群れが到達している。
2019年4月
イエメンからサウジアラビアへの追いバッタ、ペルシャ湾沿いのバッタはイラン高原を越えられないためパキスタンへ。
2019年5月
気温が上がり始めたため北の方にもバッタが展開し、ヨルダン渓谷にも出現。一部エジプトへ。アラビア半島から各地へ飛散していく様子が分かる。
2019年6月
イエメンからエチオピア、エリトリアなど東アフリカへバッタの群れが到達。ここまで流れを見てきて分かったと思いますが、今騒がれている東アフリカとパキスダン周辺のバッタの群れは、アラビア半島で繁殖して、このあたりで東西に分かれた奴らの子孫です。
エジプトにバッタ来てますがこの頃なら麦の収穫終わってるのでセーフ、ギリギリセーフ。(たぶん)
2019年7月
相変わらずイエメンが対処出来ていなくて一大繁殖地と化している…。
そしてパキスタンとインド国境ももうこの時点でバッタの群れだらけですね。
2019年8月
前年に雨が多かったのはアラビア半島・紅海沿岸だけなのでアフリカ内陸部や西アフリカは平穏。
2019年9月
産卵/幼体のマークが増えて、東アフリカとパキスタン~インド間で世代交代が完了しようとしています。孵化すると20倍に増えます。
今回の蝗害の本格的なスタートはこのあたりからです。
コロナと同時に始まった、とかしゃあしゃあと言っちゃう人はよく見ててください。ニュースにならなかっただけです…ここからです。
2019年10月
それぞれの繁殖地から、成長して羽根の生えた連中が順次、展開されていきます。
2019年11月
パキスタンから出発した群れが、中国方向には向かわずに山脈に沿って北上していくのもわかると思います。
また東アフリカの群れはエチオピア高原を回り込むようにして移動します。こいつら高い山は越えられないんですよ、何度も言ってるけど。
2019年12月
パキスタンの群れは海を越えました。
東アフリカの群れはアフリカ内部と紅海沿いに移動しています。
2020年1月
そしてこの状態に。
世界的なニュースとして目に触れるようになったのは、このあたりからだと思います。しかし、ここに至るまで、一年以上かけて伏線が張られつづけていました。同時に、人知れず現地でずっとバッタと戦い続けて人々もいるはずです…。
バッタも生物なのでいきなり増えたりはしません。こうなるまでに何度も世代交代を繰り返し、手が付けられないほど増加してしまった結果がこれなんです。専門家が「去年の秋に何とかしておくべきだった」と言っている理由も判ると思います。
さらに、バッタの移動経路を見れば、パキスタン・インドで繁殖して大きな群れとなったバッタが、東の山脈へは向かわず西進している様子も判りますよね? 山越えられないんで、そっから先の中国へは行かないんですよ。「絶対に」というのは科学的ではないので付け足せませんが、もし仮にいくらかの群れが山を越えたとしても、その先に待ち受けているのは繁殖に適さない寒くて乾いた山岳地帯。繁殖できなければバッタはすぐ死にます。なにせバッタなんで。
今回のバッタ大発生は東アフリカで始まったのではなく、アラビア半島と紅海沿岸です。
あとコロナも全く関係ないです。
クソデマ流す前にバッタの動きをよく見てくれマジで。
調べもせずに思い込みで自分の言いたいことに都合よく現実を当て嵌めて読者を騙すとか、一昔前の新聞がよくやってたような手法はもう通用しませんからね?
今、バッタを倒すための資金集めに難儀しているのは事実です。このままいくと被害国が深刻な食料難になるのも間違いないです。
安全なところから高見の見物キメ込んで、「疫病に蝗害、王朝が倒れる兆し」とか「聖書にある神の罰」とかドヤ顔しても恥ずかしくない人たちほどには、私のツラの皮は厚くないようです。
********
おまけ
今週のバッタ状況。こんな発生状況は初めて見ました…
http://www.fao.org/ag/locusts/en/info/info/index.html
(※インド東部にはバッタはいませんよ!! 〇のついてるとこがバッタのいるとこです。ていうか図の見方から説明しなきゃいけないの…)
相変わらずイエメンから増殖したバッタが追加されまくっててサウジ大変ですねこれ。
イラクはバスラまで群れが到達。夏で気温が上がってると地中海に達することもあるのですが、今年はどうなるんだ…。
********
デマを流し続けている人の目的が何かは判りませんが、少なくともサバクトビバッタが中国で繁殖することはないです。「ない」と言い切れるのは、気候があまりに違うから。サバクトビバッタの卵が孵化能力を維持できるのは最大2カ月までなので、冬が2カ月以上続く地域ではそもそも孵化すら出来ない。繁殖に適した条件は意外にシビアです。
じゃあ夏に侵入すればいけるんじゃない? と言われるかもしれませんが、高地の夏は2カ月程度しかありません。これは日本の高山を見ていても判ると思います。7月終わりに開山したら、9月の終わりにはもう早ければ雪が降り出します。バッタが成虫になるまでにかかる時間を計算してください。(なので「偶然侵入しても1世代で全滅する」と言えるわけです。
また、過去にカリブまで到達したことを持ち出して、「日本まで届くかも」みたいなことを言い出す人までいたのですが、本来の生息域を離れてカリブまで到達出来た理由は「自力で飛んでない」からです。もっと詳しく言うと、ハリケーンの風で吹っ飛ばされたのです。これは日本でいう「迷い蝶」(本来は日本に生息していない蝶が台風の風に乗ってやってくる現象)と同じで、自力で飛ぶ方向を決めずに風に乗って飛ぶ省エネタイプの昆虫によく起きる現象です。飛んでるんじゃなく"吹っ飛ばされてる"だけなので、ほぼ死に体で陸地に到着します。定着はしません。
※これについては、軍隊アリと同じ方式で、「力尽きた仲間が海に落ちたのを足場にしつつ、共食いを食料にしつつ海を渡る」という方法ではないかという記述も見かけた。この場合も、大量の犠牲を出しながら、最後まで生き残ったバッタがなんとか対岸にたどり着く…という状態になる。
さらに言えば、ハリケーンに巻き込まれるならサバクトビバッタよりモロッコトビバッタのほうが可能性は有りそうです。(他にも大量発生するlocustはいますよ)
また、ハリケーンがインドから日本に来ることは無いので、そもそもこの例を持ち出すのが間違っています。
また、ハリケーンがインドから日本に来ることは無いので、そもそもこの例を持ち出すのが間違っています。
※ここからは推測になりますが
バッタが中国に到達する!と危機を煽るアカウントやブログが何故か食料危機にも言及しているのが気になりました。もしかして食品の先物取引き勢が値を釣り上げようとしてませんか? 普段と異なる状況では、パニック買いや売りを誘発させようとするフェイクニュースが出回る可能性があります。根拠を見極めるのが大事です。
また、真夏ならともかく、こんな寒い時期に中国軍が「バッタの侵入に警戒して」国境パトロールをしているという報道も奇妙です。それ、本当にバッタを気にしてますか? コロナ騒ぎで都市が封鎖されて中小企業なんかは大量に倒産してそうですが…夜逃げで国境を越える人を探してたりしません?
デマ自体は本当に本当にクソすぎてショボくて頭抱えるレベルの内容ですが、あえてそれを流し続ける意図についてはちょっと警戒したほうがいいかもですね。
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★参考までに、サバクトビバッタ以外の蝗害を引き起こすバッタ類について。
サバクトビバッタが猛威を振るっているさなか、他のバッタたちはどうしているのかというと
https://55096962.seesaa.net/article/202004article_14.html
蝗害を起こす種類のバッタは他にもいます。中国・日本で発生する蝗害はワタリバッタ(いわゆるトノサマバッタ)。
中国では頻繁に蝗害が発生しますが、もともとトノサマバッタの生息地域だから。
またチベット高原のような寒冷地にもその地域のバッタが生息しています。雲南省やチベットでバッタが! というニュースが流れたとしても、それはサバクトビバッタではなく地元にいるバッタです…。
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★「トラックやコンテナに紛れ込んで中国に上陸する!」は気にする必要もない話です。
なぜなら、大量発生していない単品でのサバクトビバッタは、ただのバッタだから…。
混雑状態が解消されると群生から孤独相に戻りますしね。
大量発生したサバクトビバッタがコンテナに紛れ込んで中国に! というデマが流されるので、バッタの繁殖特性について説明する
https://55096962.seesaa.net/article/202005article_30.html