アン○コさんが言ったから。~「古代エジプトビールの再現」とやらを確認することにした

「キリンビールに載ってる酒の醸造ってさあ、なんかおかしくね? あれ合ってるの?」って、お酒大好きア○スコさんが言うんですよ。
そんなわけなので、とりあえず調査してみることになりました。

画像


※これが依頼主のアンス○さん(仮名)



今回、話題に上がったのは、キリンビールの「古代エジプトのビール研究」というもの。古代エジプトのビールを再現してみようということでやっていたもので、テルビなどでも大々的に宣伝されていた。

その結果として、「古代エジプトではこのようにビールを作っていた!」と描かれていたのが、以下の二つの図。


古王国時代のビール再現
新王国時代のビール再現


要約は、こう。

今までビール製造方法はかなり簡単なものだと思われていた。
しかし、その方法で作ったビールはとてもすっぱくてマズい。そのためビール作りの壁画を検証してみたところ、もっと複雑な方法で作っていたことが分かり、その方法だと美味しいビールが出来上がる。


既存説と、新説との比較ページはこちら


とりあえずざっと見た疑問・問題点としては

1)「既存説」がアバウトすぎる。具体的にどの本とか、誰の説とか、書いていない。
(2)既存説は否定されたぜ新説発見! だと主張しているのに、論文が出てなくないか。
(3)壁画の検証だけでは根拠として薄いのでは。壁画を裏付ける道具などの物的証拠があったのか

上記から導き出される「何を調べればいいか」の当面目標

1)について、既存説の大まかな指標として現在出版されている書物等に記載されているビール醸造法を洗い出す。
(2)について、どこか学術雑誌に投稿されたとか、公式に発表された詳細なデータなどはあるのかを確認する。
(3)元にされている壁画についてのデータ収集と、元にされたビール醸造道具を探す。

何か足りないものあったら指摘よろしく。
たぶん調べようと思ったら、そのうち派生していくと思いますが、取りあえず、このへんから調べていこうかなと。



◆準備としてネットに落ちてる資料を集めてみる

PDFファイルでのビールについての吉村氏のコラム
神の水 生命の水 ビール

章タイトル

 第一章
 ピラミッドづくりには、何万人もの奴隷が働かされた―― というのは大ウソ。

 第二章
 ビールとワイン。どちらも醸酒だが、その製造技術はビールの方が数段上。

 第三章
 壁画は嘘をつかない。なぜなら神様に見せるものだから。

 第四章
 当時から「私は家事をするために嫁に来たんじゃない」という女性がいた。

 第五章
 「砂漠の国」エジプト全土の緑地面積は、じつは日本よりも広い。


前編に渡ってツッコみどころ満載なコラムは相変わらずだなぁ、といいますか、実際にあるものを誇張する/はしょる/間違ったニュアンスに歪める というのは、もう癖なんですかね。綺麗に作ってありますが、ほとんど情報はない。


現代に蘇る! いにしえのエンマー小麦
栽培日記。ここもあまり情報量はない。

発酵麦芽飲料及びその製造方法
製造方法の特許らしい。

「ホワイトナイル」 ビール ( 黄桜 ) の エンマーコムギ (改訂版)
「古代エジプト風ビール」特許に関わった、河原 太八氏のサイトより。以下、気になる部分の引用。

古代エジプトのコムギはエンマーで, デュラムはエジプトで起源したと考えられており,紀元前1000年頃から出土している。 しかしエジプト全体で,デュラムに替わったのは紀元前後と考えられている(19世紀の始めまで,エジプトでもエンマーがわずかに栽培されていたそうです)。

…キリンのサイトにあるデュラム小麦を使用した製法に少し関わってきそうですね。

古代エジプトビールの再現計画
新説として掲載されているのは、古王国時代のものと、新王国時代のものの2通りだが、ここで書いてある「サッカラにあるニアンククヌムとクヌムヘテプという兄弟の墓」の壁画から再現されたのが新王国時代の方法、ということでいいのだろうか?


◆掲載されたと思われる雑誌とか

プロジェクトを追う(25)古代エジプトの壁画からビール醸造法を再現する--キリンビール
フォーブス Forbes
Vol.12, No.1 (2003/1) (通号 130) pp. 152~156
ぎょうせい ISSN:09169903
野口 均

古代エジプト 古王国時代ビール復元
日本醸造協会誌
Journal of the Brewing Society of Japan
Vol.98, No.1 (2003/1) pp. 23~30
日本醸造協会 ISSN:09147314
石田 秀人

↓実験より前の記事

FOOD&FOODWAYSから-8-古代エジプトのパンとビ-ル
ヴェスタ
Vesta
(1997/05) (通号 28) pp. 37~40
味の素食の文化センタ- ISSN:09180214
窪田 富

↓ここから下はあまり関係ないのかも

古代エジプトの復活?--現代エジプトのビール事情
Revival of ancient Egypt?: beer industries of contemporary Egypt
中東研究
Journal of Middle Eastern studies
Vol.2007・08, No.2 (2007) (通号 497) pp. 113~117
中東調査会 ISSN:09105867
鈴木 恵美

古代エジプト中王国時代のビール壺について(考古学部会, 平成十六年度早稲田大学史学会大会報告)
史觀
Shikan : the historical review
No.152(20050325) pp. 一三七-一三九
早稲田大学史学会 ISSN:03869350
矢澤 健


◆論文

あるの…か…?

◆国外情報

まだ調べてない

---------------------------

正直、キリンビールのサイトでは、よく分からなかった。
肝心なところがたくさん抜けていて、一般向けに細かい検証過程や証拠のたぐいは抜いて結論だけカッコよく書きました(誇張もあり)…という感じ。

壁画を見ただけで再現できるような簡単な話なら、今まで誰もやっていないというのはちょっと考えにくいし、古代の製法って、絵を見ただけで再現できるものなのだろうか。釈然としないところがあるのは確か。

と、いうわけで、気が向いたら自主的に揉み揉みしていきますのでヨロシク。

--------------------------

◆追加記事

古代エジプトのビール検証(1) データ集め
古代エジプトのビール検証(2) 論文発見
古代エジプトのビール検証(3) 古代エジプトのビールについての基礎知識
古代エジプトのビール検証(4) キリンビールのサイトの英語版を翻訳してみた
古代エジプトのビール検証(5) MBAAの記事と参照されている墳墓のデータチェック
古代エジプトのビール検証(6) まとめ。キリンビールのサイトに出ている「醸造法」には誤りがあります


◆2014年追加 最終報告

古代エジプトビール再現実験にまつわる追加確認

この記事へのトラックバック