概月リズム
概月リズム
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/10/11 08:08 UTC 版)
概月リズム(がいげつりずむ)は約一ヶ月周期で変動する生理現象である。現在のカレンダー(グレゴリオ暦)の「一ヶ月」は生物学的な意味は薄い。生物学的には月の朔望(新月・満月、29.5日)に依存するcircasyzygic rhythmが概月リズムに近いものである。 この生体リズムは、ウィーンの心理学者ヘルマン·スヴォボダ(英語版)と、ベルリンの内科医ウィルヘルム・フリース(英語版)により、19世紀末に、幅広く研究調査された。二人は別々に研究を進め、それぞれ患者を対象にして、このリズムに関するデータを収集し、スヴォボダは1904年、フリースは1906年にその成果を公表した。そして二人とも、23日と28日の二つの基本的周期があり、これが人間の心身両面の健康に関わっていると結論づけた。 フリースは、23日の周期が人間の生体条件に影響をおよぼす男性的リズムであり、28日周期は女性的遺伝形質によるものだとする仮説を立てた。個体はすべて男女両性の遺伝形質をともにもっているため、すべての人間の体質には両性的要素が含まれているということである。 20世紀になると、この23日周期が体力、耐久力、活力その他一般的健康状況を特徴づけると結論付けられるようになった。この周期の前半では、人間の健康状態は増進し、後半では減退するので休息と体力回復をとる傾向があるという。 現代の研究では、23日周期は男性的周期ではなく「肉体的」周期、28日周期は「情緒的」または「感覚的」周期と呼ばれている。 28日周期が女性の平均的月経周期であることは古くから判っていたため、フリースはすべての28日周期を、女性的なものと関連づけたと考えられている。女性の中には生理周期に応じて、大きく気分の変化を示す人がいるが、このような気分の変化は、本人の自覚の有無にかかわらず、ほとんどの男女に存在することが判明している。これにはホルモン分泌と、それが神経系統に与える影響が関係している。 28日周期の周期曲線のピーク時には、人間はより愉快で、協調的、自信にあふれた状態になるが、どん底時には、いらいらして、すぐに挫折し、無感動な状態に落ちこみがちだという。 知的活動に関するサーカメンシュアル・リズムが、オーストリアの工学者でもあり教育者でもあるアルフレート・テルチャーによって研究された。彼は1920年代にオーストリアのインスプルックの高校生、大学生を調査し、彼らの知的活動が33日周期で変動すると結論した。この周期のある時期には、学生たちの注意力はより高まり、思考方法もより正確で、その後16日か17日間は、創造力、判断力、記憶力ともに下降し、学業ははかどらない。この観察結果は、その後の諸研究によって裏づけられており、この33日の周期は「知的」または「認識的」周期と呼ばれる。この周期が甲状腺の分泌に関係していると唱える学者もいるという。 多くの海洋生物は大潮に合わせて産卵することが知られている。サンゴの一斉産卵では時計遺伝子であるクリプトクロムによる満月の認識が引き金になることが示されている。 人間の月経周期が平均28日であることを概月リズムの例とする場合があるが、「満月の日に排卵する」ような周期とは異なり、月の朔望に支配された現象ではない。また、ほ乳類の種類によって生理周期は大きく異なり、マウスでは4日、犬猫は年1から2回の発情期にしか排卵が起こらないので「人間」に特有の概月リズムである。
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