さらなる考察
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/09/14 14:39 UTC 版)
n = 1 の磁気構造が実際には「トポロジー」の力で安定化されているのではなく、系を特徴づける場の剛性パラメータによって安定化されているのだという事実を認識しておくことは重要である。とはいえ、トポロジーがエネルギー的安定性にほとんど関係しないわけではない。逆にトポロジーは、それなしでは有り得なかった安定な磁気状態の存在を可能にする場合がある。ただし、トポロジーそのものが状態の安定性を保証するものではない。ある状態がそのトポロジーに関係する安定性を持つためには、場の剛性が非零である必要がある。したがって、トポロジーはある類の安定な対象が存在することの必要条件であるが十分条件ではないといえる。このような区別は衒学的に見えるかもしれないが、トポロジー(たとえば n = 1 )は同一ながらも、異なる磁気相互作用を受けている二つのスピン配向を考えてみれば、その物理的動機が明らかになるであろう。たとえば、磁性極薄膜に対して直交する方向に結晶磁気異方性を持つスピン配向と、異方性を持たないスピン配向とを考えてみよう。この場合、トポロジーは同一であるにもかかわらず、異方性の影響を受ける n = 1 配向の方が影響を受けない n = 1 配向よりも安定となる。その理由は、場の剛性が異方性によって強められることと、トポロジーではなく場の剛性こそがトポロジー状態を保護するエネルギー障壁を与えるためである。 最後に、トポロジーが n = 1 配向を安定化しているのではなく、逆に(系の相互作用に依存する)場の安定性が n = 1 トポロジーを選好している場合について考察しておこう。これは言い換えれば場の構成要素(磁気スキルミオンの場合は磁性原子)の最安定配向が、実際に n = 1 トポロジーで記述される配向になっているということである。たとえば、隣接スピンが一定の角度を成すとエネルギー利得が生じるジャロシンスキー・守谷相互作用の下では、磁気スキルミオンのスピン配向が安定化される。ただし、実用化の観点から言えば、情報の符号化に利用されるのは(スキルミオンの有無という)トポロジーそのものであり、それが安定化される機構ではない。よって、ここでの議論はジャロシンスキー・守谷相互作用を持つ系の応用上の価値を損ねるものではない。 これらの例は、「トポロジー的保護」や「トポロジー的安定性」という用語をエネルギー的安定性という概念の替わりに用いるのはミスリーディングであり、根本的混乱を招きがちだということを示している。
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