【スペック】全長×全幅×全高=4760×1780×1430mm/ホイールベース=2675mm/車重=1560kg/駆動方式=4WD/2.3リッター直4DOHC16バルブターボ・インタークーラー付き(272ps/5500rpm、38.7kgm/3000rpm)/価格=302万4000円(テスト車=353万5350円)

マツダ・マツダスピードアテンザ(4WD/6MT)【試乗記】

ちょっと軸がずれている 2005.12.22 試乗記 島下 泰久 マツダ・マツダスピードアテンザ(4WD/6MT) ……353万5350円 マツダ・アテンザの高性能バージョン「マツダスピード・アテンザ」。新開発2.3リッターターボエンジン搭載のハイパフォーマンス4WDセダンには、ライバル車と違うマツダらしさがあるのか。
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Zoom-Zoomの真髄を極めた

「マツダスピードアテンザ」は平たくいえば、4ドアセダンの「アテンザ」をベースとした、4WD+ターボのスポーティグレードである。ただし、その成り立ちから即座にライバルとして頭に浮かびそうな「スバル・インプレッサWRX」や「三菱ランサーエボリューション」のようなカリカリに突き詰めた戦闘機というわけでは、実はない。マツダはそれを“Zoom-Zoomの真髄を極めた、ソフィスティケーテッド・ハイパフォーマンスセダン”と呼ぶ。つまりは余裕のパフォーマンスを背景に、マツダのこだわりである操る楽しさをさらに深く追求したモデル、とでもいうことになりそうだ。

真正面に大きな口を開けたフロントマスクやディフューザー形状のリアバンパーなどによって、外観はベース車とは別物の雰囲気をたたえている。一方で、グリル形状の吟味でボンネット上にエア導入口を付けずに済ませたり、リアスポイラーを控えめに抑えたのは、大人が乗れるクルマにしようという意図の表れだろう。ただ、18インチタイヤを履きながら、ホイールハウスとタイヤの隙間が大きいせいか、足元がどうも貧相に見えるのは残念。このあたり、ヨーロッパ車のようにはいかないものだろうか。

期待値に届いていない

オプションの本革スポーツシートが付いていた試乗車。黒基調の精悍な装いのコクピットに滑り込むと、果してそこには3つのペダルと6段のギアが刻まれたシフトノブが鎮座していた。そう、用意されているのはMTのみである。
エンジンは直列4気筒2.3リッターの直噴ターボのL3-VDT型で、最高出力272ps、最大トルク38.7mkgというスペックを誇る。シリンダー内に直接燃料を吹き付けるため、気化熱による冷却効果で圧縮比を高く設定できる直噴とターボの組み合わせは、最近では「アウディA4」や「VWゴルフGTI」の2リッターターボなど採用例が増えている。しかし、そのT-FSIが10.5というNA並みの高圧縮比を誇るのに対して、L3-VDT型のそれはパワー重視なのか9.5にとどまる。

そのせいで……とばかりはいえないが、このエンジンはボトムエンドのトルクが細すぎて、発進時などは非常に神経を使う。トルクの明確な盛り上がりを実感できるのは2500rpmあたりから。そこからはフラットかつ分厚いトルクを発生するが、それは6速100km/hの約2200rpmからの加速にはいちいちシフトダウンしなければトルクが乗らないということでもある。しかも、上も6000rpmを超えると明確に勢いが鈍るという始末だ。

そんなわけでこのエンジンとMTの組み合わせは、ハッキリいってコンセプトに対する期待値に届いていないと感じた。あるいはヨーロッパではいいのかもしれないが。



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【テスト車のオプション装備】
BOSEサウンドシステム+ミュージックHDD=11万250円/DVDナビゲーションシステム=22万7850円/撥水機能+ヒーテッドドアミラー=1万5750円/ブラック本革シート+運転席8Wayパワーシート+運転席シートメモリー機能=12万6000円/アドバンストキーレスエントリー&スタートシステム=3万1500円

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軽快感はあるが……

シャシーも、どうも掴みどころが無い。基本的には硬めで、路面の凹凸を小刻みに拾うし、マツダらしい敏感なステアリングも轍に妙に取られがち。なのに、ダンパーの抑えを弱くしているのか、うねりを超える時など上下にブワンと煽られる。これなら、もっと硬くてもいいからフラット感を出してくれたほうがよほど快適だ。

そのぶんマツダらしいハンドリングの軽快感は確かにあって、ステアリング操作に対するノーズの反応はとても鋭い。また、FFベースながら積極的に後輪にトルクを配分することを意識したという電子制御4WDの効果だろう、コーナリング中にパワーをかけていっても、だらしないアンダーステアとは無縁だ。過去にサーキットで試乗した際、そこは一番印象的だったところ。おそらくワインディングロードでも楽しめるに違いない。
だが、このクルマの狙いは、あくまで一般道を気持ち良く走るということにあるはず。そう考えると、余力はもっとしっとりした乗り味にこそ振られていてもいいのではないだろうか。現状は、ちょっと軸がずれているような気がする。

最新のインプレッサWRXやランサーエボリューションは、真摯に速さを追求した結果、エンジンは素晴らしくフレキシブルで、シャシーもスタビリティの高さを実感させる圧倒的なフラット感を味わわせてくれる。率直にいえば、マツダスピードアテンザは本来狙ったはずのこうした領域の性能で、この2台に対する際立った優位性を感じさせてくれない。どうせやるなら、たとえばエンジンは最高出力230psでいいから徹底的にフラットトルクに躾け、足もしなやかかつコントローラブルな設定の、たとえばアウディA4 2.0TFSIクワトロのようなクルマをこそ目指すべきなのではないだろうか。

せっかくのこういうクルマなら、他のモデルとはひと味違う“大人のZoom-Zoom”を見てみたかった、というのが試乗を終えての印象である。

(文=島下泰久/写真=峰昌宏/2005年12月)

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