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June 20, 2011

ノイタミナのアニメ「C」が面白い件

フジテレビのノイタミナ枠アニメは毎期楽しませていただいているのだが、今やってる2本、「C」と「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない」は、とりわけお気に入りの中に入る。身の回りには後者、いわゆる「あの花」のファンが多くて、それはそれで同意なのだが、一応ファイナンス関係の人でもあって、「C」もなかなか面白く見ているので、こちらを応援する趣旨もこめて、ちょっとだけ取り上げてみる。

まあ、基本的には個人的満足だけど。

「C」で面白いのは、金融をめぐるもろもろの状況の、エッセンスの部分をアニメとして表現しているところにある。一部見逃したりしているので、理解がまちがっているところもあるかもしれないが、いくつか挙げてみる。

1 私たちが住む現実経済とは別のところに金融の世界があって、そこでは現実経済とは違ったルールが適用され、巨額のお金が動いている。
「C」には「金融街」という特別な場所が出てくる。私たちの日常世界とはちがうのだが、別に離れているというわけではなく、ごく近くに、異世界のように存在していて、一部の人間はそこと行き来できる。この「別だがすぐ近くにある」という描写は、金融市場のメタファーとしてとても面白い。そこで使われるお金は「ミダスマネー」と呼ばれ(あのギリシャ神話の「ミダス」からきたものだろう。象徴的な名だ)るわけだが、同じお金でありながら別の「顔」をもっているというところも、実際の金融市場に集まる資金の性格をうまく形容している。ちなみにあのミダスマネーは縦長の紙幣。縦長の紙幣っていうと藩札とかを思い出すけど、藩札より横幅が広かったりするので、どちらかというと明治初期の不換紙幣「明治通宝」あたりを彷彿とさせる。そういえば世界初の不換紙幣である元の紙幣もこんな形だったな。どちらも激しいインフレを引き起こしたもの。

2 別の場所であるはずの金融市場での動きが、時折現実経済に影響を与える。
「金融街」では、参加者同士が「ディール」と呼ぶ1対1の戦いを繰り返しているのだが、その影響が現実世界に及ぶ。大物が負ければ、大きな会社がつぶれたり、大きな経済的損害が発生したりする。「金融街」で大きなクラッシュのようなことが起きると、国全体が消えてしまったりする描写もあった。実際の経済でも、金融市場の投機的な動きが実体経済を大きく動かしてしまうことがある。なんせ金融市場で動いてる資金は実体経済でのそれとは桁違いだったりするわけで。

3 金融街に参加する者は、自分の「未来」を担保にして資金を調達する。
「未来」を担保にするという表現はなかなか示唆的だ。「未来」が具体的に何かは人によってちがうが、その人が最も大切に思うもの、という設定らしい。それが「子ども」だった場合、ディールに負けて財産を失うと、いたはずの子どもがいなくなってしまったりする。実際にも、借金をして投資を行い、それが失敗した場合、実現できたかもしれないさまざまな可能性をつぶしてしまうわけで、そういうメタファーなんだろう。とはいえそれが「子どもがいなくなる」みたいなかたちで具体的に見せられるとちょっとグロテスクだ。男性の既婚率が年収300万円を境に変わるという調査結果があるようだが、それもある意味お金が未来の幅を決めるという意味合いにとることもできるかもしれない。

4 「現在」を守ろうとすることが、「未来」を犠牲にすることにつながってしまう。一方、未来の可能性を切り開くためには、現時点で大きな痛みに耐えなければならない。
おそらくこれが「C」の中心的なテーマなんだろう。「現在」は、もちろん理想的な世界ではないが、それぞれがそれなりに平和に暮らしている「日常」があり、「生活」がある。そうしたものが、金融の世界の「暴力」的な動きによって破壊されないようにしたいという発想は理解できる。登場人物の1人である三國は、そうした発想で巨額の資金を投入して、「現在」を守ろうとする。これに対し、主人公は、当初は「現在」を守ることに意味を見出そうとするが、やがて「未来」を守ろうという立場に転じる。この対立は、おそらくは古今東西の社会で、主要な論点の1つだったはずだ。特に、成長機会が乏しく高齢化が進む一方の日本にとっては、これは最も真剣に考えなければならない問題かと思う。

5 金融市場が世界とつながっている。
「金融街」はどうも国ごとにある設定らしくて、外国の「金融街」というのも出てくる。で、国際的に資金の流れがつながっていて、外国で起きたことの影響が日本に及んできたりするところもちゃんと描写されてて面白い。作中で描かれた市場のクラッシュは、リーマンショックをイメージしてるのかな。あと、地味に注目すべきは、各国のことばがふつうに出てきてること。外国人が日本語をしゃべる無理な設定になってないところがよい。


そういえば、先週放送された第10話では、円の価値を下げるためにヘリコプターで現金をばらまくシーンが出てきた。いわゆる「ヘリコプターマネー」っていうのは財政拡大政策を揶揄して使う比喩なわけだが、それを映像化すると実にシュールでちょっと感動すらした。

というわけで、深読みすればするほど面白い「C」なのだが、もちろんかなり単純化した話なので、現実の経済の動きとかけはなれたところもたくさんある。金融のメタファーという観点で個人的にちょっと残念な点は次の2つ。

1 「ディール」がゼロサムゲームであるらしいこと
参加者同士のバトルである「ディール」では、勝ち負けによって手持ち資金が増えたり減ったりするのだが、どうもみるところ、ゼロサムゲームであるらしい。確かに金融市場にはそういう世界もあるのだが、ゼロサムではない世界もあったりするところは、うまく描いてもらえるとよかったのに、などと思う。実際のところ、ゼロサムゲームだけでは経済は成長しないし、バブルもクラッシュも起きないだろうから、このあたりこそが金融のキモではなかろうかと思うのだが。

2 「アセット」がポートフォリオでないこと
作中では、各参加者は1人あるいは1体の相棒的存在である「アセット」をあてがわれ、「ディール」に最してはこの「アセット」に資金を投入することによって力を与え、戦っているようだ。だが、実際の投資活動では、「ディール」とはちがって、資産(アセット)はポートフォリオでもつことを前提としているし、「ディール」のように短期間で決着がつくとも限らない。「アセット」をたくさん持っていて、一気に投入したり順次取り替えたりした方が現実っぽくはあると思う。むしろイメージ的にはウォーゲーム的な。まあ、それだとアニメ的に絵になりにくいのかな。それに、「アセット」が自分の「未来」ということをあらわすには、たくさんいない方がいいのかも。

番外編として、経済のイメージを大胆に意訳して使ってるので、見てて面白くはあるんだが、これで経済を勉強とかには使えないのも残念。以前、「狼と香辛料」でデリバティブを教えたことがあったので、これももう少しリアルっぽい設定だったら授業に使えたんだけどなあ。あと、キャッチコピーで「あなたの未来を担保させていただきます」という文言が使われてるんだが、これだと意味逆だからね?「担保にさせていただきます」ならわかるけど。


ちなみに、「C」のオープニング映像の中で数式がぱらぱら出てきてかっこいい風情だったので、あれは何が書いてあるんだろうと思って、スロー再生でチェックしてみた。で、「FV」とか「PV」とかいう表記は見えたから、まあ将来価値とか現在価値とかの関係だろうと思ってちょっとぐぐったら、あっさり元ネタからわかっちゃった。

「NED-WLT 酒井穣のパーソナル・ブログ」というブログに「お金の時間的価値 (Time Value of Money)」という記事があって、たぶんここから式をとってるのではないか(計算例も同じだからたぶんまちがいない。この記事自体が他から転記してない限り)。で、これもおそらくだが、フォントからみて数式はワード2003あたりの数式エディタで書かれてると推測。

これらの式は、元記事では、「お金の時間的価値」というタイトルでわかるとおり、今の100円と将来の100円はちがう価値だよ、という話の説明に使われてる。

まず、将来価値FVは現在価値PVに利子Iを加えたもの、と。

Eq1

で、利子は元本に利率をかけたもの。I1というのは1年目の利子の額でrが年あたりの利子率。PVが元本にあたるわけだ。

Eq2

で、2番目の式を最初の式に代入して整理する、と。

Eq3

rを一定とすると、n年後の将来価値もこの延長であらわすことができる。

Eq4

で、これをPV=のかたちに書き直すと

Eq5

で、以下は計算例。ここでいう利子率、つまり割引率3%のときに1年後の将来価値10000円の現在価値を計算するとこうなるというのが次の式。

Eq6

同様に、3年後の10,950円の現在価値を計算すると、

Eq7

20年後の4000万円の現在価値はというと、

Eq8

とまあこんな具合。思ったより簡単な式で、というかあまりにも簡単にわかっちゃったんでちょっと拍子抜けしたんだが、まあそんなものなんだろう。

ともあれ、けっこう面白いのはかわりない。DVD売れてくれるといいなあ。マンガ原作全盛の中で、オリジナル作品をけっこう手がけてるノイタミナ枠はけっこう貴重な存在なので、ぜひ応援したい。


※追記
主人公余賀公麿の「アセット」である真朱(ましゅ)、角が生えててちょっと「日本鬼子」を連想した。



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Comments

1人で自分の大学の経済学の授業で受けた経済の知識を、なんか?誰も聞いちゃいないのに独りよがりでひけらかしているみたいな感じがして、自分はさもこれだけの経済の基礎知識を学んで知っていますよ?ひとついい機会に経済に無知なあなた方下々の大衆に無料で教えてさしあげましょう?みたいだし、いかにも自慢たらたらだし…はっきりいって、ウザイ!

Posted by: アッキー | June 24, 2011 01:43 AM

DCFの計算なんだから、わざわざ他人のブログを引用する必要もない。本当にファイナンスの人?? 式を書いたからって、自慢タラタラに見えると言うのも情けない。

Cはテーマ設定は面白かったけど、ディールが単純なバトルなのはちょっと残念。技にあんな名前付けてるだから、もうちょっと捻ればいいのに。

で、私は、ベタだけど、あの花の方が好きでした。

Posted by: y | June 26, 2011 11:04 PM

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