予測市場における「a tiny froth」の話
最近は予測市場も数が増えてきて、なかなか全部見て回るわけにもいかなかったりする。そうこうするうちに面白い現象がおきているのを見逃してしまったり。
今回も最初から見ていればもっと面白かったろうけど、という話。
取り上げるのは、アイルランドにあるTradeSportsとアメリカのNewsFutures。前者は現実通貨を使い、後者は仮想通貨。今年11月に予定されるアメリカの中間選挙で全議席改選となる下院議席の過半数をどちらの党が獲得するかに関するものだ。中間選挙についてはこちらの記事が参考になる。ちなみにこの記事中2ページ目の図3に登場する「オンライントレード市場」というのがTradeSportsだ。InTradeとあるが同じもの。下院のほうでいうと、元はこれ。上記記事のほうは民主党が過半数をとる確率、としているので、これを上下ひっくり返している。共和党過半数の確率は、2006年10月4日午前9時10分(JST)時点の価格からみて、40.7-40.9%。
一方、NewsFuturesのほうは仮想通貨を使う。こちらでは民主党が過半数をとる確率が取引されていて、同時点の価格は64、と表示されている。裏返せば、共和党が勝つ確率は37%。微妙にちがうが、まあだいたい同等の値、ということになろうか。
実は数日前、この2つの予測市場で価格が大きくちがう、とウォッチャーの間で話題になった。TradeSportsでは協和党が勝つ確率が50、NewsFuturesでは民主党が勝つ確率が64だったそうで、14ポイントもちがうではないか、というわけだ。
一般に、事象「A」の確率を予測する予測証券と事象「not A」の確率を予測すうる予測証券の価格は、理論上必ず足して「100」(1.0とかの場合もあるけど)になるように設計されている。したがって、共和党50、民主党64という価格は裁定機会の存在を意味するので、もし市場が効率的であれば、少なくとも長期間にわたって存続することはないはずである。
というのが理屈だが、実際にそうなるとは限らない。もちろん満期時点ではもちろんそこに落ち着くわけだが、それ以前の段階では、「A」と「not A」が完全には連動せず、足して100にならないケースはままある。ポイントはおそらく2点。今回のケースはNewsFuturesとTradeSportsという別の予測市場間での価格の乖離だということと、それぞれの市場において、おそらく流動性が充分でないということ。前者は要するに、この2つの予測市場は別個の存在であり、その間で裁定取引を行うことはできない、ということだ。後者は、充分な数のトレーダーがいないために価格差が解消されにくいという問題だろう。TradeSportsで「共和党」を買ったトレーダーと、NewsFuturesで「民主党」を勝ったトレーダーには、それぞれバイアスもあるかもしれない。流動性が不足すれば、そうしたバイアスが温存される可能性は高まるはずだ。
で、ここまでなら「ふうん」で終わるんだが、オチは冒頭に戻る。数日後の現時点で価格をもう一度比べてみると、上記のとおりほぼ「収斂」している。価格差があると指摘されてから数日内にほぼ価格差がなくなったということは、この間に情報が伝播したということなんだろう。結果として、「14ポイントも差がある!」と騒がれたのも、実は「a tiny froth」だったというわけだ。(ちなみに、現時点で残っている数ポイントの差が何に起因するかは、別の意味で興味をひく。現実通貨と仮想通貨の差なのか、はたまた、トレーダーの層のちがいが価格に反映してしまっているのか。)
ここまでみてくると、この一連の動き、価格差が「発見」され、情報が「伝播」して、価格が「収斂」していく動き全体が、まさに市場メカニズムそのものであった、ということができるだろう。ファイナンスが想定する裁定機会の不存在は、そうした機会が初めから存在しないということではなく、裁定取引によってすぐに解消されるため長期間存続しえない、という意味だ。要するに、裁定機会は存在するが存続はしにくい、と。予測市場の数が増えてくると、比較的長期間存続するものも増えてくるのかもしれない。
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