生活保護のために「移民」とか離婚とか
原理上ありうることだとは思っていたが、実際にあると聞いてびっくりした、という話。裏をとっていないので、あくまで「ネタ」ないし「うわさ」レベルとお考えいただければ。
とある地方の小さな市でのこと。どことはいわないが、「先生」を「しぇんしぇい」と発音するあたり、ということで。この市、どうも他に比べて生活保護を受ける世帯の比率が高い、という。平成17年度版厚生労働白書によると、全国では
2003(平成15)年度には生活保護受給世帯数941千世帯、生活保護受給者数1,344千人、保護率(人口に対する生活保護受給者数の割合)10.5‰。
だそうだ。その市のホームページをみると、やや古いデータだがどうも総世帯数の10%近くになるらしい。すごい率。で、それはなぜか、というのが本題。
どうも、その市の生活保護の条件が緩いらしくて、周辺から人が流れ込んでくるらしい。なんで緩いのかは知らないが、おそらく構造不況業種に従事する人たちを多く抱えたところだったからだろうと思う。生活保護を認定されれば、月に十数万円が給付されるから、それを求めて人が集まる。生活保護「移民」というわけだ。あるあると聞いたことはあるが、実際にそこがそうだと聞いたのは初めてだった。
で、さらにすごいのは、生活保護を2倍受けるために「離婚」する世帯があるらしい、という話だ。生活保護は1世帯あたりで出るので、離婚すると2世帯になり、受給額が2倍になる。月額十数万円の2倍だ。家賃はあまり高くないから、家を2軒借りてもそのほうがトク、ということらしい。子供がいれば子供に養ってもらうよういわれるわけだが、離婚して別世帯になると、片方だけは生活保護が認められる由。
上にも書いたが裏をとっていないので、某政党のように「ガセ」をつかまされた可能性もなしとはしないわけだが、少なくとも「さもありなん」程度にはいえそうだし、そういう利用のしかたができる余地があるなら、それだけでも制度としては問題があると思う。
どんな問題があるかというと、国民年金保険料を支払わなくなるということだ。国民年金の支給額より生活保護のほうが高いのだから、年金保険料を支払おうとしなくなるのは無理からぬ、といったら差し障りがあるだろうが、じゅうぶんありうることではある。
私にこの話をしてくれた人は、「だから社会保障制度は単体でなく全体をみて考えないといけない」と力説していた。そりゃそうだよなぁ。でも今それはできていない。話したときの「結論」は、「意外に国民はしたたかだ」というものだった。とれるものはしっかりとった上で「ここが足りない」と主張する。政府の側は担当部署が分かれていても、受ける側は1人の人間なり1つの世帯なりだから、さまざまな制度をばらばらに考えていると、実際の姿がみえてこなくなる。もちろんそういう人は少数派だろう。大半の人は正直に暮らしていて、苦しい思いをしたりしているわけだろうから、あまり疑心暗鬼になるのはどうかとも思うのだが、制度を悪用する余地があるということは、そういう正直な人々に対しても申し訳ないではないか、とはいえる。
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Comments
こういうお話を聞いてつくづく思うのはやはりご指摘の通り「国民はしたたかだ」ということ。利用できるものは何でも利用するし、自分の得になることは何にでも飛びつくということでしょうね。これ、単にけしからんで済まされる問題じゃなくて、やはり抜け穴のある制度が問題なのと、もっと大事なのは経済状況がマシならこうしたインセンティブが作用する余地も減るってことは言えると思います。もし自分が生活困窮に追い込まれたら、バカ正直に生きる自信があると言い切れないですし。使い古された例ですが終戦直後の闇米と同じですよ。
Posted by: すなふきん | March 08, 2006 07:38 AM
むずかしいのが、例えば一世帯当たりの給付額が公的年金の月当たり支給額以下に設定したとすると、生活保護(つまりそれだけで生活していけるようにする)の役割を果たせなくなる可能性が出て来るという所でしょうか。
そうすると、現在でも出始めていますが、生活していけなくなった人たちが軽犯罪に走って刑務所に生活の場所を求めていくという事態がもっと広範に起こってきてしまうわけで・・・。
ここら辺は、現状の社会体制では対応難しそうですね。
Posted by: 名無之直人 | March 08, 2006 11:38 AM
というか、ばかばかしい話だと思う。
不正に受給するケースは地域を限らず、どこでも少しはありうる話。単に周辺調査をきちんとすれば対応できる。
それを「大量にいて一部の地域などはすごく多い」などと匿名の怪しげな情報で煽り、存在の不確かな攻撃対象としてしたてあげるのは、デマゴーグ行為だよね。それこそ関東大震災時の朝鮮人虐殺とかわりない。
だいたい、出所はどこかのオヤジが世間話がてらした床屋政談だろうに。それを裏も取らずに喧伝するとは、学究の徒が聞いてあきれる。
Posted by: Bar | March 08, 2006 02:47 PM
コメントありがとうございます。
すなふきんさん
闇米ですか。ある種似ているのかもしれませんね。たぶん規模や切迫度はだいぶちがうでしょうけど。
名無之直人さん
刑務所の話もありましたね。さまざまな制度がそれぞれの思想に基づいて作られているわけですが、機能として重なっていることは他にもありそうですね。システムの問題というご意見は、賛成です。完全な解決は難しくても、現状と比べてもっといいやり方があるだろうと思います。
Barさん
ご気分を害されたようで申し訳ありません。制度を悪用するケースがどこにでもありうるというご指摘はその通りです。ただ「周辺調査をきちんと」するのが事実上難しいからこそ今問題になっているのではないかと思います。
この話は裏をとっておらず「ガセ」である可能性があることは本文中にも書いたとおりですが、私の意図は不正受給者を批判したり攻撃したりすることではなく、世の中のしくみをもっと改善できるのではないかという点にあることはおわかりいただけるかと思います。制度上の抜け穴は、誰も悪用していなくても、その存在自体が、あるいは「どこかに存在するのではないか」という疑念だけでも、社会運営上の重大な障害となります。
制度をかいくぐる人がいる場合、運用をきちんとすることも重要ですが、そのためのコストも考えなくてはいけませんし、そもそもそうせざるを得ない事情があるかもしれません。そのあたりまで考えていくことで、制度を「血の通ったもの」に近づけていけたらいいと思いませんか?「仮に」制度を悪用している人がいたとして、その人も、多少なりと後ろめたい思いをしながらやっているかもしれません。そういう思いをさせないですむような制度をもつ社会になってくれたら、と私は思っています。
Posted by: 山口 浩 | March 08, 2006 03:37 PM
似たような話題で、年金を受けてる親が死んでも届け出ずに隠して、家族が年金を生活費に回しているというのも、今後社会的な対応が、運用/システムの両面での改善が求められるでしょうね。
結局の所、「自分で自分の面倒を見られない奴を、どこまで社会で養うか」という問題に行き着くかと思われます。
で、それは概してセーフティーネットを用意すれば良いという単純な話ではないところが味噌でしょうか。
Posted by: 名無之直人 | March 08, 2006 04:49 PM
名無之直人さん
ある制度やルールが役にたつかどうかを考える際、それ自体の「正しさ」よりも、実施のためのロジスティクスとか従わない人への対応手段とか、そういったものがカギを握ることがよくありますね。この件もそういうことなのではないか、と思います。
Posted by: 山口 浩 | March 11, 2006 04:28 PM