「Web2.0」と手品師のビジネスモデル
「Web2.0」というのはやや「釣り」だ。「Web2.0」かどうかは別として、最近はやっているネット関連ビジネスをみていて思っていたことがあったのだが、McDMaster氏に話してみたらえらく受けたので、書いてみる。
「最近はやっているネット関連ビジネス」について、やれ「Web2.0」だなんだと評する動きがある。私はその筋にはうといので、基本的にはそのへんの論評をする立場にないのだが、みていて、何か共通する特徴があるのではないかと思っていた。もちろん共通する特徴があって、だから「Web2.0」だなんだといわれているわけだが、こういう切り口ではあまり指摘されていないように思うのだ。
その種の会社って、「あんまり儲けようとしていない」んじゃないか、と。
いやもちろんどの会社も利益のためにやってるわけだし、きちんとしたビジネスモデルがあって、だから成功しているわけだが、それにしても、だ。たとえばGoogleにしても、はてなにしても、ミクシィ(社名変更したんだよね?)にしても、やろうとすればもっともうけ一直線!的にできなくはないところをそうはしないでいるような気がする。有料でやってもいいところを無料にしてしまったり、APIを公開してしまったり。で、それがユーザーをひきつける要素になっているだけでなく、競争相手の参入や対抗策の余地を大きく制限するために、競争力の源泉にもなっていると。
で、こういうやり方について、どこかでみたことがある、という既視感があったわけだ。それが、手品師だ。最近の手品師というのは、タネ明かしをよくやる。テレビなどでよくみかけるのは「マジックのタネ教えます」みたいなやつ。手品をやっているところを裏から映したりスローモーションで出したりして、どうやっているかをさんざん見せる。で、そのうえで、自分のネタだけはタネを公開しない。想像するに、この狙いは、単に客の関心をひきつけるというだけでなく、テクニック的に劣る競争相手の「市場」を奪うことにあるのではないだろうか。タネを公開されてしまった手品師は、存在意義を失う。黙って退場するしかない。で、自分だけは独自のテクニックをもっていて、相手に公開されることがないから、安泰であると。これが最近の手品師のビジネスモデルだ。もちろん、自分自身も持ちネタの一部を失うし、「禁じ手」だったわけだが、最近はそうもいっていられないらしい。
このやり方と、最近はやりのネット企業のやり方とが似ているのではないか、というのが今回の主張。特にGoogleのやり方などを見ていると、これまで他社が有料で提供していたものを無料で、しかも高いレベルで提供してしまうことによって、他社の事業機会を奪い取るといった要素もあるのではないか、と思える。でも他社は、Googleのやっていることをまねすることはできない。何よりもあのサーチエンジンに代表される技術の裏づけがあるからだ。別に有料化したら事業が成り立たないといことはないのだろうが、市場の規模はぐっと小さくなっていたはずだ。そこではもうけなくていい、そういう割り切りが、多くのユーザーをひきつけている。
ね?似てない?
そこから発展してまたつらつら考えるに、こういう「あまりもうけなくていい」(誤解を招きやすいねこの書き方は)経営姿勢というのは、これからけっこう重要になってくるのではないだろうか。権利にこだわりすぎたり、有料化ばかりを志向したりとかしてると、かえって市場が育たなくなる。逆に、もうけなくていいって決めちゃったら、もうけようという会社はかなりつらい立場になる。古風にいうと、肉を切らせて骨を断つ、というたぐいなんだろうか。コンサルふうにいえば、ビジネスのフレーミングを変えよう、ということなのかもしれない。とにかく、頭をやわらかく、欲張りすぎず、がカギなのではないだろうか。
というわけで、「手品師」各社の今後のさらなるご健闘を期待しつつ。
※McDMasterさんが同じネタで書くかもしれない。あちらのほうがきちんと技術とか踏まえて書くだろうから、そちらもご参照。
※2006/2/3追記
「こういう切り口ではあまり指摘されていないように思うのだ。」と書いた点について。たとえばこんなあたりをみてると、「ほーれやっぱり」という気がする。とはいえ、利益に対する態度に関しては、どこかで似た趣旨のことを聞いたことがあったかもしれない、という気もしてきた。いただいた梅田さんの本に、グーグルの「邪悪にならない」というポリシーのことが書いてあったが、それもある意味ここでの趣旨に近いかも。まあ、人間完全にオリジナルのアイデアなどなかなかないものだ。一応、「手品師」というのは私が考えたたとえだし。
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Comments
冒頭の、やや「釣り」だ。の部分はどこに行ってしまったのでしょう・・?
でも手品師と似てるというのは、納得です。
Posted by: reader | February 03, 2006 01:33 PM
readerさん、コメントありがとうございます。
「釣り」というのは、「『Web2.0』とか書いたら『おっ』と思う人がいるかなぁ」ぐらいの意味です。最近はやっているもののどれがWeb2.0でどれがそうでないかなんていう不毛な議論に入り込むのもめんどくさかい(そもそもそんなに詳しくもない)のですが、まあ一種のアイキャッチですね。失礼しました。
Posted by: 山口 浩 | February 04, 2006 11:31 AM