時間差で現れた超新星の重力レンズ像でハッブル定数を測定

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約1年の時間差で複数現れた超新星の重力レンズ像が、ハッブル定数の測定に初めて適用された。従来の測定手法2つのうち、宇宙背景放射から推定されたものに近い値が得られている。

【2023年5月18日 千葉大学】

現在の宇宙の膨張速度を表す「ハッブル定数」は、遠方の天体までの距離や宇宙の年齢を決める、最も重要な宇宙論パラメーターだ。ところが、異なる手法で測定すると、定数であるにもかかわらず値が異なっている。誕生直後の宇宙に存在した熱放射の名残である「宇宙背景放射」の測定からは、約67km/s/Mpcという値、近傍銀河までの直接的な距離測定からは、約74km/s/Mpcという値だ。宇宙の標準理論が正しければ値は一致するはずなので、この違いは理論の綻びを示唆している可能性があるという。

ハッブル定数の別の測定方法として、超新星爆発の像が重力レンズ効果によって時間差で複数出現することを利用するという手法が、1964年にSjur Refsdalさんによって提唱されていた。重力レンズ効果を受けると1つの超新星の光が複数の異なる経路を通ってくるため、像が時間差で見られることがある。到達時間差は宇宙の大きさ、すなわちハッブル定数に依存するので、時間差の観測からハッブル定数が測定できるのだ。

2014年、米・カリフォルニア大学バークレー校のPatrick Kellyさん(現ミネソタ大学)たちの研究チームが、55億光年先の銀河団「MACS J1149.5+2223」の方向に、95億光年彼方で発生した1つの超新星爆発が1か月ほどの間に4つの像として出現した例を観測した(参照:「初めて観測、重力レンズによる超新星の多重像」)。時間差で現れた複数像の初めての観測例だ。

銀河団MACS J1149.5+2223と、2015年12月に出現した5番目の像
しし座の銀河団MACS J1149.5+2223。左(2014年)と右上(2015年10月)では丸の中に5番目の像は写っておらず、右下(2015年12月)には写っている。左の矢印の位置は2014年に現れた4つの像(提供:NASA, ESA, and P. Kelly (University of California, Berkeley); Acknowledgment: NASA, ESA, and S. Rodney (University of South Carolina) and the FrontierSN team; T. Treu (UCLA), P. Kelly (UC Berkeley) and the GLASS team; J. Lotz (STScI) and the Frontier Fields team; M. Postman (STScI) and the CLASH team; and Z. Levay (STScI)、左図の矢印はアストロアーツによる)

当時より、この超新星「レフスダール」には5番目の像が出現するだろうと予測されていたが、その時期は半年後から数年後まで大きなばらつきがあった。実際には5番目の像が観測されたのは1年後の2015年12月だ。

Kellyさんたちは、この出現時間差や、出現後の明るさ変化を説明するようなモデルを構築し、そこからハッブル定数の値を約64.8km/s/Mpcと求めた。50年以上前にRefsdalさんが提唱した手法でハッブル定数が測定された初の事例だ。従来の2つの手法のうち、宇宙背景放射の測定から得られている小さいほうの値を支持する結果である。

今回の手法では、多くの超新星の重力レンズ像を時間差をおいて観測することが不可欠だ。ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の銀河団観測や、観測準備中のベラ・ルービン天文台の広天域モニター観測などにより発見例が増えれば、ハッブル定数の値に関する理解が進むと期待される。

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