【大学新入生に告ぐ】大学は4年で卒業して就職しなさい。絶対にだ。
たくさんの新入生や新入社員が新しい環境で勉強や仕事を始める特別な月だ。
私は、多くの人が将来に希望を膨らませて何かを始めるそんな日本の四月が好きだ。
自分が小学校、中学、高校、大学、大学院に入学した日のこと、
初めての職場に入社した日の事を昨日のように思い出す。
私はいわゆる日本でサラリーマンをやってから
いまは米国で博士号を取って大学教員をしているのだけど、
何でそんなに変則的なキャリアになっているのか、
少し書いてみたい。
書いてみようと思ったきっかけは、「発言小町」の次の投稿だ。
大学新入生に「お金が要らないのはあと4年」と告げること(By 高校生の父)
長男がこの春大学に入ります。
そろそろ自立させる準備にかかろうかな、ということで、妻と話し、
以下のような条件を息子に提示しようかなと思っています。
妻との間では、「妥当な条件になっているのではないか」
という結論になっていますが、一般的に見てどうかな?
と不安もあるのでご意見を頂きたいです。
(1)今から4年間は学費・生活費ともに親が完全に負担する。
(2)正当な理由なく留年して学生生活が5年目に入る場合、
その後の学費の半分は自分で働くなどして負担すること。
(3)留学や院進学などで学生生活を延長することは可能だが、
その学びが必要なものだということを親にプレゼンして納得させることが条件。
(4)学生生活が終わっているか否かを問わず、我が家に無料で住めるのはあと4年間。
5年目からは月3万円の家賃兼食費を徴収する。なお家賃兼食費はその後1年ごとに
月1万円ずつ上昇していき、上限はない。
(5年もすれば、自分でアパートを借りたほうが安くなるという設定です)
大学に入学する時点で息子に提示する条件として、いかがでしょうか?
皆さんは、この投稿を読んでどう思われただろうか。
私は「こんな親ばかりだから若者が萎縮するんだな」と思った。
投稿した人は4年で大学を出た典型的な大卒サラリーマンにまず間違いない。
1930代半ば〜60年代に生まれた日本人の多くは、
極めて安定した社会の中で真面目に勉強して進学、就職をし、
身を粉にして働くのと引き換えに会社の手厚い保護を受けて良い生活を送ってきた。
自営業や大学研究職のようなイレギュラーな職業に就いていた人を除けば、
今もなおそうした人生を当たり前のものと受け止め、
無意識のうちに子どもにもそうなって欲しいと願っているのだろう。
私も、モーレツサラリーマンと専業主婦に子供二人という
典型的な昭和のサラリーマン家庭で育った。
大学に入学する前から数学者になりたいと思ってはいたけれども
同時にそれはイレギュラーなキャリアなのだという意識はあったし、
大人になるにつれ、とびきり優秀でもない自分にとって
それが非常にリスクの高いキャリアなのだということも
認識するようになっていった。
先輩の院生から、
「現在の数学系研究職のジョブマーケットは求人倍率0.05倍
(つまり20人に1人しか就職できない)らしい。」
などと言う話を聞いたり、
博士課程の院生が仕事を見つけられずに苦しんでいるのを見て、
「もちろんキャリアは自分の努力次第だけれども
仮に頑張ったところで上手く行かなければ大変なことになる」
と思うようになった。
私は大学院で落ちこぼれて専門分野に対する興味自体を失っていったが、
分野を変えたり環境を変えたりして何とか踏みとどまろうというエネルギーが
湧きおこらずに、ともかく新卒カードを切れるうちに就職してしまおうと思ったのは、
自分が育った家庭のように経済的に何の不安もない豊かな生活を送りたいという、
まわりから無意識のうちに刷り込まれた価値観とプレッシャーが大きかった。
そして実際にめでたく良い職場に就職し、親元を離れ、
忙しくて楽しい充実した社会人生活を送ってみたものの、
結局、経済的安定や社会的地位なんてものは自分をそれほど幸せにはしないようだし、
キャリアに関する悩みはいつまでも消えないのだということに気付いて
もう一度分野を変えてやってみようと思い直したというわけだ。
博士を取った時には、大学入学から実に16年が経っていた。
もちろん、私は大学を4年で卒業したからこそ、
修士を取り、良い職場で経験を積み、留学して大学院に行き直すことができたと
言えない事もないし、別に好き好んで1年間遊んでいたこともない。
しかし大学を卒業して15年経ったいま、
少なくとも大学を4年で卒業すること、修士を2年で取ること、
に大して意味はなかったのだなと感じる。
若さ溢れる大学新入生には、
「大学は4年で卒業して就職しなさい。絶対にだ。」
という両親に対して、
「俺は大学でこれからの事をじっくり考えるんだ。
何年かかるかなんてわかんねーし、辞めるかも知んねえ。
大学は実家から1時間だけど自由に考えたいから一人暮らしさせろ。」
と言い返せるくらいのエネルギーが欲しいところである(※)。
※ ただし裕福な家庭に限る。