たくさん稼いでもカツカツなアメリカ人
オバマ政権は年収25万ドル以上の世帯の所得税を
引き上げようとしているが、富裕層からあからさまな反対の
声がたびたびメディアで取り上げられている。その内容はおおよそ
「年収25万ドル超だが生活はカツカツだ」というものである。
以下は、シカゴ大学法学部教授のTodd Henderson氏の主張を
Himaginaryさんの日記経由で引用したものだ。
ちなみに、この教授の世帯所得40万ドル超と推定されている。
日本で世帯収入2500万円超の人が出てきてメディアで
同じ事を言う状況はちょっと考えられない。
何か日米で状況が違うのだろうか?
どうやら、アメリカ人の経済的な柔軟性は所得水準調整後で
日本よりも大幅に低いのではないかと思われる。
主な理由は
アメリカ人はかなり多くのものを消費ではなく投資と捉えているからだ。
典型的なのは医学部への進学費用だ。
アメリカ医大協会(AAMC)によれば、2009年にアメリカの医学部を卒業した
学生のうち58%は15万ドル以上の貸与奨学金残高を抱えている。
金利に関して政府の補助が出る Stafford loanの上限は65,500ドルであり、
多くの学生が民間の高利のローンを利用していることが分かる。
こうした莫大な額を借りるのは、医師になったあとに費用を
回収できるという計算があるからだ。
60代まで奨学金の返済に追われるのも医師の間では珍しくない。
不動産にしても、これまで安定的に不動産価格が上がっていたアメリカでは、
多くの一般人が、将来的にも同程度の値上がりを仮定して多額のローンを組んだ。
不動産の下落が大きかった州では、自宅保有者のうち50%以上が水面下、
すなわち、ローン残高が持ち家の価値を上回っている状態にある(Calculated Riskの記事)。
アメリカ人の硬直的な経済状況は、米国経済の大きな制約となっている。
例えば、含み損を抱えた持ち家所有者の引越しは困難を抱えるため、
失業した際の職探しが大きな障害となることは想像に難くない。
例えば、水面下の自宅保有者の割合が最高のネバダ州の失業率は
14.4%と一年前に比べて1.8%も上昇している。
これは、不動産業界ではなく実需の影響を強く受けたミシガンの
失業率が足元で低下していることとは対照的である。
医師が持つ多額のローン残高は、医師の報酬水準を通して
医療費の抑制を難しくしている。
もちろん、個別事例を見ていけば、
経済的に問題を抱える世帯の多くは経済的な意思決定に
問題があるケースが大半だろう。
例えば、夫婦で恐らく30~40万ドルもの奨学金を抱えながら、
60万ドル(*1)もする家をローンで買ったり、
「愛国的に」株式市場に投資したりするのが妥当な判断だろうか?
しかし、そんな個人の判断ミスを攻めても仕方がない。
それは教授よりも一枚上の金融機関や不動産業者が
教授世帯から利益を奪うといういわば自然の摂理だ。
(*1) アメリカの固定資産税の実効税率を2.5%程度と仮定
投資はそれに見合うリターンがあれば結果としては望ましい。
しかし個人の場合、投資は大抵負債によってファイナンスされる一方で、
リターンの方は不確実である。
これまでの判断の良し悪しにかかわらず、投資に失敗して
負債だけが残ってしまった人が増えれば
そうした人の経済的な柔軟性の低下を通して
アメリカの国としての柔軟性も低下してしまう。
アメリカの長期的な経済見通しは比較的明るいが、
こうした柔軟性の低さには注意する必要がありそうだ。
引き上げようとしているが、富裕層からあからさまな反対の
声がたびたびメディアで取り上げられている。その内容はおおよそ
「年収25万ドル超だが生活はカツカツだ」というものである。
以下は、シカゴ大学法学部教授のTodd Henderson氏の主張を
Himaginaryさんの日記経由で引用したものだ。
ちなみに、この教授の世帯所得40万ドル超と推定されている。
オバマ政権は、ブッシュ減税廃止により、25万ドル超の収入を得ている家計の
税金を引き上げようとしている。自分は法学教授であり、妻も医者として働いて
いるので、その25万超のカテゴリに入ってしまう(ただし、大幅に超えている訳ではない)。
だが、家計内容は火の車に近く、増税を賄う余地は無い。
家計の最大支出項目は税金で、連邦税と州税を合わせて10 万ドル近くに達する。
2番目の支出項目は不動産関連。また、固定資産税に1万5000ドル、
子供の私立学校の学費、奨学金ローン(妻は25万ドル、自分はそれよりは少ない)
を支出している。おまけに愛国的行為として株式市場に投資しているが、
そこでの損失もある。
日本で世帯収入2500万円超の人が出てきてメディアで
同じ事を言う状況はちょっと考えられない。
何か日米で状況が違うのだろうか?
どうやら、アメリカ人の経済的な柔軟性は所得水準調整後で
日本よりも大幅に低いのではないかと思われる。
主な理由は
アメリカ人はかなり多くのものを消費ではなく投資と捉えているからだ。
典型的なのは医学部への進学費用だ。
アメリカ医大協会(AAMC)によれば、2009年にアメリカの医学部を卒業した
学生のうち58%は15万ドル以上の貸与奨学金残高を抱えている。
金利に関して政府の補助が出る Stafford loanの上限は65,500ドルであり、
多くの学生が民間の高利のローンを利用していることが分かる。
こうした莫大な額を借りるのは、医師になったあとに費用を
回収できるという計算があるからだ。
60代まで奨学金の返済に追われるのも医師の間では珍しくない。
不動産にしても、これまで安定的に不動産価格が上がっていたアメリカでは、
多くの一般人が、将来的にも同程度の値上がりを仮定して多額のローンを組んだ。
不動産の下落が大きかった州では、自宅保有者のうち50%以上が水面下、
すなわち、ローン残高が持ち家の価値を上回っている状態にある(Calculated Riskの記事)。
アメリカ人の硬直的な経済状況は、米国経済の大きな制約となっている。
例えば、含み損を抱えた持ち家所有者の引越しは困難を抱えるため、
失業した際の職探しが大きな障害となることは想像に難くない。
例えば、水面下の自宅保有者の割合が最高のネバダ州の失業率は
14.4%と一年前に比べて1.8%も上昇している。
これは、不動産業界ではなく実需の影響を強く受けたミシガンの
失業率が足元で低下していることとは対照的である。
医師が持つ多額のローン残高は、医師の報酬水準を通して
医療費の抑制を難しくしている。
もちろん、個別事例を見ていけば、
経済的に問題を抱える世帯の多くは経済的な意思決定に
問題があるケースが大半だろう。
例えば、夫婦で恐らく30~40万ドルもの奨学金を抱えながら、
60万ドル(*1)もする家をローンで買ったり、
「愛国的に」株式市場に投資したりするのが妥当な判断だろうか?
しかし、そんな個人の判断ミスを攻めても仕方がない。
それは教授よりも一枚上の金融機関や不動産業者が
教授世帯から利益を奪うといういわば自然の摂理だ。
(*1) アメリカの固定資産税の実効税率を2.5%程度と仮定
投資はそれに見合うリターンがあれば結果としては望ましい。
しかし個人の場合、投資は大抵負債によってファイナンスされる一方で、
リターンの方は不確実である。
これまでの判断の良し悪しにかかわらず、投資に失敗して
負債だけが残ってしまった人が増えれば
そうした人の経済的な柔軟性の低下を通して
アメリカの国としての柔軟性も低下してしまう。
アメリカの長期的な経済見通しは比較的明るいが、
こうした柔軟性の低さには注意する必要がありそうだ。