「お客様、オーロラが出ました!」 ──アイスランドのホテルで出会った目覚ましコール

アイスランドの一部のホテルでは、夜空にオーロラが現れたら、すぐさま電話で宿泊客を起こしてくれる。一生に一度かもしれない、この神秘的な光のショーを見逃さないための特別なサービスだ。
Nature Night Outdoors Sky and Aurora
オーロラは北半球では9月初旬から4月中旬まで見ることができる。Photograph: Owen Humphreys; PA Images; Getty Images

アイスランドで滞在したホテル・ランガの部屋で、真っ先に目についたのが電話機の「オーロラ目覚まし」というボタンだった。何の変哲もない小さな黒いボタンだったが、わたしにとってはこのホテルで最も魅力的な機能のひとつだった。

毎日このボタンを押すと、オーロラ目覚ましコールの対象リストに追加されたことが、自動メッセージで知らされる。そして毎晩、祈るような気持ちでベッドに入る。最終日の午後11時30分頃、まさに眠りにつこうとしたときに、ホテルの部屋の電話が鳴った。受話器を取ると、自動メッセージで「オーロラを探すように」との知らせが流れた。すぐにベッドから跳び起き、コートと帽子を身につけ、ほかの宿泊客に続いて外に走り出た。

オーロラを肉眼だけで見るのは難しかった。そこでスマートフォンを取り出して、頭上を流れる雲に焦点をあてて、できる限り遅いシャッタースピードで写真を撮ってみた。するとオーロラが初めて見えた。緑と紫の光が、さまざまな色合いで雲の間から流れ出ていた

ホテル・ランガは、北欧の島国であるアイスランド南部の人里離れた場所にある。その前庭を(オーロラを見ようと)歩いていると、カメラ越しにオーロラの光が見えただけでなく、暗闇に目が慣れるにつれて、星がよく見え始め、星は今まで見たことがないほど鮮明に輝いていた。夜が更けるにつれ、同じホテルに滞在しているコネチカット州からの家族と親しくなった。わたしたち5人はそれから数時間、写真を撮ったり、雲が流れてもっとオーロラがよく見えることを期待して待ったりしていた。

携帯電話でオーロラを“キャッチ”

オーロラ目覚ましサービスのあるホテル滞在は格別なものだった。特に旅の最終日の夜までには時差ぼけが解消されていたから、オーロラを観る時間だと知らされたとき、わたしは深い眠りにつきかけていた。(電話がかかってこなければ)オーロラショーを見逃していたかもしれない。

ホテル・ランガの専門家たちに、肉眼では見えにくかった(携帯電話のカメラを通してオーロラを見た)話をした。そして、どうしてそうなるのか理由を聞いてみた。すると、(今回の宿泊代を負担してくれた)ホテルのマーケティングマネージャーであるアニタ・ギルファドッティルは、次のように解説してくれた。

「太陽活動が活発でないときは、人間の目には見えにくいオーロラをカメラでとらえることができます。長時間露光すると、カメラはより多くの光をレンズに取り込むので、写真にオーロラが写るのです。ところが、太陽活動が活発なときは、オーロラは肉眼で簡単に見ることができるのです」

目覚ましコールの仕組み

毎日、ホテルの部屋にある電話の「オーロラ目覚ましコール」ボタンを押すと、わたしの部屋番号がコール対象者リストに追加される仕組みになっていた。「宿泊客が目覚ましコールの電話を取らなかった場合、わたしたちはお部屋まで行ってドアをノックして、お客様がオーロラを見逃さないようにしています」とギルファドッティルは語る。

ただし「オーロラは急に出たり消えたりします。たとえ夜間警備員がオーロラ目覚ましコールすべきだと決断をした時点でオーロラが見えていたとしても、宿泊客が外に出てくる頃には消えてしまっていることもあるのです。数秒のこともあれば、数分、数時間のこともあります。いつまで見えているのかは、決してわからないのです」

アイスランド西部のフーサフェルという町にあるホテル・フーサフェルでも、宿泊客にオーロラ目覚ましコールサービスを提供している。「宿泊客は各部屋とも受付でオーロラ観測を申し込むことができます。もし夜間にオーロラが現れたら、夜間受付のスタッフがお部屋に電話でお知らせします」と、同ホテルのグループ・コーディネーターであるアスラウグ・ラグンヒルダルドッティルは語る。「電話をした後、お客様には外に出ていただき、北の方角を向いてオーロラを鑑賞していただいています」

オーロラは9月初旬から4月中旬までの間、いつでも見られる可能性があるが、その出現を予測するのは非常に難しい。ダウンロード可能なオーロラ予測アプリがいくつかあって、ホテル・ランガでは、「アイスランド・アット・ナイト」という予測サイトを利用しているそうだが、かなり正確だという。

コールをしてくれるホテル

ホテル・ランガは、あえてアイスランド南部の人里離れた場所に建てられているので、訪問客がオーロラを見られるチャンスが高い。ここはまた、いろいろな滝やそのほかの人気スポットを訪れるにも絶好の場所だ。

冬のホテル宿泊料金は、スタンダードルームで1泊394ユーロ(約6万5,000円)からで、オーロラチェイサー向けの4泊宿泊プラン「エイジ・オブ・オーロラ」のスタンダードルームの料金は1泊303ユーロ(約5万円)からだ。冬季の全客室タイプの平均料金は、朝食と地熱ホットタブの利用が含まれて1泊600ユーロ(約9万9,000円)だ。

ホテル・フーサフェルも、オーロラ鑑賞には絶好の場所に位置しているが、アイスランドのかなり北部に建っている。「ホテルはアイスランドで2番目に大きいラングヨークル氷河のすぐ近くにあります。ここでよく雲が途切れて(オーロラを)を見ることができます」とラグンヒルダルドッティルは話す。ホテル代は、部屋の広さと滞在時期によって異なり、1泊308ドル(約4万7,000円)〜875ドル(約13万4,000円)となっている。宿泊料金には朝食代と地熱プールやホットタブの無制限利用が含まれている。同ホテルは、しばしばホームページで割引キャンペーンを行っているが、特に閑散期に実施していることが多い。

わたしがアイスランドを訪問したのは8月末のことだったが、この夏の太陽活動の活発化のおかげで、念願だったオーロラを鑑賞することができた。しかし、もし見られなかったとしても、アイスランドでやることはいっぱいある。活火山や休火山を眺めたり、あちこちにある素晴らしい滝を見るためにドライブしたり、おいしい食事を食べたりするなどだ。また近いうちに訪れたいものである。

(Originally published on wired.com, translated by Miki Anzai, edited by Mamiko Nakano)

※『WIRED』による観光の関連記事はこちら。


Related Articles
sun
太陽から吹き出す極めて高温なプラズマとして知られる太陽風。この何十年も前から謎に包まれていた現象の発生源が、太陽の上層大気であるコロナの底部で断続的に発生している微小な噴出活動である可能性を、米国の研究チームが論文で公表した。
article image
日食は動物の生態にいかなる影響をもたらすのか──。その謎を解明すべく、米航空宇宙局(NASA)が環境音を録音したサウンドスケープのデータを一般の人々から募り、それらを分析しようと試みている。
"Future?" spray painted on a yellow concrete barrier with trees and minimally snowy mountains in the background
気候変動の影響で降雪量が減り、欧州のスキー場は運営の危機に直面している。そこで、自力で雪山を登るスキーツーリングや夏に斜面を下るマウンテンバイクといった、スキー以外のスポーツへの転向を進める試みが始まっている。これらは人工雪を用いるより、環境への負荷が少ない解決策だ。

雑誌『WIRED』日本版 VOL.54
「The Regenerative City」 好評発売中!

今後、都市への人口集中はますます進み、2050年には、世界人口の約70%が都市で暮らしていると予想されている。「都市の未来」を考えることは、つまり「わたしたちの暮らしの未来」を考えることと同義なのだ。だからこそ、都市が直面する課題──気候変動に伴う災害の激甚化や文化の喪失、貧困や格差──に「いまこそ」向き合う必要がある。そして、課題に立ち向かうために重要なのが、自然本来の生成力を生かして都市を再生する「リジェネラティブ」 の視点だと『WIRED』日本版は考える。「100年に一度」とも称される大規模再開発が進む東京で、次代の「リジェネラティブ・シティ」の姿を描き出す、総力特集! 詳細はこちら。