『WIRED』日本版編集部が選ぶ、2024年10月に公開した注目の5記事

この10月に「WIRED.jp」で公開した記事のなかから、ヒップホップの歴史やシャープのEV参入など、編集部が注目した5本のストーリーを紹介する。
『WIRED』日本版編集部が選ぶ、2024年10月に公開した注目の5記事
RapidEye/Getty Images, WIRED JAPAN
PHOTO: NurPhoto/Getty Images

「空飛ぶクルマを望んでいたのに、代わりに手にしたのは140文字だ」というピーター・ティールの有名な言葉がある。これは、人類を初めて月に送ったアポロ計画の時代のコンピューターよりも高性能なスマートフォンを誰もが手にしているのに、それでやっていることといえばSNSぐらいだ、というある種の絶望と揶揄なのだけれど、いまや毎年のようにスマートフォンのアップグレードが繰り返されることによって、この嘆きはますます深いものになっている、とも言えるだろう。ピーク・オイルと同様にいまや世界はピーク・スマートフォンを迎えている。最新のiPhone16は来たるべきAI時代のためのデバイスだと謳われているけれど、まだ実装はなされていない。一方で、AIデバイスを謳うほかの物理的ガジェットもいまのところイマイチだ。今後もスマートフォンなるものをわたしたちが使い続けるのかどうか、人類はいまその分水嶺に立っている。(松島倫明) >>記事全文を読む


「United Micro Kingdoms(UMK)」をご存知だろうか? 「4つの社会グループがそれぞれ自立している未来のイギリス」を描いたフィクションで、2013年、スペキュラティブデザインの提唱者として知られるアンソニー・ダンとフィオナ・レイビーによって発表されている。同じく英国人のアレックス・ガーランドによる『シビル・ウォー アメリカ最後の日』は、(まもなく雌雄が決するカマラ・ハリスvs.ドナルド・トランプの闘いに象徴される「今日の分断」を突き詰めた近未来のシミュレーションではなく)このUMKとも共鳴する「スペキュラティブ(思弁的)な作品」であることが、池田純一による本レビューを読めばおわかりいただけるはずだ。日本でもヒットを記録した同映画を通じて、ガーランドは何を浮き彫りにしようとしたのか……。その真意をたぐり寄せる補助線として、本記事は、日本語で読める最良の記事のひとつといえるだろう。(小谷知也) >>記事全文を読む


年季の入ったコルグTriton Leで音をベンドするジョン・レームクール。Photograph: Natalie Behring

まるで金属製のドアをバタンと閉めたような、またはアルミ製のゴミ箱をズドンと蹴っ飛ばしたようなパーカッション・サウンドがある。2000年代以降に生み出されたヒップホップのトラックにたびたび登場し(02年にザ・クリプスがリリースしした「Grindin’」が流行に火をつけたとされる)、そしていまなお多用され、「現在TikTokでバイラルになっている3曲に1曲で、同じようなサウンドを聴くことができる」ほどだという。さてこのサウンドは、誰が、どのようにして創造し、なぜこれほどまでに多くのリスナーやアーティストを魅了するのだろうか? 5年をかけてリサーチしてきたライター、アシュウィン・ロドリゲスは、その起源となったKORGのシンセサイザー「Triton」とプラグインサウンドの正式名称「Tribe」を探し出し、創造主たるジョン・レームクールとの対面を果たす(zoomで)。本稿にはアーティストやプロデューサーやトラックなど、とにかく多くの固有名詞が登場するのだが、これはつまりヒップホップという文化が、どこまでも固有のアイデアや才能によって、まるで星雲のように形づくられてきたことを示している。サンプリングを多用する音楽の、たったひとつのプラグイン・サウンドですら、これほど豊かな歴史と逸話がある。つまり独特の光を放つ。(田口悟史) >>記事全文を読む


Photograph: Sharp

家電大手のシャープが電気自動車(EV)のコンセプトモデルを発表して話題になったが、実はこのプロジェクトは自動車業界に訪れるあろう転換点の予兆でもある。親会社である台湾の鴻海科技集団(ホンハイ、通称はフォックスコン)が、iPhoneをはじめとするデジタル製品の開発・生産で築いたエコシステムをEVにも広げていく取り組みの一環だからだ。世界を制したホンハイが、いかにEV分野でも覇権を狙っているのか。その戦略は知っておく価値がある。(瀧本大輔) >>記事全文を読む


PHOTOGRAPHS: FUKA KATO

『WIRED』日本版が年に4冊の雑誌を出すタイミングで、「読書室」主宰の三砂慶明が副読本をセレクトしてくれている。最新号「The Regenerative City」の刊行によせて掲げられた今回のテーマは、都市 × 人類の歩み。都市とは何か、という問いはこれまで繰り返し提起されてきた。それを6000年という長い歴史から考察することで、わたしたちはこの先にどんな「リジェネラティブ・シティ」を描けるだろう──。この5冊は、遠い未来まで思考を飛ばし、バックキャストで考える一助となる。(アンスコム江莉奈) >>記事全文を読む

(Edited by Erina Anscomb)


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雑誌『WIRED』日本版 VOL.54
「The Regenerative City」

今後、都市への人口集中はますます進み、2050年には、世界人口の約70%が都市で暮らしていると予想されている。「都市の未来」を考えることは、つまり「わたしたちの暮らしの未来」を考えることと同義なのだ。だからこそ、都市が直面する課題──気候変動に伴う災害の激甚化や文化の喪失、貧困や格差──に「いまこそ」向き合う必要がある。そして、課題に立ち向かうために重要なのが、自然本来の生成力を生かして都市を再生する「リジェネラティブ」の視点だと『WIRED』日本版は考える。「100年に一度」とも称される大規模再開発が進む東京で、次代の「リジェネラティブ・シティ」の姿を描き出す、総力特集! 詳細はこちら。