サッカーのトップレフリーが見ている世界は、常人とは違う:研究結果

サッカーの試合を見ていると審判の判定に疑問をもつこともあるだろう。だが、それでも正しいのは彼らかもしれない。トップレフリーたちの驚くべき「視覚」を調べた研究を紹介。
サッカーのトップレフリーが見ている世界は、常人とは違う:研究結果
UEFAチャンピオンズリーグ2016やUEFAユーロ2016で決勝を務めた英国のプロレフリー、マーク・クラッテンバーグ。PHOTO: REUTERS / AFLO

サッカーの監督もプレイヤーもファンの多くも、試合の流れを変えるような明らかに間違った判定を下すとレフリーを非難する。しかし、それは筋違いかもしれない。

トップレヴェルの試合を務めるようなプロのレフリーは優れた視覚をもっており、レヴェルの低いレフリーや一般人と比べて、ファウルをよく見分けられることが判明した。

ベルギーと英国の研究者たちは、ベルギーの上位・下位リーグに在籍する39人のレフリーを対象に、ピッチにいるレフリー目線でファウルの場面を含む動画を視聴してもらった。レフリーのいわゆる「視覚探索行動」を調査するため、視標追跡技術が活用された。

視覚探索行動とは、プロのスポーツ選手が動きやスキルを調整する際に使う能力である。見た光景に対し、試合のルールに基づいて正確な判断を下すのにレフリーが基本としているものでもある。つまり端的にいえば、レフリーが、何を、どれくらい見たかを調べたのだ。

調査の結果、トップクラスのレフリーは61パーセントの正確さで反則処分(ノーカード、イエローカード、レッドカード)に相当するファウルを判断できたのに対し、低いクラスのレフリーの正確率は45パーセントだった。

「ファウル行為を見たトップクラスのレフリーは、何よりもファウルの原因となった身体部分から目を離しませんでした。これはつまり、このレフリーが見える範囲で最も重要な情報をとらえ、解釈していることを示唆しています」と共同著者であるベルギー・ルーバン大学のヴェルナー・ヘルセン教授は言う。

この調査で使われた動画クリップは、さまざまなファウル行為をシミュレーションした選手たちの協力で撮影された。できるだけ自然なシミュレーションとなるよう、特別な指示が選手に与えられることはなかった。全部で20の動画(オープンプレイ10、コーナーキック10)がつくられで、うち3つの動画ではファウルプレイが含まれていない。

オープンプレイとコーナーキックで、動画を見たレフリーが注意を集中する場所に違いはみられなかった。だが重要なこととして、トップクラスのレフリーはそれ以外のレフリーと比べて、アタッカーとディフェンダーの間にある「コンタクトゾーン」を注視する時間が長かった。

「今回の調査結果から、レフリーの経験レヴェルは長期記憶に転化されることで、獲得した知識によって視覚探索行動が促されていることがわかりました」とヘルセン教授は語る。「反対に、経験の少ないレフリーはランダムに焦点を定めているようです」

共同著者のヨッヒム・スピッツ博士はこう加える。「視覚探索行動は生来の認知機能ですが、訓練を通して改善することができます。トップクラスのレフリーの判断がなぜ優れているのかを理解することは、視覚探索行動の改善を目的とした訓練プログラムの考案に役立つでしょう」

この研究は『Cognitive Research』にて発表されている。


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TEXT BY VICTORIA WOOLLASTON