J・J・エイブラムスは3Dが嫌い? 『スター・トレック イントゥ・ダークネス』撮影秘話

日本でも好調な滑り出しとなったSF大作『スター・トレック イントゥ・ダークネス』。その迫力の映像を堪能するべく、IMAXシアターへ駆けつける人が多いそうだが、実は監督のJ・J・エイブラムスは当初、3Dには消極的だったという。そんなテクノロジーと映像へのこだわりや、次回作の『スター・ウォーズ7』、あるいは『スター・トレック3』についてにまで話は及んだ。
J・J・エイブラムスは3Dが嫌い? 『スター・トレック イントゥ・ダークネス』撮影秘話
PHOTOGRAPH BY KO SASAKI

J・J・エイブラムス

J・J・エイブラムス | J.J.ABRAMS
アメリカの映画プロデューサー・クリエイター、テレビプロデューサー・クリエイター、ドラマ・映画監督、脚本家、俳優、作曲家。1966年米ニューヨーク州生まれ。代表作として、TVシリーズに「フェリシティの青春」「エイリアス/2重スパイの女」「LOST」「PERSON of INTEREST 犯罪予知ユニット」「レボリューション」など、映画に『M:i:III』『スター・トレック』『SUPER 8/スーパーエイト』などがある。また『スター・ウォーズ』の新シリーズの監督就任が決定している。

──2009年の『スター・トレック』が世界的に大成功したことで、続編をつくるのは大変なプレッシャーがあったと思います。そんななかで、クリエイティヴな面では何を目指したのでしょうか?

スター・トレックという長い歴史をもつ作品であるのにこういうのは変に聞こえるかもしれないけど、ぼくらにとって重要だったのは、これまでの作品を考えないようにしよう、ということだったんだ。これを一本の単独の映画としてどうつくるのかということ、つまり、09年の作品を観ていなくても、この作品が面白いと思えるような作品をつくるべきだと思ったんだよ。続編がよく犯す過ちは、その世界のキャラクターのことを誰もが知っていると思うことなんだ。それに対してぼくらは、内側から外側へ有機的に広がっていくような物語を展開することを心がけたんだよ。もちろん、オリジナルのTVシリーズのファンなら気づくような、おなじみのモノも登場するけどね。

──オリジナルのTVシリーズはドラマが中心ですが、J・J・ヴァージョンの『スター・トレック』は、スペクタクルアクションと人間ドラマの融合の妙で、高い評価を得ています。これらのバランスに、あなたなりのルールはあるのでしょうか?

アプローチは極めて直感的なものなんだ。この映画の最後の45分間のアクションは激しいものになっているけれど、ぼく自身も編集の段階になるまで、こうなるとは思っていなかったんだよ。ただ、毎日毎日、バランスをうまくとることを考え続けていたことは確かだ。スペクタクル、冒険、アクションといった要素を、コメディ的要素や登場人物たちのドラマとどう融合させるか。こういったことは、どんな映画でもいつもチャレンジングなことなんだけどね。実際に、あとから撮り直したシーンもあったよ。

──今作では、クリス・パイン演じるカーク船長をはじめエンタープライズ号のクルーは成長を遂げますが、そのなかで最も強調されているのは、仲間同士の絆というテーマです。いま、このテーマを取り上げた理由は何でしょう? 時代を反映しているのでしょうか?

そう、ぼくらにとって、この映画の最大のテーマは“家族”だ。カークは、前作で若くして船長の座を手に入れたわけだけど、今回カークは、自分が負う責任の代償について考えざるをえない状況に追い込まれる。家族といっていいようなクルーたちに、どのような試練を与えるのかについては、脚本段階でぼくらは大いに議論したよ。そして、いかにその試練を乗り越えるのか。生き残る唯一の方法は家族が団結することだ、という結論にぼくらはたどり着いたんだ。

20世紀初頭から存在する映画の標準フォーマットというべき35mm(右)、1950から60年代にかけて、スペクタクル映画の発展とともに生まれた70mm(中)、そして、従来とは比較にならない巨大スクリーンでの上映を可能にするIMAX(左)。このフィルムのサイズ比を見るだけでも、IMAXがどれほど高精細な映像を上映可能なのかがわかる。 IMAGE: Wikimedia Commons(CC: BY-SA)

──IMAX+3Dと、ヴィジュアル面でもチャレンジされたと思いますが、この選択をした理由は?

まず3Dについてだけど、ぼくは消極的だったんだ。以前は、嫌いといってもいいくらいだった。これまで観た作品で個人的にいいと思ったものがなかったし、監督として、またひとつ頭痛のタネを増やしたくなかったからね。でも、それがスタジオ側の要求でもあったし、確かに『スター・トレック』というタイトルなら、アリかもって思えるようになったんだ。いくつもの3D映画にかかわり、フィルムを変換しているステレオグラファーのコリン・ターナーに頼んで、前作のいくつかのシーンを試しに3Dに変換してみたら、とても素晴らしかった。そこで可能な限り最高の2Dヴァージョンをつくり、その後、3Dヴァージョンに変換することに決めたんだ。ターナーは、最新の技術と素晴らしいアイデアをもっていたよ。

──撮影監督のダン・ミンデルだけでなく、あなた自身もカメラを操作していますが、最初から3Dカメラを使わずに、IMAXとアナモルフィックレンズで撮った2Dを、3Dへ変換するという方法を選んだ理由はなぜでしょう?

通常のフィルムの2倍の幅をもつ70㎜フィルムを使うことと、特殊なカスタムレンズを使うIMAXのフォーマットは、以前から好きだったんだ。豊かなヴィジュアルが得られるからね。30㎜のアナモルフィックレンズは、ぼくのお気に入りなんだよ。前作でも使ったけど、独特のフレアとかが面白いんだ。今回は、屋外のシーンをIMAXで撮って、屋内のシーンをアナモルフィックで撮った。冒頭の未開の惑星のシーンは、特にIMAXの素晴らしさを感じてもらえる象徴的なシークエンスだと思うよ。

──悪役のジョン・ハリソンを演じたベネディクト・カンバーバッチは、この映画でハリウッドでも大ブレイクしました。前作では、当時新人だったクリス・ヘムズワースを見出しています。才能ある俳優を見出すコツはどこにあるのでしょうか?

これも直感が大きいね。キャスティングは、まるで結婚することになる人と出会うようなもので、それを正当化する必要もないし、話し合ったり説明したりする必要もないものなんだ。ただ、“この人だ!”と確信するだけ。クリス・ヘムズワースのときはまさにそうだったし、ベネディクトもそうだよ。ぼくらは悪役にふさわしい俳優を、時間をかけて探していた。何人もの素晴らしい俳優に会ったけれど、ピンとこなかった。でも、ベネディクトに会ったときは、まさに彼こそがふさわしいと感じ、正しい選択であると確信できたんだ。その後、TVドラマシリーズの『SHERLOCK(シャーロック)』を見てド肝を抜かれたよ。“素晴らしい!”という以外に説明することはできないけど。

──ところで、次作は『スター・ウォーズ7』ですが、映画史に残るふたつの宇宙シリーズを手がけることに躊躇はなかったのですか?

このふたつのプロジェクトは、ぼくにとってはまったく別ものなんだ。どちらもやらせてもらえるのはありがたいことだと思うけど、だからといってそれが英断だとは思わないね。『スター・ウォーズ7』については、プレプロダクションが始まったばかりだからまだ何もいえないけれど、素晴らしいチームだからどのような経験ができるか楽しみだよ。『スター・トレック』の3作目があるとしたら、それについてはぜひ前向きに考えたいけれど、現時点ではまだ正式なミーティングはもたれていないんだよ。


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TEXT BY ATSUKO TATSUTA PHOTOGRAPH BY KO SASAKI