2008年 10月 11日
Lehman破綻の代償? |
Lehman Brothersが9月半ばに経営危機に陥った際、アメリカ金融当局が下した決断は、「救済なし」でした。巨額の損失を抱えて流動性危機に陥りつつあった同社を、アメリカ政府の保証なしに救済出来る体力のある金融機関は存在せず、158年の歴史を持つ大手投資銀行は、あっさりと破綻に追い込まれました。
巷からは、「モラルハザードを起こさないためにやむを得ない」、「ミスを犯したのだから破綻して当然」という声も聞かれます。しかしLehmanを破綻させたことは、30%以上の株式を従業員が保有し、愛社精神に溢れた社員の多かった同社を解体する結果になったのみならず、世界中の金融市場や経済に、極めて深刻な影響を及ぼすことになってしまったと言える気がします。
WSJの9月29日の記事「Lehman’s Demise Triggered Cash Crunch Around Globe(リーマン破綻が世界中でキャッシュクランチをもたらす」にその話が詳しく書いてあったので、少々触れてみたいと思います。
経営危機に瀕していた同社を救うため、9月半ばの週末に金融当局・業界関係者が集まって救済案を話し合ったことは、周知の通りです。しかし後に明らかになったところによると、Bear Stearnsのケースと比較して、「必要とされる公的資金の額が莫大であった」、「担保が不十分だった」、「破綻しても市場に与える影響が収拾可能と想定された」などの理由から、同社は事実上当局から「見捨てられる」形で、破綻することになりました。
しかし大手グローバル投資銀行が破綻することで市場が受けた影響は、当局が想像していたものを遥かに上回っていると言える気がします。
CDSとAIG破綻
その影響がまず最初に現れたのは、CDS(クレジットデフォルトスワップ、企業破綻に対する債権に掛けられた保険)です。
WSJが指摘する通り、Bear Stearnsが政府のアレンジでJP Morganに救済された際は、同社の株主は株価の急落によって甚大な損害を被りましたが、同社の債権者はデフォルトという最悪の事態を回避することが出来ました。その結果、債券・ローン市場には、大手金融機関の信用には政府が介入するという、安心感が広がっていたと言える気がします。
それに対してLehmanは、文字通り「破産」に追い込まれ、株式の価値がゼロになって株式投資家と従業員は全てを失うことになった上、債券の投資家も、デフォルト→回収価値が分からないという、最悪の状況に追い込まれ、同社の債権は、担保付の短期債も含めて価格が急落しました。
大手金融機関が破綻したことで、CDSのスプレッド(保険プレミアム)は急騰し、保険の売り手は、保険金を担保するための巨額の追加資金が必要になりました。WSJによると、Lehmanが破綻した翌日に発生した追加担保額は、$140bn(約14兆円)に上ったそうです。
その結果、$400bn(約40兆円)に及ぶCDSを取り扱っていた保険最大手のAIG(アメリカンインターナショナルグループ)が破綻に追い込まれるという、想定外の事態になりました。
同社が契約していたCDSが全て破棄されることのインパクトの大きさ、本業の保険契約社に被害が及ぶ深刻さを考慮して、政府は巨額の救済融資(事実上の国有化)を行うことになりました。
このように、Lehmanを破綻させた二日後には、既にその失敗が明らかになりつつあったと言える気がします。
MMFと換金売り
その週の後半には、預金と同等に安全だと思われていた投資信託の一種であるMMF(マネーマーケットファンド)に、元本割れが発生することが発覚しました。
通常MMFは、低金利でも安全なコマーシャルペーパー(CP)に投資をしています。CPは企業が日々の運転資金を調達するために発行するものですが、Lehmanが破綻したことで同社のCPの価値は、元本1ドルに対して20セントというところまで急落してしまったそうです。それにより、著名なMMFファンドReserve Primary Fundが、14年来で初めて元本割れを起こすという事態が発生しました。
安全だと思っていたMMFの価値が毀損したことで、投資家の心理は一気に冷え込み、株式投信の解約が加速したことは、想像に難くありません。その結果株式市場は、投資信託による巨額の「解約売り」を浴びることになりました。
解約売りは価格に関係なく発生するため、下落は留まるところを知らず、市場は二週間で18%と「大暴落」してしまいました。10月10日現在、アメリカを代表する株式指標であるS&P500は、年初来で39%下落しており、これがアメリカ国民の年金に与える影響は、計り知れません。
またCPは、幅広く短期資金の調達手段として利用されていたため、Lehmanの破綻がCP市場の機能不全をもたらしたことで、全く無関係の業界・企業まで、資金繰り難による破綻の危機に直面することになりました。その結果CP市場にまでアメリカ政府が直接流動性を供給することになったのは、ご存知の通りです。
流動性欠如による市場暴落
Lehmanが破綻したことで、残る二社の投資銀行であるGoldman SachsとMorgan Stanleyの株価が急落し、両社は銀行持ち株会社に転換して投資銀行業界は消滅しました。このプロセスでMorganのJohn Mack会長が、「株価の暴落を招いているのは不当な空売りだ」と主張したこともあり、各国政府が広範な「空売り」規制を導入することになりました。
「不当な空売り」を規制することは、無益な株価の下落を防ぐという意味で、大いに結構なことだと言えるかもしれません。しかし、空売り「全般」を規制してしまうことは、株価の下落を食い止めるどころか、むしろ逆効果になる可能性が高いと言える気がします。
何かと株価下落の犯人にされがちな空売りですが、空売りには市場に「流動性」を提供するという極めて重要な役割があります。これは、買いたい人が買いたい時に、売りたい人が売りたい時に、株式を妥当な価格で売買出来ると言う意味ですが、現在ほどその重要性を認識しやすい市場環境も、なかなか無い気がします。
空売り(ショートセリング)とは、下がると思う株を借りてきて、市場で売却する戦略です。予想通り株価が下落すれば、その段階で安値で株を買い戻して返却することで利益を得ることになりますが、逆に株価が上昇した場合には損失の可能性は無限大であり、極めて難しい投資戦略と言える気がします。
現在のようなベアマーケットで注目すべきなのは、「市場の下落を願う売り手」という点ではなく、「潜在的な買い手」という点です。空売りをした人は、その株を「いずれ買い戻す」必要があるため、どんなベアマーケットでも、潜在的な買い手としての役割を果たします。株価は理由もなく下落することはないため、ショートセラーは妥当な価格まで下落した際には、買い戻して利益を確定しようとするからです。
しかし空売りを禁止してしまうと、売り手の数を一時的に減少させることは出来るものの、潜在的買い手も消し去ってしまうことになります。ベアマーケットで空売りが規制されてしまうと、投資信託などの株主が解約請求に応えるために保有株を売却したいと思っても、買い手がいない可能性が高まってしまうわけです。
必要に迫られた売り手しかいない市場では、株価は本源的価値を大きく下回るレベルまで際限なく下落してしまう恐れがあり、まさに恐怖に支配された「大暴落」を引き起こす可能性があります。ここ二週間くらいの市場の動きを見ていると、それが現実になってしまっていると言えるかもしれません。
ヘッジファンドは、運用資産額は投資信託の数十分の一に過ぎないものの、市場の売買高には、大きな割合を占めており、主要な流動性の供給先になっています。Bloombergの10月9日の記事によると、9月19日に空売り規制を開始して以来、ニューヨーク証券取引所の出来高は、35%も減少したそうです。
その結果、投資家の不安心理が表れると言われるシカゴ・オプション取引所(CBOE)のボラティリティ指数(VIX)は、過去最高レベルまで急騰しています。まさに暴落を引き起こすレベルと言える気がしますが、幸いアメリカでは、空売り規制は8日に失効したため、VIXは今後2週間で44%低下すると予想されているそうです。
ヘッジファンド業界への影響
以前から書いている通り、現在のヘッジファンド業界には、かつて世界の為替市場を震撼させたような「グローバルマクロ」戦略のファンドは極めて少なく、業界の7割程度が、株式運用のファンドであると言われています。
これらのファンドは、「ヘッジ」の名前が示す通り、株式の買い持ち(ロング)と売り持ち(ショート)を組み合わせることで市場リスクをヘッジし、市場の上下に関らず絶対リターンを上げることを目的として、主に年金・大学基金の資金を運用しています。
Lehman Brothersの破綻は、約200兆円の資金を運用していると言われるヘッジファンド業界にとって、空売り規制以上の制度的問題を引き起こしました。
ヘッジファンドが機能するためには、投資銀行に「プライムブローカー(PB)」業務を委託する必要があります。PBの主な役割は、空売りに必要な貸し株と、レバレッジの提供で、ヘッジファンドというシステムにとっての生命線であると言っても過言ではないかもしれません。
Lehmanも、大手ではなかったものの、当然PB業務を行っていたわけですが、そこが破綻してしまったことにより、一部のヘッジファンドが、自らの資産にアクセス出来なくなったり、Lehmanを通じて行った取引の損益が分からなくなるという事態が発生しました。その原因は、レバレッジを受ける際に供与していた担保証券が、別のファンドに貸し出されるなどしていた為のようです。
通常大手のヘッジファンドは、3社以上のPBと取引をしており、LehmanはPB業界では大手ではありませんでしたが、同社が取り扱っていた額は$50-70bn(約5~7兆円)とも言われます。その全てが失われるわけではないと思いますが、「カウンターパーティリスク」(取引先が債務不履行に陥ること)によって廃業に追い込まれるファンドも出てしまっているようです。
このようなシステマティックリスクに直面したヘッジファンドは、投資銀行から商業銀行へと、PBを変更したり(資産を移し替えたり)、高騰しているボラティリティから身を守るために、急速にレバレッジ(グロスエクスポージャー、総投資額)を下げていると言われています。
ヘッジファンドがレバレッジを下げる、つまり借入金を使って行っていた売買を解消することは、「換金売り」と同じ効果をもたらします。業界規模から考えて、投資信託の解約売りほどのインパクトはないでしょうが、株式市場にとっては大きなマイナス要因になっていることは、間違いない気がします。
(一部銘柄には、必要に迫られたショートカバーが引き起こす「スクイーズ」、つまり異常な値段高騰が発生して、ますます市場のボラティリティを上げてしまっています。)
・・・言うまでもありませんが、アメリカ市場の株価暴落と、クレジット市場の機能不全は、ヨーロッパや日本、アジアの先進国など、世界中で市場を大混乱に陥れています。これらの事態が全てLehmanを破綻させたことで発生したと考えると、その影響が「許容範囲」であると言うのは、明らかに無理がある気がします。
そんな大失敗から得られた唯一のメリットは、今後このような大手金融機関の破綻は二度と当局が許さないだろう、と言うこと位かもしれません。
巷からは、「モラルハザードを起こさないためにやむを得ない」、「ミスを犯したのだから破綻して当然」という声も聞かれます。しかしLehmanを破綻させたことは、30%以上の株式を従業員が保有し、愛社精神に溢れた社員の多かった同社を解体する結果になったのみならず、世界中の金融市場や経済に、極めて深刻な影響を及ぼすことになってしまったと言える気がします。
WSJの9月29日の記事「Lehman’s Demise Triggered Cash Crunch Around Globe(リーマン破綻が世界中でキャッシュクランチをもたらす」にその話が詳しく書いてあったので、少々触れてみたいと思います。
経営危機に瀕していた同社を救うため、9月半ばの週末に金融当局・業界関係者が集まって救済案を話し合ったことは、周知の通りです。しかし後に明らかになったところによると、Bear Stearnsのケースと比較して、「必要とされる公的資金の額が莫大であった」、「担保が不十分だった」、「破綻しても市場に与える影響が収拾可能と想定された」などの理由から、同社は事実上当局から「見捨てられる」形で、破綻することになりました。
しかし大手グローバル投資銀行が破綻することで市場が受けた影響は、当局が想像していたものを遥かに上回っていると言える気がします。
CDSとAIG破綻
その影響がまず最初に現れたのは、CDS(クレジットデフォルトスワップ、企業破綻に対する債権に掛けられた保険)です。
WSJが指摘する通り、Bear Stearnsが政府のアレンジでJP Morganに救済された際は、同社の株主は株価の急落によって甚大な損害を被りましたが、同社の債権者はデフォルトという最悪の事態を回避することが出来ました。その結果、債券・ローン市場には、大手金融機関の信用には政府が介入するという、安心感が広がっていたと言える気がします。
それに対してLehmanは、文字通り「破産」に追い込まれ、株式の価値がゼロになって株式投資家と従業員は全てを失うことになった上、債券の投資家も、デフォルト→回収価値が分からないという、最悪の状況に追い込まれ、同社の債権は、担保付の短期債も含めて価格が急落しました。
大手金融機関が破綻したことで、CDSのスプレッド(保険プレミアム)は急騰し、保険の売り手は、保険金を担保するための巨額の追加資金が必要になりました。WSJによると、Lehmanが破綻した翌日に発生した追加担保額は、$140bn(約14兆円)に上ったそうです。
その結果、$400bn(約40兆円)に及ぶCDSを取り扱っていた保険最大手のAIG(アメリカンインターナショナルグループ)が破綻に追い込まれるという、想定外の事態になりました。
同社が契約していたCDSが全て破棄されることのインパクトの大きさ、本業の保険契約社に被害が及ぶ深刻さを考慮して、政府は巨額の救済融資(事実上の国有化)を行うことになりました。
このように、Lehmanを破綻させた二日後には、既にその失敗が明らかになりつつあったと言える気がします。
MMFと換金売り
その週の後半には、預金と同等に安全だと思われていた投資信託の一種であるMMF(マネーマーケットファンド)に、元本割れが発生することが発覚しました。
通常MMFは、低金利でも安全なコマーシャルペーパー(CP)に投資をしています。CPは企業が日々の運転資金を調達するために発行するものですが、Lehmanが破綻したことで同社のCPの価値は、元本1ドルに対して20セントというところまで急落してしまったそうです。それにより、著名なMMFファンドReserve Primary Fundが、14年来で初めて元本割れを起こすという事態が発生しました。
安全だと思っていたMMFの価値が毀損したことで、投資家の心理は一気に冷え込み、株式投信の解約が加速したことは、想像に難くありません。その結果株式市場は、投資信託による巨額の「解約売り」を浴びることになりました。
解約売りは価格に関係なく発生するため、下落は留まるところを知らず、市場は二週間で18%と「大暴落」してしまいました。10月10日現在、アメリカを代表する株式指標であるS&P500は、年初来で39%下落しており、これがアメリカ国民の年金に与える影響は、計り知れません。
またCPは、幅広く短期資金の調達手段として利用されていたため、Lehmanの破綻がCP市場の機能不全をもたらしたことで、全く無関係の業界・企業まで、資金繰り難による破綻の危機に直面することになりました。その結果CP市場にまでアメリカ政府が直接流動性を供給することになったのは、ご存知の通りです。
流動性欠如による市場暴落
Lehmanが破綻したことで、残る二社の投資銀行であるGoldman SachsとMorgan Stanleyの株価が急落し、両社は銀行持ち株会社に転換して投資銀行業界は消滅しました。このプロセスでMorganのJohn Mack会長が、「株価の暴落を招いているのは不当な空売りだ」と主張したこともあり、各国政府が広範な「空売り」規制を導入することになりました。
「不当な空売り」を規制することは、無益な株価の下落を防ぐという意味で、大いに結構なことだと言えるかもしれません。しかし、空売り「全般」を規制してしまうことは、株価の下落を食い止めるどころか、むしろ逆効果になる可能性が高いと言える気がします。
何かと株価下落の犯人にされがちな空売りですが、空売りには市場に「流動性」を提供するという極めて重要な役割があります。これは、買いたい人が買いたい時に、売りたい人が売りたい時に、株式を妥当な価格で売買出来ると言う意味ですが、現在ほどその重要性を認識しやすい市場環境も、なかなか無い気がします。
空売り(ショートセリング)とは、下がると思う株を借りてきて、市場で売却する戦略です。予想通り株価が下落すれば、その段階で安値で株を買い戻して返却することで利益を得ることになりますが、逆に株価が上昇した場合には損失の可能性は無限大であり、極めて難しい投資戦略と言える気がします。
現在のようなベアマーケットで注目すべきなのは、「市場の下落を願う売り手」という点ではなく、「潜在的な買い手」という点です。空売りをした人は、その株を「いずれ買い戻す」必要があるため、どんなベアマーケットでも、潜在的な買い手としての役割を果たします。株価は理由もなく下落することはないため、ショートセラーは妥当な価格まで下落した際には、買い戻して利益を確定しようとするからです。
しかし空売りを禁止してしまうと、売り手の数を一時的に減少させることは出来るものの、潜在的買い手も消し去ってしまうことになります。ベアマーケットで空売りが規制されてしまうと、投資信託などの株主が解約請求に応えるために保有株を売却したいと思っても、買い手がいない可能性が高まってしまうわけです。
必要に迫られた売り手しかいない市場では、株価は本源的価値を大きく下回るレベルまで際限なく下落してしまう恐れがあり、まさに恐怖に支配された「大暴落」を引き起こす可能性があります。ここ二週間くらいの市場の動きを見ていると、それが現実になってしまっていると言えるかもしれません。
ヘッジファンドは、運用資産額は投資信託の数十分の一に過ぎないものの、市場の売買高には、大きな割合を占めており、主要な流動性の供給先になっています。Bloombergの10月9日の記事によると、9月19日に空売り規制を開始して以来、ニューヨーク証券取引所の出来高は、35%も減少したそうです。
その結果、投資家の不安心理が表れると言われるシカゴ・オプション取引所(CBOE)のボラティリティ指数(VIX)は、過去最高レベルまで急騰しています。まさに暴落を引き起こすレベルと言える気がしますが、幸いアメリカでは、空売り規制は8日に失効したため、VIXは今後2週間で44%低下すると予想されているそうです。
ヘッジファンド業界への影響
以前から書いている通り、現在のヘッジファンド業界には、かつて世界の為替市場を震撼させたような「グローバルマクロ」戦略のファンドは極めて少なく、業界の7割程度が、株式運用のファンドであると言われています。
これらのファンドは、「ヘッジ」の名前が示す通り、株式の買い持ち(ロング)と売り持ち(ショート)を組み合わせることで市場リスクをヘッジし、市場の上下に関らず絶対リターンを上げることを目的として、主に年金・大学基金の資金を運用しています。
Lehman Brothersの破綻は、約200兆円の資金を運用していると言われるヘッジファンド業界にとって、空売り規制以上の制度的問題を引き起こしました。
ヘッジファンドが機能するためには、投資銀行に「プライムブローカー(PB)」業務を委託する必要があります。PBの主な役割は、空売りに必要な貸し株と、レバレッジの提供で、ヘッジファンドというシステムにとっての生命線であると言っても過言ではないかもしれません。
Lehmanも、大手ではなかったものの、当然PB業務を行っていたわけですが、そこが破綻してしまったことにより、一部のヘッジファンドが、自らの資産にアクセス出来なくなったり、Lehmanを通じて行った取引の損益が分からなくなるという事態が発生しました。その原因は、レバレッジを受ける際に供与していた担保証券が、別のファンドに貸し出されるなどしていた為のようです。
通常大手のヘッジファンドは、3社以上のPBと取引をしており、LehmanはPB業界では大手ではありませんでしたが、同社が取り扱っていた額は$50-70bn(約5~7兆円)とも言われます。その全てが失われるわけではないと思いますが、「カウンターパーティリスク」(取引先が債務不履行に陥ること)によって廃業に追い込まれるファンドも出てしまっているようです。
このようなシステマティックリスクに直面したヘッジファンドは、投資銀行から商業銀行へと、PBを変更したり(資産を移し替えたり)、高騰しているボラティリティから身を守るために、急速にレバレッジ(グロスエクスポージャー、総投資額)を下げていると言われています。
ヘッジファンドがレバレッジを下げる、つまり借入金を使って行っていた売買を解消することは、「換金売り」と同じ効果をもたらします。業界規模から考えて、投資信託の解約売りほどのインパクトはないでしょうが、株式市場にとっては大きなマイナス要因になっていることは、間違いない気がします。
(一部銘柄には、必要に迫られたショートカバーが引き起こす「スクイーズ」、つまり異常な値段高騰が発生して、ますます市場のボラティリティを上げてしまっています。)
・・・言うまでもありませんが、アメリカ市場の株価暴落と、クレジット市場の機能不全は、ヨーロッパや日本、アジアの先進国など、世界中で市場を大混乱に陥れています。これらの事態が全てLehmanを破綻させたことで発生したと考えると、その影響が「許容範囲」であると言うのは、明らかに無理がある気がします。
そんな大失敗から得られた唯一のメリットは、今後このような大手金融機関の破綻は二度と当局が許さないだろう、と言うこと位かもしれません。
by harry_g
| 2008-10-11 10:42
| 世界経済・市場トレンド