カテゴリ:鉄道:建設・工事 > 上野東京ライン・品川駅再開発
東北縦貫線建設工事(2013年1月2日取材)
公開日:2013年02月05日21:37
東海道線東京駅と宇都宮・高崎線上野駅の間では現在「東北縦貫線」の建設が進められています。昨年末に新たに詳細な資料が入手できたのに合わせて、1月初めに再度この新線建設について全体の調査を行いましたので現在の状況をお伝えいたします。
▼関連記事
東北縦貫線建設工事(2012年9月15・16日取材)(2012年10月1日作成)
■東北縦貫線の概要
東北縦貫線の位置
東北縦貫線は東海道線の東京駅と宇都宮・高崎・常磐線の上野駅を接続する新線で、2000(平成12)年に発表された運輸政策審議会(現・通政策審議会)第18号答申で2015(平成27)年までに整備するべき路線として位置づけられています。この区間には現在山手線・京浜東北線が走っていますが、その混雑率は着工前の2006年の数字で218%と国内最高レベルを誇っていました。その後、湘南新宿ラインの新設やつくばエクスプレス線開通などの影響により、2009(平成21)年には最混雑路線の座を総武緩行線(錦糸町→両国)に譲ったものの、現在も混雑率は依然として200%を超えており、対策が急務となっています。東北縦貫線が完成すると、東京止まりとなっている東海道線と、上野止まりとなっている宇都宮線・高崎線・常磐線の列車を直通運転することが可能となり、山手線・京浜東北線への乗り換えが不要になるため混雑率は180%以下へ大幅に緩和される見込みです。
左:縦貫線着工前の神田駅付近の新幹線高架橋。継ぎ足し可能な構造だった。2006年5月4日撮影
右:上野駅から東京方面に続く留置線。2012年8月26日撮影
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東北縦貫線の建設工事は大きく分けて「重層高架部分」と「線路改良部分」の2種類に分類できます。
「重層高架部分」は神田駅付近が該当するもので、東北新幹線の高架橋の上に縦貫線用の高架橋を継ぎ足し、二重高架に増築します。東北新幹線の開業前、東京~上野間には「回送線」と呼ばれる線路が存在していましたが、用地節約のため回送線を取り壊したうえで新幹線が建設されました。この際、新幹線の高架橋は将来の回送線復活を想定して継ぎ足し可能か構造で建設されており、今回の縦貫線はその構造を活用して建設されていることから、「40年ぶりの回送線の復活」とみなすこともできます。しかし、重層化に関しては沿線で反対運動が展開されたことから、桁の一部を在来線側に寄せるなどの配慮がなされており、耐震性向上のため橋脚に補強を施したり、桁を軽量化するなどの工夫も行われています。
「線路改良部分」は東京駅付近と秋葉原~上野間が該当するものです。この区間は「回送線」時代の線路の一部が残されており、前者は東京駅止まりの東海道線の引上げ線、後者は上野駅止まりの宇都宮・高崎・常磐線の留置線として使用されていました。縦貫線はこの線路の一部を本線用に改修したうえで流用します。
この東北縦貫線は当初2009(平成21)年度の完成が予定されていましたが、前記した神田駅付近での反対運動により着工が遅れたことに加え、2011(平成23)年3月に発生した東日本大震災の影響により5年遅れの2014年度に延期されています。総工費は約400億円で、全額をJR東日本が自己負担します。
■2013年1月の状況
●東京駅(東海道線引上げ線転用区間)
左:東京駅東海道線ホーム上野方。9・10番線側は出発信号機が付いた。(同じ場所の2011年11月26日の様子)
右:7・8番線もATS地上子の設置は完了している。(右上の黄色い地上子)
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東京駅から神田駅手前(首都高都心環状線付近)までは回送線の名残で東海道線用の引上げ線が2線あるため、これを東北縦貫線に転用します。引上げ線入口のポイントは分岐角度がきつく、そのままでは本線として使用できないため、2011年頃より2線ある引上げ線を1線ずつ使用停止にしながらポイントの交換(8番→12番)や軌道を本線用に改修する工事が進められています。
現在は7・8番線側の引上げ線を使用停止にして改修が行われていますが、軌道の敷設自体はほぼ完了しており、完成後に使用するATS地上子の設置が始まるなど信号設備関係の工事に移っています。また、引上げ線として使用中の9・10番線のホーム端には東北縦貫線開業後に使用する出発信号機が新設されました。
●神田駅付近(重層高架区間)
左:神田駅のホーム端から駅間にある作業台を見る。以前より資材の量は減少している。(同じ場所の2010年2月6日の様子)
右:神田駅構内のPC桁の架設は完了している。(同じ場所の2011年3月6日の様子)
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神田駅付近は東北新幹線の高架橋の上に縦貫線用の高架橋を継ぎ足し、重層高架に増築します。この付近は線路脇ギリギリまで建物が密集しているため、深夜の列車が走行しない時間帯に新幹線の線路上から橋脚を継ぎ足し、出来上がった橋脚の上に自走式の架設機を使用して高架橋の桁を設置する方法が採られています。橋脚は合計16基で、これをさらに約260個の部品に分割したうえで、2009(平成21)年末から約2年間かけて東京駅側から順番に継ぎ足しが行われました。なお、東北新幹線の橋脚は縦貫線の高架橋を継ぎ足すと阪神・淡路大震災後に改訂された耐震基準を満たさなくなるものがあったため、該当する橋脚については内部に鉄筋コンクリートを詰める補強が行われています。
上:神田駅から高架橋の建設作業を見る。(同じ場所の2012年6月15日/2012年9月15日の様子)
下左・下右:高架下から高架橋の建設作業を見る。桁の降下が完了したところ。
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2010(平成22)年末からは出来上がった橋脚の上に架設機を使用して高架橋の床となるコンクリート製または鋼製の桁を設置する作業が進められています。桁の設置手順は
(1)架設機後方で桁を組み立てる。(現場には3個程度に分割された状態で搬入)
(2)組み立てた桁を架設機内部に取り込む。
(3)架設機の中にある走行用ガーターを手前に押し出す。
(走行用ガーターは架設機の走行用レールと取り込んだ桁の落下防止装置を兼用している。)
(4)架設機に取り込み済みの桁を降下させ既定の位置に架設する。
(5)押し出した走行用ガーターを使って架設機を前進させる。
という順序となっています。上の写真はこのうちの(4)の手順に相当します。
上左・上右:架設機の先端がいよいよ靖国通り付近の橋台に到達した。
下左:靖国通り上に張り出し始めた架設機走行用ガーター。
下右:靖国通りの中央分離帯には走行用ガーターを支えるための架設の支柱の設置が始まっていた。
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2010年末から2年間続いてきたこの桁の架設作業ですが、今回架設機の先端が靖国通り付近にあるコンクリート製の高架橋(橋台)に到達し、1スパンを残すところまで進んできました。靖国通り上には架設機の走行用ガーターが大きく張り出し始めており、中央分離帯にはガーターを受け止めるための仮設の支柱の設置が進んでいます。この1スパンの架設が完了すると重層高架区間は全ての桁の架設が完了し、高架橋本体が完成することになります。
左:神田川との交差地点。アーチ橋の上にわずかに見える斜めの部分が縦貫線の高架橋。
右:縦貫線の高架橋は京浜東北線の線路上部に張り出すため、特殊な施工方法が採られている。
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靖国通りを過ぎると縦貫線は新幹線と在来線の間に割って入り、在来線と同じ高さまで下りてきます。この部分は以前回送線の名残で線路が無い古い高架橋が残っていたため、これをすべて解体し勾配付きの新しいコンクリート製の高架橋に造り直しています。高架橋の一部はスペースの都合により在来線(京浜東北線南行)の線路上空に大きく張り出す構造となっています。張り出し部分は通常と異なりコンクリートを打つ際必要な型枠を下から支えることができないため、型枠を高架橋上部から吊り下げる特殊な施工方法が採用されました。この型枠は薄いモルタルでできており、コンクリートが硬化して高架橋が完成した後も本体の一部としてそのまま残されています。
このコンクリート高架橋の区間は前記した靖国通りと交差する部分の桁を除きほぼ本体は完成済みとなっており、並行する電車内からでもその様子を見ることができます。
秋葉原駅構内の高架橋は既存のものを改修の上流用する。(同じ場所の2010年8月14日の様子)
秋葉原駅構内で重層高架区間から続いてきた下り勾配は終了し、在来線と同じ高さとなります。秋葉原駅構内は縦貫線の着工直前まで回送線の名残で宇都宮・高崎・常磐線用の留置線があったため、この高架橋を一部改築やかさ上げしたうえで流用しています。流用する部分には佐久間通りと交差部にある鋼製桁も含まれており、2010年には縦貫線の勾配に合わせる形で桁が斜めに持ちあげられました。
現在は持ちあげた桁の周囲で行われていた高架橋の改築が完了し、軌道敷設に向けて固定用の突起を取り付けるなどの準備が進められています。また、高架橋上部には縦貫線・京浜東北線南行の線路をまたぐ形で新しい架線柱が設置されています。これに合わせて、京浜東北線・山手線ではこれと並行して架線をコンパウンドカテナリからインテグレート架線に更新する工事も開始されています。
●御徒町駅付近(留置線転用区間)
御徒町駅付近の東北縦貫線の軌道と防音壁の構造。
御徒町駅付近は秋葉原駅付近と同様回送線の名残で留置線が3本あったため、このうち2本を縦貫線の本線に転用します。転用に当たっては列車本数が大幅に増加することから、軌道構造を本線用に改良することに加え、防音壁が新設されます。防音壁は高さが4mと高いため、一部に透明なアクリル板を採用し、沿線の日照を確保しています。また、高さが高いことから強風時は防音壁に作用する風圧が相当なものになるため、防音壁の支柱はL字型とし、縦貫線の軌道下に梁を埋め込むことで強度を確保します。この梁を埋め込むため、縦貫線の軌道はバラストではなく内部が空洞になったコンクリート製の箱を土台とし、その上にフローティングラダー軌道などを載せた構造となっています。
御徒町駅付近の軌道改良工事の状況。現在は2本完成している。
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御徒町駅付近の線路の改良は秋葉原駅付近に残る留置線への接続を残したまま行う必要があるため、2010年頃より3本ある線路のうち2本を使用停止にして順次工事が行われています。現在は東側の2本(留置線入出庫線・縦貫線上り線)の線路がほぼ完成しており、今後は空いているスペースに縦貫線下り線用の線路を敷設する工事が行われるものと思われます。また、防音壁は設置対象の区間のほぼ全長にわたり工事が完了しています。
今回は新しい資料で判明した内容を加えて東北縦貫線本体の工事の状況を見てまいりました。次回はこの東北縦貫線建設に合わせて行われている品川駅の再開発事業についてお伝えします。
▼参考
宇都宮・高崎・常磐線の東京駅乗り入れについて(東海道線との相互直通運転) - JR東日本(2002年3月27日発表)
宇都宮・高崎・常磐線の東京駅乗り入れ工事の着手について - JR東日本(PDF)(2008年3月26日発表)
2012 年度設備投資計画について - JR東日本(PDF)(2012年4月12日発表)
August 2010:特集「新幹線直上に架けるJR東北縦貫線」| KAJIMAダイジェスト | 鹿島建設株式会社
東北縦貫線プロジェクトの概要と架設計画 - 橋と基礎2009年8月号77~79ページ
東北縦貫線プロジェクト[計画概要・施工報告] - 土木施工2012年8月号115~126ページ
▼関連記事
東北縦貫線工事(2009~2010年取材まとめ)(2010年3月15日作成)
東北縦貫線建設工事(2010年8月14日取材)(2010年10月23日作成)
東北縦貫線建設と品川駅構内の工事(2011年1~4月取材まとめ)(2011年6月9日作成)
東北縦貫線建設工事(2011年10・11月取材まとめ)(2012年1月7日作成)
東北縦貫線工事&品川駅構内の工事(2012年3月3日取材)(2012年03月21日作成)
東北縦貫線建設&品川駅構内の工事(2012年6月15日取材)(2012年6月21日作成)
東北縦貫線建設工事(2012年9月15・16日取材)(2012年10月1日作成)
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