『ウクライナ問題の正体』第3部、その2、「ウクライナ軍は勝っている!?」
ウクライナ、キエフ
ミンスク合意1、ミンスク合意2
クリミア自治共和国とセヴァストポリ特別市
ウクライナ、ポロシェンコ大統領のドンバス戦争に関する演説
ドンバス2カ国(ルガンスク人民共和国、ドネツク人民共和国)
ドンバス、マリウポリ市およびセベロドネツク地区の完全解放
2014年のクーデター(カラー革命、欧州広場「ユーロ・マイダン」)
キッシンジャー元国務長官、WEF(世界経済フォーラム)ダボス会議
アメリカ下院議員マージョリー・テイラー・グリーン(Marjorie Taylor Greene)
チトー大統領、ユーゴスラビア「労働者自主管理型の分権的な社会主義」
ユーゴスラビア、コソボ解放軍、アメリカとNATOによるユーゴ爆撃1999年
アメリカとNATOによるユーゴスラビア空爆1999年
http://eritokyo.jp/independent/Ukraine-war-situation-aow863.htm
西側諸国は1999年に78日間にわたりユーゴスラビアを空爆し、少なくとも15トンの毒性の強い劣化ウラン弾でバルカン半島の国々を汚染した。
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先日、『健康とくらし』第286号2022年7月号が郵便ポストに入っていました。
これは連れ合いが加入している地元の「健康友の会」というサークルが発行しているニュースレターです。岐阜県民医連の下部団体のようです。
その1頁の一番下に「健康春秋」というコラム欄があります。中日新聞では「中日春秋」というコラムがあるので、それを真似たのかも知れません。
それはともかく、その「健康春秋」に次のような随筆が載っていて驚かされました。 というのは、コロナ騒ぎの時は、コロナウイルスやワクチンについて少しでも疑問を呈すると「陰謀論者」扱いされるのが一般的でしたが、今度はロシアやプーチン大統領の悪魔化が大手メディアを賑わせているので、それと同じ臭いを感じたからです。
さて、そのコラム欄の随筆は次のようなものでした(以下に引用する都合上、私の方で段落番号を付けました)。
(1)中学生の頃、トルストイの「戦争と平和」を読み、読書の醍醐味を知りました。トルストイの他の作品を読み、その後ドストエフスキーやゴーリキーを読み、またウクライナの東部に近いドン川の周辺を舞台にしたショーロホフ「静かなるドン」など、高校時代、ろくに勉強もせずに読み継いだ経験があります。
(2)その後、文学的ロシアの世界はチェーホフでした。そのチェーホフの作品「子犬を連れた奥さん」は、高級リゾート地、クリミア半島南部のヤルタが舞台となっています。そのクリミア半島を武力でもって支配しているのが今のロシアで、今回のウクライナ侵攻と深いつながりがあります。ウクライナにとってその事件は許されないもので、おそらく、いつか取り返すべき準備がなされていたようです。
(3)クリミアと同じように、プーチンのロシアは簡単にウクライナを手玉にとることができると軍事侵攻を始めたのですが、いまのところ[五月八日]決着はつかず、攻めあぐねているロシアと必至に抵抗しているウクライナ、という構図は変わらないようです。(4)膨大な死者を出した独ソ戦の舞台となり、またスターリンによる「ホロドモール」と言われる大量の餓死等、悲惨な歴史を持つウクライナの歴史から学ぶべきことは多いようです。
(5)そのうえで、「平和」を取り戻すためになにが必要かを学ぶ努力が求められています。その努力は日々流されている情報を正しく理解するためにも必要なようです。(K)
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私は理科系の人間だったせいか、ここに列挙されているロシア文学をほとんど読んだことがありません。読んだのはせいぜいゴーリキーの「どん底」程度です。
ところが、この筆者Kさんは、「中学生の頃、あの大部なトルストイの『戦争と平和』を読み、読書の醍醐味を知りました」と書いているのですから、驚きです。
しかもKさんは、「その後ドストエフスキーやゴーリキーを読み、またウクライナの東部に近いドン川の周辺を舞台にしたショーロホフ『静かなるドン』などを高校時代読み継いだ」というのですから、私にとっては驚異的人物です。
そのKさんが、話をさらに、チェーホフの作品「子犬を連れた奥さん」の舞台となっているクリミアに移し、次のように述べています。このような話のつなげ方は見事と言うしかありません。
「そのクリミア半島を武力でもって支配しているのが今のロシアで、今回のウクライナ侵攻と深いつながりがあります。ウクライナにとってその事件は許されないもので、おそらく、いつか取り返すべき準備がなされていたようです。」
しかし、このような学識豊かなKさんでさえ、今のウクライナ問題が2014年にアメリカが仕掛けたクーデターに起因することは御存知なかったようで、非常に残念なことです。いかに日本のメディアが偏向しているかを示す典型例のように思えます。
この2014年のクーデターでいかに多くの血が流されたか、しかもアメリカは裏で「100人以上もの血が流されないと外部からウクライナ問題に介入できない」と言いつつ、流血を促した研究成果も現れ始めています。
これについては拙著『ウクライナ問題の正体1,2』で詳述したので、割愛させていただきます。
また、ロシア軍が2022年2月にウクライナ進攻したがゆえに「ウクライナ危機」が始まったかのように言われていますが、クーデター政権ができた直後から、ウクライナ南西部「ドンバス地区」への爆撃・砲撃も始まっているのです。
これも前掲書で詳述しましたが、それは、2014年「カラー革命」のあとにおこなわれた選挙で大統領になったポロシェンコの、次のような演説をみればよく分かるはずです。
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この演説から分かるように、ドンバス戦争はロシア軍の進攻(2022年2月)に始まったものではなく、2014年から既にドンバスの子どもたちは民家への爆撃から逃れるため地下生活を強いられてきたのです。
動画:https://www.youtube.com/watch?v=sNgZAu4QFOY
上記の動画は25秒程度ですから是非すべてを見てください。なお、この動画の投稿者は、動画の解説として、次のような「短いが鋭いコメント」を残されていました。
「この演説は、ドンバス地方の親露派グループに対するジェノサイド(大量虐殺)そのものです」
この動画では、ポロシェンコ大統領は「私たち年金受給者と子どもたちは様々な恩恵を受けられるが、彼らはそうはいかなくなる」とも述べています。事実そのとおりで、ドンバス地区のひとたちは、2014年から8年間にもわたって、毎日のように砲撃・爆撃にさらされ地下生活を強いられました。
しかしプーチン大統領は、クリミアのひとたちの独立を認め、住民投票の結果を受けてロシアへの編入を認めましたが、残念ながらドンバス2カ国については、ロシア編入どころか独立すらも認めることはありませんでした。その結果、国連の発表でも、この8年間で1万3000~4000人もの命が奪われることになりました。
次の記事は、キエフ政権からドンバスのひとたちは人間とは見なされず、言わば「ゴキブリ」扱いだったことを示しています。
*A view from Donbass: Ukraine has treated the people of this region as sub-humans, this made peace impossible(ドンバスからの視点。ウクライナはこの地域の人々を人間以下の存在として扱い、それが平和を不可能にした)
17 Jul, 2022、By Vladislav Ugolny
https://www.rt.com/russia/559061-children-donbass-world-not-care/
しかもドンバス地区のひとたちは母語のロシア語で教育を受けることはおろかロシア語で話すことすらも禁じられてきました。
次の記事は、ソ連が崩壊してウクライナが独立国家となってから30年間、ロシア語とロシア語話者に対する差別が続いてきたことを詳述しています。
*The Russian language in post-Soviet Ukraine: 30 years of discrimination against the country's most popular tongue(ソビエト連邦後のウクライナにおけるロシア語:同国で最も人気のある言語に対する差別の30年)
https://www.rt.com/russia/556942-language-discrimination-ukraine-oppression/
Jun 10, 2022
ところがアメリカが裏で主導した2014年のクーデター以降、この「ロシア語とロシア語話者に対する差別、弾圧」はいっそう厳しさを加え、今や ロシア文学・ロシア音楽などロシア文化にまで弾圧が及んできています。
次の記事は、今や有名なロシアの詩人プーシキンまで読むことが禁じられるようになってきていることを示しています。
*With attempts to 'cancel' Pushkin, Ukraine's drive to eradicate Russian language and culture has reached the level of farce(プーシキンを「焚書扱いする」試みで、ウクライナのロシア語・文化撲滅の動きは茶番の域に達している)
https://www.rt.com/russia/558197-ukraine-decided-eradicate-rus-culture/
Jul 3, 2022、By Alexander Nepogodin
これが現在のウクライナの現実なのです。つまり、Kさんの愛するロシア文学は今やウクライナでは禁書・焚書扱いになっていることも、たぶんKさんは御存知なかったのだろうと思います。
ですからクリミアやドンバスのひとたちが自治・独立を求めたのは必然だったのですが、そのことをKさんは御存知なかったからこそ、前掲のようなコラムになったのだろうと思います。
しかし、これはKさんの責任ではなく、NHKや朝日新聞を初めとする大手メディアが、ロシア軍を侵略者扱いする記事を湯水のように視聴者の頭に流し込んできたのですから、当然とも言えます。なにしろ共産党の機関紙『赤旗』でさえ、同じ論調なのですから。
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さてKさんは、段落(2)の最後で、チェーホフの作品「子犬を連れた奥さん」の舞台となっているクリミアについて次のように書いています。
「そのクリミア半島を武力でもって支配しているのが今のロシアで、今回のウクライナ侵攻と深いつながりがあります。ウクライナにとってその事件は許されないもので、おそらく、いつか取り返すべき準備がなされていたようです。」
このようにKさんは「クリミア半島を武力でもって支配しているのが今のロシア」だと言っています。
が、アメリカが裏で仕組んだウクライナのクーデター政権(2014年)を認められないとするクリミア住民は、ロシア連邦への編入を求める住民投票をおこないました。
こうして、クリミア自治共和国ならびにセヴァストポリ特別市で2014年3月16日に、ロシアやCIS諸国(*)の選挙監視団が投票の行方を見守るなかで、ロシア連邦への編入の是非を問う住民投票が実施されました。
その結果は、ウィキペディアによれば次のとおりでした。
ご覧のとおり 投票の結果、クリミア、セヴァストポリともにロシアへの編入に賛成する票が全体投票数の9割以上を占め、2014年3月18日、ロシア連邦は両者の編入を宣言するに至ったのです。
ちなみに、ここで選挙監視団を派遣した「CIS諸国」とは、「独立国家共同体」、すなわち「旧ソ連に属していた12カ」国によって結成されたゆるやかな国家連合体(コモンウェルス)を指します。
クリミア自治共和国(黄色)とセヴァストポリ特別市(ピンク)および投票結果
https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/7/71/Crimea_republic_map.png/450px-Crimea_republic_map.png
ですから、Kさんは「クリミア半島を武力でもって支配しているのが今のロシア」だと言っているのですが、事実経過は全く違います。
もしKさんが、「ロシアが武力をもってクリミアを支配した」というのであれば、アメリカ・NATO諸国によるコソボへの大空爆、それによるコソボ独立こそ、「武力をもって」にあたるのではないでしょうか。
以下、項を改めて、それを説明したいと思います。といっても、これを書くために調べてみて、新しく発見したことも多く、私にとって大きな勉強になりました。
コソボ自治州と「労働者自主管理型の分権的な社会主義国」として有名だったユーゴスラビア
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ソ連のスターリン主義から決別したユーゴスラビアは「労働者自主管理型の分権的な社会主義」として、私が学生だったときから有名な国でした。
そのユーゴは同時に、第1回非同盟諸国首脳会議の開催国となるなど、チトー大統領が死ぬまで(1980年5月5日)非同盟諸国のなかで中核的な役割を果たしました。
しかし、このような社会主義国家が存続することを嫌ったアメリカは、チトー大統領の死後、ひそかにユーゴスラビアの不安定化をもくろみ、そのひとつの材料となったのがコソボ自治州でした。
たとえば、アメリカを初めとするNATO諸国は、ユーゴの解体を促進させるために、「コソボ解放軍」を裏で訓練し、1999年にはアメリカ主導のNATO軍は、ユーゴ全土にわたる大規模な空爆をおこないました。
アメリカ国防総省は、1999年6月2日までに使用された20,000の爆弾およびミサイルのうち99.6%は目標に命中していると主張しましたが、劣化ウランやクラスター爆弾の使用、そして「環境への攻撃」として批判を受けた製油所や化学工場への攻撃など、その非道さは目に余るものがありました。
また「コソボ解放軍」をNATO諸国が裏から支援していたことについては、最近とみに体制寄りになっているウィキペディアですら、次のように書いているのです。(文中にある[14]などの番号は典拠とする文献番号です。)
ジェームス・ビセット(James Bissett)は1990年の時点でユーゴスラビア、ブルガリア、およびアルバニアの大使であり、辞職後に、ロシア政府が新しい出入国管理機関を設立するのを援助するモスクワの国際機構の首班の地位についた。
ビセットは、「1998年以来、CIA米国中央情報局はイギリス特殊武装隊の支援の下、コソボでの武装反乱を支援する目的でアルバニアでコソボ解放軍の兵士を訓練し武装支援していた。[14]。
コソボ解放軍の代表者ティム・ユダフ(Tim Judah)によると、ユダフは1996年あるいはそれ以前の時点で既にアメリカ合衆国、イギリス、スイスの情報機関の職員と接触している[15]。
ザ・サンデー・タイムズ(The Sunday Times)によると、アメリカの情報機関のエージェントらはNATOがユーゴスラビア空爆を始める前からコソボ解放軍の訓練に携わっていた[16]。
つまり、アメリカを初めとするNATO諸国がウクライナにクーデターを仕掛けるために「アゾフ大隊」などを裏で訓練してきたことは、拙著『ウクライナ問題の正体1, 2』でもふれましたが、同じことをコソボでもおこなっていたわけです。
しかし、クリミア独立・ロシア編入にあたって、ロシアが武力を行使したり、ウクライナを爆撃することはありませんでした。なぜならロシア軍がウクライナに進攻したのは、クリミアが独立してから8年後の2022年2月24日以降だったからです。
前述のとおり、クリミア独立・ロシア編入にあたって住民投票にたいする国際監視団すら組織されていました。ところがNATO・欧州安全保障協力機構(OSCE)は監視団派遣を拒否しておきながら、「ロシアはクリミアを武力で奪った」と主張しているのです。
事実は全く逆でした。この8年間、ドンバスを武力で砲撃・空爆し続けたのは、むしろキエフ政権でした。攻撃の対象も、住宅・学校・病院などの公共施設が多く、死傷者は1万3000~4000人にも及びました。
なお、「ユーゴスアビアがコソボで民衆を弾圧している」という口実で、アメリカ(民主党クリントン政権)とNATOがコソボ問題に介入し大惨事をつくり出したことの偽善を、詳細に暴(あば)いたものとして、チョムスキー『アメリカの「人道的」軍事主義――コソボの教訓』(現代企画室、2002)があることを付記しておきます。
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以上で見てきたとおり、クリミア独立・ロシア編入を「武力でおこなった」とプーチン大統領を批判するのであれば、その批判は「コソボ独立」を武力でおこなったアメリカとクリントン大統領にこそ向けられねばならないものでした。
それどころか、コソボ問題を口実にユーゴスラビアを不安定化させ、大規模な空爆をおこなったのは、「労働者自主管理型の分権的な社会主義」のユーゴを解体し、資本主義国家にすることが目的だったのではないかという疑いすら生まれてくるのです。
それは空爆の攻撃対象を見れば分かります。体制寄りとされるウィキペディア(「コソボ紛争」)でさえNATOによる空爆の対象に関して次のように述べています。
攻撃目標の選定についても批判がある。ドナウ川にかかる橋への攻撃は、その後数箇月にわたってドナウ川の水上交通を遮断し、ドナウ川沿いの国々の経済に深刻な影響をもたらした。生産設備も攻撃を受け、多くの町の経済を破壊した。・・・
また国有の工場のみが標的とされており、そのため、外国資本主導による民間ベースでの再建まで見据えて空爆の標的が選ばれたのではないかとの疑念を持たれた。私有、あるいは外国資本の生産施設は一切攻撃を受けていなかった。
最も批判の強かった空爆対象は、4月23日に行われたセルビアの公共放送の本社への攻撃であろう。この攻撃では少なくとも14人が犠牲となった。NATOはこのセルビア公共放送への攻撃について、ミロシェヴィッチ政権のプロパガンダの道具を破壊するためのものとして正当化した。・・・
5月7日、アメリカ空軍はB-2によって、ベオグラードの中国大使館をJDAM爆弾で攻撃し、3人の中国人ジャーナリストを殺害し、26人を負傷させた。
このようにチョムスキーの言う「アメリカによる『人道的』軍事主義」は、ウクライナだけではなく、イラクやシリアやアフガニスタンで多くの惨事をもたらしてきました。
このような反省からでしょうか、今度のウクライナ紛争では、アメリカやNATOは正面からロシアと戦うことはせず、膨大な資金と武器を供与しつつ、ウクライナに代理戦争をさせる方法を選んだようです。
かつてソ連をアフガニスタンに誘(おび)き出して、イスラム原理主義勢力と10年間も戦争させ続け、結果としてソ連の疲弊と崩壊を導き出したと同じやり方です。しかも今回は、ロシアに対する経済制裁と併行しているのですから、ロシアの疲弊と崩壊は、いっそう容易であるように思われました。
そのためには、アメリカは、キエフ政権が交渉しているドンバス2カ国との合意、いわゆる「ミンスク合意」が成立い平和が回復することを何としてでも許してはなりません。なぜなら平和が回復すれば、ロシアをウクライナに引きずり込んで「第2のアフガン」にすることができないからです。
これに業を煮やしたロシア側が、2022年2月21日にドンバス地域の2カ国独立を承認し、翌22日の会見で「ミンスク合意は長期間履行されずもはや合意そのものが存在していない」として破棄されました。そして2月24日のロシア軍のウクライナ進攻になったことは、御承知のとおりです。
だからこそ、2014年9月5日「ミンスク合意1」が成立しても実行されず、それを受けた2015年2月12日「ミンスク合意2」も実行されることはありませんでした。
この後も交渉は継続されましたが、ウクライナ側の交渉員のひとりがロシアの意向を代弁しすぎるとして暗殺されることすら起きました(『問題の正体』参照)
このようにNATO側が「ミンスク合意」によって平和をもたらされることを嫌っていたことは、最近、次の記事によって暴露されました。
*NATO Admits It Wants ‘Ukrainians to Keep Dying’ to Bleed Russia, Not Peace(NATOは、平和ではなく、ロシアに血を流すために「ウクライナ人が死に続ける」ことを望んでいると認める)
https://www.globalresearch.ca/nato-admits-wants-ukrainians-keep-dying-bleed-russia-not-peace/5777411
By Ben Norton, April 13, 2022
何と!NATOは、「平和ではなく、ロシアに血を流すために『ウクライナ人が死に続ける』ことを望んでいる」と認めたのです。やはり私が拙著『問題の正体』で述べたことは正しかったのです。
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さて話がかなり横道にそれたので、冒頭の「健康友の会」ニュースレター『健康とくらし』のコラムに戻ります。
このなかで、Kさんは、段落(3)で「クリミアと同じように、プーチンのロシアは簡単にウクライナを手玉にとることができると軍事侵攻を始めたのですが、いまのところ[五月八日]決着はつかず、攻めあぐねているロシアと必至に抵抗しているウクライナ、という構図は変わらないようです」と書いていました。
確かに大手メディアは、アメリカや欧米から流される「ウクライナは勝利する」という情報ばかりを報道しているのですから、このような判断になるのは無理もないでしょう。
しかし、私が「流れは変わった!」『問題の正体2』で書いたように、アゾフ大隊がマリウポリ市の市民を「人間の盾」にして立て籠もっていた製鉄所が完全解放されてから、明らかに流れは変わりました。
キッシンジャー元国務長官がWEF(世界経済フォーラム)のダボス会議で「ドンバス2カ国やクリミアを手放すことも視野に入れ、ここ2か月以内に和平交渉を」と呼びかけたのは、このような時期でした。
つまり、「ウクライナは勝つ」「ロシア軍は敗北する」というのは、ロシアに対する経済制裁が効果を発揮するという希望的観測にもとづく願望に過ぎなかったことが、暴露されてしまったのでした。
考えてみれば、これは当然のことでした。シリアがアメリカによって送り込まれたイスラム原理主義勢力(ISIS))に手を焼いていたとき、アサド大統領の要請で支援に駆けつけたロシア軍は、あっという間にISISを駆逐してしまったからです。
キッシンジャー元国務長官は、この現実を十分に知っていたのです。このまま事態が進行すると、ロシアに対する経済制裁は逆にEU経済やアメリカ経済を痛めつけるだけでなく、ロシアと中国の同盟関係をいっそう強化することにしかならない、と恐れたのでした。
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このキッシンジャーの予測は全く正しいものでした。それを証明する記事が次々と現れ始めています。そのいくつかの例を次に列挙します。
まず(1)は、ロシア軍がアゾフ大隊が拠点にしていたマリウポリ市だけでなく、次の拠点だったセベロドネツク地区も完全解放したニュースです。
また拙著『問題の正体2』では、ウクライナ軍の兵器の貧弱さとロシア軍の強さに恐れをなしてウクライナ軍から脱走兵が相継いでいること、捕虜になった外国人傭兵の証言から「同じ不満をもち帰国する義勇兵が後を絶たない」ことを報告しました。
次の(2)は、そのような兵士不足から、キエフ政権が「囚人や女性にまでをも徴兵し始めた」ことを示しています。外国人傭兵の場合も、その国では犯罪歴があろうとなりふりかまわず受け入れています。
今でもアゾフ大隊は「泣く子も黙る」過激な集団と恐れられていますから、ウクライナ軍はそのうち「ならず者集団」と化す恐れがあります。
また裕福な家庭の子弟で海外に縁故のある若者は、すでに国外に脱出していますから、ウクライナ軍は「経済徴兵制」の様相を呈していると言ってよいかも知れません。
(1)Donbass: Full Liberation of Severodonetsk, Russia and LPR Control Zolotoye and Gorskoye(ドンバス:セベロドネツク地区の完全解放、ロシアと LPR がゾロトエ市とゴルスコエ市を支配)
https://libya360.wordpress.com/2022/06/27/donbass-full-liberation-of-severodonetsk-russia-and-lpr-control-zolotoye-and-gorskoye/
Posted by Internationalist 360° on June 27, 2022
(2)Ukraine replenishes combat losses with convicts and women(ウクライナ、戦闘損失を囚人と女性で補充)
https://www.rt.com/russia/557750-ukraine-draft-convicts-women/
Jun 24, 2022 17:02
ドンバス戦争の地図(AlJAZEERA、3 Jun 2022)
https://www.aljazeera.com/news/2022/6/3/ukraine-forces-making-gains-in-key-eastern-city-governor-liveblog
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さて、このような状勢を受けて、EU諸国やアメリカでは、どのような反応が現れているのでしょうか。キッシンジャーの提言はどのように受け止められたのでしょうか。
次の(3)は、このようなウクライナ軍の敗北とキッシンジャーの提言を受け、NATOのなかでも、「ウクライナは、平和と引き換えに、どれだけの領土を手に入れるかの決定を迫られている」という意見が出始めていることを示しています。
(3)Ukraine to decide how much territory it trades for peace - NATO(ウクライナは平和と引き換えにどれだけの領土を手放すか、その決断を迫られている。NATO)
https://www.rt.com/news/557057-stoltenberg-ukraine-give-territory/
Jun 12, 2022
また次の(4)は、これを証拠づけるような論考です。ノルウェー南東大学のグレン・ディーセン教授によれば、今まではウクライナ「勝利」という偽情報ばかりを聞かせれてきた西側諸国で、新しい現実をめぐって分裂が起きているというのです。
(4)Glenn Diesen: As propaganda about a Ukrainian ‘victory’ retreats, is a split emerging in the West? (グレン・ディーセン:ウクライナの「勝利」についてのプロパガンダが後退する中、西側諸国では分裂が起きている?)
https://www.rt.com/russia/557629-ukraine-victory-propaganda-west-split/
Jun 22, 2022
アメリカやEUの経済界からも、ロシアに対する経済制裁は「ブーメラン効果」で自分たちに跳ね返りつつあることを自覚し始めているようです。次の(5)(6)(7)の記事は、そのことをよく示しています。
ちなみに「ドイツのBASF」とは、「150年の歴史を持つ世界最大の総合化学メーカー」ですが、このような会社でも、ドイツがアメリカの言いなりになって、ロシアからのガス供給を拒否した結果、苦しんでいるのです。
(5)Billionaire explains why US sanctions against Russia have backfired(米国の対露制裁が裏目に出た理由を億万長者が解説)https://www.rt.com/search?q=billionaire+explains+why+us+sanctions+against+russia+have+backfired&type=" target="_blank" title=" https://www.rt.com/search?q=billionaire+explains+why+us+sanctions+against+russia+have+backfired&type="> https://www.rt.com/search?q=billionaire+explains+why+us+sanctions+against+russia+have+backfired&type=
Jun 22, 2022
(6)Chemical giant may close plant due to gas shortage – WSJ(化学の大手会社、ガス不足で工場閉鎖の可能性 - ウォール・ストリート・ジャーナル紙)
https://www.rt.com/business/557936-germany-basf-russia-gas/
(7)Germany's BASF may shut down its biggest facility due to reduced Russian energy supply, the newspaper reports(ドイツのBASFが、ロシアのエネルギー供給量減少により、最大の施設を閉鎖する可能性があると新聞報道)
Jun 27, 2022
アメリカは「NATOから脱退せよ」と呼びかける共和党下院議員グリーン女史
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以上は、経済界の反応でしたが、庶民の生活はどうなるのでしょうか。
EUがアメリカの指示に従ってロシアへの経済制裁に加担した結果、今年の冬を乗り越せるか否かが、心配になってきています。
次の(8)は、そのことをよく示しています。EU諸国の一カ国だけでも11月までに冬を越せるだけの暖房用ガスを貯蓄できなければ、その影響はEU全体に波及する恐れがある、とオランダ政府は警告しているのです。
(8)EU state warns of gas crisis domino effect(EU諸国、ガス危機のドミノ効果を警告)
https://www.rt.com/business/557967-eu-gas-crisis-domino-effect/
Jun 28, 2022
(8の副題)The failure of just one European country to fill storage facilities before November would put the entire bloc in danger, Dutch authorities warn(11月までに欧州の一国だけでも、貯蔵施設を満杯にできなければ、EU全体が危険にさらされるとオランダ当局が警告)
ロシアに対する経済制裁はEU諸国やアメリカ庶民の生活を直撃し始めました。ガスどころか、ロシアからの肥料や食料が輸入できなくなったからです。そのため物価が値上がりし、庶民は毎日の生活すら脅(おびや)かされつつあります。
次の(9)(10)を見てください。欧米の庶民は、アメリカ支配層によるロシア壊滅作戦に強力させられて、その戦争に勝利するどころか、自分たちの食と職を失う危険すらあるのです。
(9)Most Americans ‘concerned’ about making ends meet – poll(ほとんどのアメリカ人が家計のやりくりに「不安」 - 世論調査)
https://www.rt.com/news/558003-americans-worried-everyday-things-poll/
Jun 28, 2022
(11)One in four Germans fears losing job due to Ukraine crisis – survey(ドイツ人の4人に1人がウクライナ危機による失職を懸念 - 世論調査)
https://www.rt.com/business/557991-germans-fear-losing-jobs/
Jun 28, 2022
その庶民の心配と怒りは、イギリスではボリス・ジョンソン首相の辞任というかたちで、表面化しましたが、アメリカでも同じ動きが出始めています。
次の(12)の副題でも分かるように、世論調査ではアメリカ人の70%以上が、バイデン大統領の2期目出馬を拒否しているのです。
それどころか共和党の女性下院議員グリーン女史(Marjorie Taylor Greene)からは「NATOから脱退せよ」という意見まで出始めました。それが(13)の記事です。
この記事(13)の副題を読んでいただければお分かりのように、グリーン女史は、「ウクライナを『道具』『代理』に使ったロシアとの戦争を止めるべきだ」と訴えているのです。
(12) Poll draws grim prediction for Biden’s re-election – The Hill(世論調査、「バイデン氏の再選に厳しい予測」と政治紙The Hill)
https://www.rt.com/news/558236-biden-poll-rematch-trump/
1 Jul, 2022
(12の副題)Over 70% of respondents are opposed to the idea of US President Joe Biden’s second term, according to a survey cited in the media report(ジョー・バイデン米大統領の2期目就任に7割以上が反対。調査結果の報道)
(13)US should pull out of NATO – congresswoman(米国はNATOから脱退すべき、と女性議員)
https://www.rt.com/news/558216-us-lawmaker-withdraw-nato/
Jul 1, 2022
(13の副題)The US should pull out of the trans-Atlantic alliance instead of waging a proxy war against Russia, a Republican lawmaker says(米国はロシアとの代理戦争を行うのではなく、NATOから撤退すべきであると共和党議員が発言)
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このグリーン女史の記事(13)の最後は次のように結ばれていました。
マージョリー・テイラー・グリーン女史はは、ウクライナへの軍事援助供与に議会で反対票を投じた。それはロシアに対する「代理戦争」であり、アメリカ人はそんなことに興味も関心もないと言った。
「ロシアと戦うためにウクライナを大砲の餌食(えじき)にするなんて不愉快極まりない行為だ。ロシアは付き合い方次第でアメリカの仲間にすることもできたのに」とツイートした。
また、グリーン議員は、高騰するインフレから鎮痛剤フェンタニルの過剰摂取、横行する犯罪まで、米国民にとってより緊急性が高いと思われる問題の数々を列挙した。ロシアとの紛争を煽(あお)っているのは、「それでお金を稼ぐ人たち」だけだと彼女は主張した。
「NGO、あらゆる種類の軍事契約、助成金、ビジネス取引、さらには人道支援、政治コンサルタントなど、すべてがいかがわしい」「戦争は産業だ。致命的な利益を生む産業だ」と彼女は書いている。
ロシアとの戦争を求めるワシントン戦争中毒の連中は、「それにふさわしい格好に着替えて、自分自らが戦いに行くべきだ」と彼女は提案した。「戦争したいのであれば、あなたの子供を戦場に送れ。自腹でやれ。私たちを巻き込むな」
日本で誰かこのような意見を述べた議員はいるのでしょうか。私の知るかぎり、共産党すらこのような意見を表明していません。
冒頭で取りあげたニュースレター『健康と暮らし』のコラム「健康春秋」を書いたKさんは、コラムの最後を次のように結んでいました。
膨大な死者を出した独ソ戦の舞台となり、またスターリンによる「ホロドモール」と言われる大量の餓死等、悲惨な歴史を持つウクライナの歴史から学ぶべきことは多いようです。
そのうえで、「平和」を取り戻すためになにが必要かを学ぶ努力が求められています。その努力は日々流されている情報を正しく理解するためにも必要なようです。
確かに「悲惨な歴史を持つウクライナの歴史から学ぶべきことは多い」ことは間違いありません。
また、「そのうえで、『平和』を取り戻すためになにが必要かを学ぶ努力が求められています。その努力は日々流されている情報を正しく理解するためにも必要なようですためにも必要」だということも、仰(おっしゃ)るとおりです。
しかし、そもそも間違ったウクライナ理解から何が得られるのでしょうか。
今まで説明してきたように、Kさんのウクライナ理解は、「日々流されている情報を正しく理解する」ことから、程遠いように思われます。
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もっとも、このことはKさんだけの責任ではありません。共産党の志位委員長でさえ、日本の国会におけるゼレンスキー大統領のオンライン演説を「感銘した」と言っているのですから。
拙著『ウクライナ問題の正体2』で詳しく述べたように、欧米のメディアもゼレンスキーを「民主主義の旗手」として絶賛しているのです。
それどころか世界中の左翼・リベラルのひとたちから尊敬されてきたチョムスキーでさえ、「ロシアが深刻な打撃を受けるまで戦争を続けろ」という発言をしているのです。この事実を知ったとき、私は絶句してしまいました。
*Video: Noam Chomsky’s Stance on the Ukraine War: “The War must continue until Russia is Severely Harmed.”(動画 ノーム・チョムスキーのウクライナ戦争論「ロシアが深刻な打撃を受けるまで戦争を続けろ」)
https://www.globalresearch.ca/noam-chomsky-qualified-military-analyst/5784806
By Kim Petersen、Global Research, June 28, 2022
現在のチョムスキーは、上の論考にあるとおり、ウクライナに関しては、「コソボ問題」で示したような立場を放棄してしまったようです。私にとっては信じがたいことでした。
コロナ騒ぎを引きおこし、「グレート・リセット(世界の初期化)」を企画したひとたちも目論見は、まんまと成功したのかも知れません。なにしろ共産党やチョムスキーまでも「リセット」してしまったのですから。
かくして、私にとって北斗七星のような存在だったチョムスキーは、もはや存在しません。悲しむべきことに、コロナ騒ぎを契機として世界はいま「左翼・リベラル総崩れ」の状態です。
また、Kさんのような左翼・リベラルのひとたちが「ロシア軍によるウクライナ侵略」を叫べば叫ぶほど、自民党岸田政権が、そのような声を口実に憲法を改悪し、中露を「仮想敵国」とした軍事化をすすめることは眼に見えています。
このような悲しむべき現状をどのように建てなおすか。私たちに課せられた課題は前途遼遠ですが絶望するわけにはいきません。私も老体に鞭うって「亀の歩み」を続けて行くつもりです。
どうか今後ともよろしくお付き合いください。
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