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大槌の漁師の黒澤さんから突然、電話をもらった。電話口から切迫した様子で、今、追い詰められた状態で、とにかくダメ元でReady forでフォークリフト支援を募ってみたこと、私にも資金的に協力してほしいということを伝えて来た。こんなことは今までにないことで、驚いた。私も急きょ、大槌に行き、お話を伺ってきた。本当に大変な状況になっていた。ぜひ、みなさんにもご支援をお願いします。今日はその詳しい状況を私なりにレポートしたいと思う。

https://readyfor.jp/projects/kurosawa_oyster

Ready forの文面を読んで、これはこのままでは難しいなと感じた。たとえば、今、鬼怒川水害の復興にかかわるものであるならば、支援を受けやすいだろう。しかし、東日本大震災からの復興ということならば、詳細な状況が分からなければならない。黒澤さんの、正確に言えば、息子さんの訴える内容では、切迫した状態というよりは、ここまで頑張って立ち上って来たので、さらなる飛躍をするために支援してほしいという風に見えてしまう。それならば、あとは自分たちでやればよいのではないか、と。

黒澤さんは一時期、和RING-PROJECTに勤めていて、その縁で私も知り合ったのだが、漁師の旦那さんが漁を再開するので、家業を手伝うために退職された。それが2年くらい前のことである。それからも、大槌に行くと、私も作業をしている元市場のところに顔を出したりして、車で行ったときなどは美味しいお土産をいただいたりしていた。もちろん、その間、大変なことがなかったわけではない。悔しい思いもたくさんしていた。しかし、今度はいよいよ厳しい状況である。

今回の直接の原因は、作業場を移転しなければならなくなったことである。震災前の原状復帰ということである。大槌漁協を通じて、岩手県漁協連合会からの指示である。ただし、移転先の作業場では一切の用意がされていない。たとえば、上下水道が整備されていない。下水道が整備されていなければ、トイレがないということで、その大変さは誰にでも想像できるが、上水道が整備されていないということは、ウニやワカメを採っても、それをその場で洗浄できないことを意味している。まさに漁師にとって死命を決するといっても過言ではない。そもそも、ウニなどの貝を入れておく1tタンクもないし、殺菌設備もないのだ。こうした設備は震災後、様々な支援を得て市場にある程度、現在の作業場である市場に揃え直すことが出来た。しかし、今後は作業場から市場まで運搬しなければならない。要するに、リンク先の写真でここまで復興しました!というのが、すべて1からやり直しになるということになる。

素人考えでいえば、市場の道具を移動すればよいではないかと思うが、大槌漁協が反対している。支援を受けたのは自分たちであって、漁師ではないということである。ここら辺は外部者には分かりにくい。漁協は組合員の漁師によって成立する組織なのだが、あらゆる協同組合的組織がそうであるように、専従の職員を持っている。この職員が道具を移動することに賛成しないのである。大槌町の漁協を通じて支援した多くの人は、当然、漁師を支援したと思っているが、実際は必ずしもそうではなく、彼らに支援の手は届いていない。

そもそも、黒澤さんたちにしても、流された網から船まで全部、自分たちの資産と借金で用意したのである。震災直後から数年間、支援の資金も力も入った。黒澤さんたちにしても、そういう力をまったく借りなかったわけではないが、ほとんどが自力再建である。たしかに、支援を食い物にした人たちはいた。たとえば震災前借金で首が回らなくなっていて、魚市場から出入禁止だったにもかかわらず、被災者支援をやっているといって支援金を集め、そのお金で出入禁止になっていない隣の町から仕入れて商売をしていた人間がいる。彼が支援を呼びかけたとき、その文章がおかしいにもかかわらず(日本語的にも)、すぐに支援が集まったりしていた。

実際に現地に行くことは出来ないから、金銭的な面で被災地支援をしたい、という希望をもった方は数年前からいらっしゃった。震災直後、多額の寄付が集まったが、それが有効に使われているかどうかはよく分からなかった。これは欧米など寄付文化が根付いている国では当然だが、我々はこの震災を通じてようやく寄付文化というのを少しずつ学び始めている。そこでは、企業投資ではないけれども、社会的な投資という側面がある。当然、出す側も勉強しなければならない。多額の資金を出すならば慎重になるのは当然である。でも、知りようもない。このプロジェクトは間違いない。

ただ、このプロジェクトに投資しても、黒澤さん一家を救うことにしかならないと思われる方もいるかもしれない。しかし、そうではないのだ。まず、空き時間にはその機械をシェアすることが出来るので、他の漁師の人たちの作業も助かる。そして、何より、もうあきらめようかという気持ちになっているのは、黒澤さんたちだけではない。彼らが改めてここで踏みとどまることが、その他の人たちの希望になる。

最後に、もう一度、みなさんにご支援をお願いしたい。そして、出来れば、実際に足を運んで、大槌の海の幸を堪能して欲しい。大槌は新山から海まで10km以内で海抜1000mの高低差があり、豊富な地下水が流れ込んでいる。それが町中で湧水になり、海を豊かにしている。ただ、大槌は他の地域に比べてブランディングが下手なので、あまり知られていない。私は大槌のワカメを食べてワカメ観が一変してしまった。支援よりもそのことを実感するだけで十分、お金を出す価値はある。