Hothotレビュー

静かな駆動。OCuLink搭載で拡張性もマル。Ryzen AI 9 HX 370搭載ミニPC「ACEMAGIC F5A」

 ACEMAGICは、筐体の側面にLEDを搭載してイルミネーションを楽しめる「F3A」、GPUを別途搭載して3Dグラフィックス描画機能を強化した「M1A TANK 03」など、ミニPCメーカーの中でもユニークなモデルをラインアップするメーカーの1つだ。今回紹介する「F5A」ではそうした人目を引くギミックは搭載しておらず、一見すると普通のミニPCのようにも見える。

 しかしAMDの最新CPUとなる「Ryzen AI 300」シリーズである「Ryzen AI 9 HX 370」やOCuLink、高性能な放熱システムを搭載するなど、中身はかなりの実力者と言ってよい。今回はこの高性能なミニPCをさまざまな面から検証していこう。

Ryzen AI 9 HX 370を高性能な冷却システムでしっかり冷やす

 変わったギミックはないと書いたが、デザインはなかなかあかぬけている。心地よいひんやりとした肌触りの金属製フレームを採用するほか、目に付きやすい天板手前には美しい鏡面仕上げのパネルがはめ込まれている。つや消しブラックを基調とした筐体に、この鏡面仕上げのパネルがなかなか映えるのだ。

側面や天板には金属のフレームを採用
天板手前は鏡面仕上げのパネルがはめ込まれている

 幅は132mm、奥行き130mm、厚みは61mmとサイズ感は一般的なミニPCと同じで置き場所を選ばない。デザインも秀逸なので、リビングなどに設置している大画面TVと組み合わせてもよいだろう。ちなみにこの美しい鏡面パネルにはAMDのシールが2枚貼られている。本体の美しさとデザインを重視するなら、目立たない底面に貼り直したい気持ちもある。

 Ryzen AI 9 HX 370はAMDの最新CPUで、CPUコア部分は4基のZen 5コアと8基のZen 5cコアからなっており、12コア24スレッドに対応する。内蔵GPUはAMD Radeon 890Mで、1つ古い世代の「Ryzen 8000」シリーズと比較すると、CPUコアとGPUコアの両方をアップグレードしている。またAI関連の処理を高速に行なえるNPUの性能も飛躍的に向上している。

【表】ACEMAGIC F5Aの主な仕様
メーカーACEMAGIC
製品名F5A
OSWindows 11 Pro
CPU(最大動作クロック)Ryzen AI 9 HX 370(12コア24スレッド)
搭載メモリ(空きスロット)DDR5 SO-DIMM PC5-44800 32GB 2基(なし)
ストレージ(インターフェイス)2TB(PCI Express 4.0 x4)
拡張ベイPCI Express 4.0対応M.2スロット 1基
通信機能IEEE 802.11a/b/g/n/ac/ax/be、Bluetooth v5.4
主なインターフェイス2.5GbE 2基、DisplayPort 1基、HDMI 1基、USB4 2基、USB 3.2 Gen 2 3基、USB 2.0、OCuLink
本体サイズ132×130×61mm
重量(実測値)621g
直販価格14万8,590円(セール価格、10月上旬)

 このCPUを搭載するミニPCは本誌でもすでに何度か取り上げているのでこれ以上細かくは紹介しないが、Ryzen 8000シリーズを搭載するミニPCと比べるとワンランク上の性能を発揮できることは間違いない。そしてこうした高性能なCPUのパワーを100%引き出すべく、銅製のヒートパイプとヒートシンク、大型のファンを組み合わせた冷却性能の高いCPUクーラーを搭載する。

CPUの冷却システムは薄型のヒートパイプとヒートシンク、大型のファンを組み合わせたものだ

 またこの冷却システムは冷却効率も高いようで、後述するようにベンチマークテストのような負荷の高い状況でもかなり静かに動作する。また試用した評価機のUEFIには、ファンの回転数を細かく制御するメニューが用意されており、自分の好みの設定に変更できるなど、ミニPCらしくない高いカスタマイズ性を搭載していることもなかなか面白かった。

 前面にはUSB 3.2 Gen 2を2基、USB4を1基装備する。背面には2.5Gigabit Ethernet(GbE)の有線LANポートを2基、HDMIとDisplayPort、USB4、USB 3.2 Gen 2、USB 2.0をそれぞれ1基ずつ搭載しており、ミニPCとしては平均的な構成だ。USB4はどちらもDisplayPort Alt Modeや給電に対応するので、使い勝手はよい。

前面にはUSB 3.2 Gen 2やUSB4を装備
背面にはDisplayPortやHDMI、映像出力に対応するUSB4、2.5GbE対応の有線LANポートなどを備える

 左側面にはOCuLinkを搭載する。OCuLinkはコネクタが大きく、ケーブルも曲げにくいので、左側にそれなりのスペースを確保する必要があり、正直ちょっと使いにくい位置ではある。ただあるのとないのとではグラフィックスやAI活用の可能性に大きな違いが出てくるため、このクラスのミニPCであれば必須とも言える装備だ。

 ひっくり返して底面を見ると、吸気用のスリットの奥に吸気用のファンが見える。メモリとM.2 SSDは底面側に組み込む構造であり、これらのパーツを冷却するためのファンである。こちらのファンも、UEFIからかなり細かく回転数の調整が可能だった。

OCuLinkのそばには、「PCの電源を切った状態で着脱してほしい」という注意書きのシールが貼ってある
底面に大型のファンを搭載しており、メモリやM.2 SSDをしっかり冷却してくれる
付属のACアダプタはやや大きめなタイプで、最大出力は120Wだった

ベンチマーク時でも静かな動作音、前世代からは順当な性能向上

 電源を入れると、動作中のファンの音は非常に静かだった。ビジネス関係の書類作成や動画、音楽配信といった軽作業をしている状況でもこうした静音性は維持されており、本体のフレームに耳を寄せてようやくファンの音が聞こえてくるという程度だった。今まで検証してきたミニPCと比較すると、静音性の評価が高いMINISFORUMのミニPCと同じか、それに近いレベルと感じた。

 そして強力な冷却装置のおかげもあって、高い負荷がかかった状態でもファンの音は小さめだ。ベンチマークテスト中に「フー」と静かな風切り音が続く程度で、テストが終わればすぐにファンの音は小さくなり、CPU温度も低い状態に戻る。ユーザーの近くに置いて使うことが多いミニPCでは、こうした静音性の高さは魅力の1つとなる。

 次に、F5Aの実際の性能を簡単に検証してみよう。比較対象はGMKtekの「NucBox K8」で、1つ世代が古いRyzen 7 8845HSを搭載している。CPUコア部分の世代やコア/スレッド数、そしてGPUコア部分も世代が進んだことで、全体的な性能は大きく向上していることが予想できる。またこの2つのCPUを搭載するミニPCは価格差が大きいこともあり、どちらを選ぶべきかの指標にもなるだろう。

GMKtekの「NucBox K8」。CPUにRyzen 7 8845HSを搭載している
CPUメモリCPUコアGPUコア
ACEMAGIC F5AAMD Ryzen AI 9 HX 370(12コア/24スレッド)32GB(DDR5 SODIMM PC5-44800 16GB 2基)Zen 5+Zen 5cAMD Radeon 890M
GMKtek NucBox K8AMD Ryzen 9 8845HS(8コア/16スレッド)32GB(DDR5 SODIMM PC5-44800 16GB 2基)Zen 4AMD Radeon 780M

 また今回試用したのは、現在直販サイトで予約注文できるメモリが64GBでSSDが2TBのモデルではなく、メモリは32GBでSSDが1TBのモデルだった。比較対象としたNucBox K8のメモリやストレージも同じ構成だったのでちょうどいいだろう。AMDのディスプレイドライバやAdrenalineのバージョンはどちらも最新版で揃えている。

 日常的に利用する軽作業用アプリの使用感を確認できるPCMark 10 Extendedの結果については、総合Scoreが7,500を超えているほか、Windows 11や各アプリの操作性、応答性などに影響するEssentialsは1万を余裕で超えており、非常に快適に利用できることが分かる。なおNucBox K8も実際の使用感は快適で、軽作業などでは不満を感じる場面はない。

PCMark 10

 3Dグラフィックスの描画性能を計測できる「3DMark」でも、F5Aのほうが平均して10~13%ほど性能が高い。実際のPCゲームでの性能差については、描画負荷的にはミドルクラスの「ファイナルファンタジーXIV: 黄金のレガシー ベンチマーク」のScoreと、比較的軽めな「F1 24」の平均FPSで比較してみると、やはり10%前後の性能差がある。Ryzen 8000シリーズとの比較では、確かに性能が向上していることがよく分かる。

3DMark
ファイナルファンタジーXIV: 黄金のレガシー ベンチマーク
F1 24

 もう1つ、NPUに関するテストも行なってみよう。AI画像/動画生成ソフト「Amuse 3.1」では、AMDのNPUに最適化された「Stable Diffusion 3.0 Medium」を非常に簡単に利用できるようになった。今回はこのAmuse 3.1による画像生成を、F5Aが搭載するRyzen AI 9 HX 370の内蔵NPU/GPU、そしてNucBox K8の内蔵GPUで行ない、その時間を比較してみた。

 Amuse 3.1の利用方法は簡単で、Adrenalineの最新バージョンとAmuse 3.1をインストールする。Amuse 3.1を起動して「EZ Mode」にした場合、「Generate」タブから「Performance」を「quality」に変更すると、NPUを認識できる環境なら「AMD XDNA 2 Stable Diffusion」が有効になる。この状態になっていれば、画像生成にNPUが利用される。

AMDのNPUが認識されている場合は、標準では「AMD XDNA 2 Stable Diffusion」が有効になっている。無効にしてGPUで生成することも可能
この状態で画像生成を行なった時のタスクマネージャーだ。NPUの使用率はほぼ100%、これが見たかった

 NucBox K8が搭載するRyzen 7 8845HSでも、スペック上はNPUは搭載しているのだが、Amuse 3.1上では認識されなかったので、NPUによる画像生成機能は利用できなかった。またVRAMが少ない状態だとGPUによる画像生成の途中で作業がストップしてしまうため、F5AとNucBox K8のVRAMはどちらも8GBに設定している。

 なおEZ Modeでは、NucBox K8でのGPU生成のステップ数が40になり、F5A(20ステップ)とバランスが取れなくなってしまう。そのため今回はAmuse 3.1の動作モードをExpert Modeに変更し、ステップ数を同じ20にして1枚の画像を生成した時の時間を比較した。

 グラフを見れば一目瞭然だが、NPUによる生成速度はかなり速い。GPUを利用する画像生成ではF5AとNucBox K8でほとんど変わらないのだが、NPUを利用した場合はGPU生成と比べて約38%の時間で作業が終了する。また消費電力もGPU生成時は50W前後であるのに対し、NPU生成時は40W前後だった。一般ユーザーにとって、NPU内蔵CPUのメリットを感じにくい状況の中、分かりやすい優位性を示す1つの例と言える。

 また静音性も高いが冷却性能も十分高いようで、Cinebench R23のようなCPUに高い負荷をかけ続けるテスト中でもCPUの最高温度は76℃、CPUとGPUの両方に負荷がかかるファイナルファンタジーXIV: 黄金のレガシー ベンチマークを1時間ループ実行した時の最高温度も79℃と、長時間のゲームプレイでも安心して利用できるだろう。

底面からメモリやM.2 SSDにアクセス可能、欠点の少ないミニPC

 最後に内部へのアクセス方法を解説しよう。底面にある4カ所のゴム足は両面テープで貼られており、まずはこれを剥がす。すると底面のプレートを固定しているネジが見えるようになるので、このネジを外そう。

底面のゴム足を剥がして内部のネジ穴にアクセスできるようにする
ネジを外せばこのように底面のプレートも外せるようになる

 すると底面のプレートも外れるようになるのだが、このプレートにはSSDとメモリを冷却するためのファンが固定されており、無理やり引っ張ると基板と接続されているケーブルが抜けてしまったり、断線したりすることがある。薄いカードを隙間に挿し込みながら、ゆっくりと慎重に底面プレートを外そう。

 底面プレートを外すと見える基板上には、2基のメモリスロットとM.2スロットがある。メモリスロットには2基の16GBモジュールが装着済みだが、2基のM.2スロットは1基分が空いており、必要に応じてストレージ容量を増やすことも可能だ。OCuLinkと空きM.2スロットは排他ではなく、両方とも利用できる。

メモリスロットは2基ともに利用済みで、M.2スロットは中央に1基分の空きスロットがある

 ミニPCらしいサイズ感に、飽きの来ない優れたデザイン性とOCuLinkに代表される拡張性、そして圧倒的と言ってもよい静音性を兼ね備えるF5Aは、欠点が非常に少なく、誰にでもお勧めできるミニPCと言ってよい。

 またMicrosoftが総力を挙げてバックアップするCopilotの各種機能でもNPUをフルに使うような場面はなかなか見られない中(苦笑)、数少ないとは言えNPUをフルに活用できるアプリがあることは、少々高めとはいえF5AのようなRyzen AI 9 HX 370搭載ミニPCを選ぶ理由になるはずだ。