大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」
なぜVAIOはメーカー認定整備済みPCの販売に乗り出すのか。Reborn VAIOの再生現場に初潜入!
2025年9月30日 06:12
VAIOが、リファービッシュPC「Reborn VAIO」の販売を開始した。使用済みのVAIOを買い取り、長野県安曇野の本社工場において、VAIOの独自基準によって整備し、メーカー保証付きPCとして再生し、販売する。
VAIOの糸岡健取締役 執行役員常務は、「単なる中古品とは異なる。むしろ、VAIOの新たな製品ラインアップの1つとして位置づけており、VAIOユーザーの裾野を広げる製品になる」と意気込む。初公開となる安曇野本社工場での「Reborn VAIO」の整備、再生する現場を取材するとともに、Reborn VAIOの狙いなどについて聞いた。
VAIOの新たなラインアップに
Reborn VAIOは、VAIOが取り組むメーカー保証付きリファービッシュPCである。
リース終了などで使用済みとなったPCを、VAIOが利用顧客やリース会社などから買い取り、それを再生して、販売するというものだ。
同社では、2023年から、個人向けPCを対象に、認定整備済PC事業を小規模でスタート。試行錯誤を繰り返しながら、このほど、長野県安曇野の本社工場内に、量産できる整備体制や、直販サイト「VAIOストアビジネス」を始めとした販売体制などを整えるとともに、認定整備済PCのための新たなサブブランドとして「Reborn VAIO」を用意。2025年8月21日から、法人向けに本格展開することとなった。また、7月15日からは、個人向けのReborn VAIOの本格展開も再スタートしている。
VAIO取締役 執行役員常務の糸岡健氏は、「当初は認定整備済PCと呼んでいたが、覚えにくいという声があった。そこで、社員が悩みに悩み、社員にもアンケートを行ない、Reborn VAIOという名称に決めた。中古品でもなく、単なる再生品でもなく、VAIOが思いを込めて作り上げた再生PCであることを示した。法人向けも、個人向けも、Reborn VAIOの名称を使用することになる」とした。
「VAIOは、安曇野に自社工場を有している。この利点を生かして、PCを再生できないかと考え、2022年末ごろから、検討を開始し、まずは個人向けで開始した。やってみるというところから始まった取り組みだが、本体の調達、部品の確保、再生工程の構築、販売体制の確立など、試行錯誤を繰り返しながら、今回のReborn VAIOの誕生につなげることができた」と振り返る。
その上で、「VAIOを使ってみたいと思っていても、価格が高いという理由で購入できないという声が一定数あった。だが、VAIOのラインアップの1つとして、Reborn VAIOが加わり、新たな価格帯の製品として、お客様に受け入れていただけるようになると考えた。VAIOの安曇野工場で再生作業を行ない、品質を担保し、見た目も新品同様である。お客様に、安心して利用してもらえる新たな製品が誕生した」と語る。
一部部品は新品に交換するこだわり
Reborn VAIO では、CPUや基板、液晶ディスプレイ、ボトムケース、内蔵カメラなどの主要部品は、そのまま再利用する一方で、天板やキーボード、タッチパッド、ベゼル、電源ボタン、ネジなどの外装部品、バッテリやファンなどの内部部品、ACアダプタやクリーニングクロスといった同梱品は新品に交換。Windowsも、マイクロソフトのMAR(Microsoft Authorized Refurbisher)プログラムに則った正規ライセンスOSを新たにインストールする。
再生工程では、安曇野工場での新品を生産する際に採用しているVAIO独自のモノづくりのノウハウや、新品と同等の動作試験、品質試験を実施して再生する。また、メーカー保証を1年つけて提供することになる。中古PCの保証期間の多くが半年であることと比べても異例である。
現在、販売対象となっているのは、2021年10月に発表した14型ディスプレイ搭載の「VAIO Pro PK(VJPK21)」だけだ。Reborn VAIOとして再生するためのPCを、まとまった台数で調達できているため、法人ユーザーが、これを一定数量で一括導入することも可能だ。
すでに、最初のユーザーとして、三菱HCキャピタルが、280台のReborn VAIOの導入を決定したことを発表している。
VAIO オペレーション本部認定整備済PCオペレーションマネージャーの花村英樹氏は、「VAIOのフィロソフィである、カッコイイ、カシコイ、ホンモノを、Reborn VAIOでも提供する。VAIO自らが、自分の工場の中で再生するため、新たな部品と交換し、新品と遜色がない外観を実現できる。また、バッテリも新品にするため、中古PCの購入時の懸念である充電の持ち時間の課題もクリアできる。そして、動作確認も安曇野工場で培ってきた検査ノウハウを活用し、厳格な品質チェックを行なって出荷する。安心して使ってもらえるリユースPCである」と胸を張る。
新たな部品に交換しているところは、外装部分では使用感が出やすい場所や直接手に触る場所などを対象にし、内装部品では劣化が性能に影響する部分を対象にしている。また、ネジをすべて交換するのは、ボトムケースでは、持ち歩く際に汗によってネジが錆びてしまうという事象があったため、新たなものを使うことにした。「地味な点だが、ネジやラベルを交換するだけでも、見え方が違う。これもメーカーだからこそできること」(VAIOの花村氏)とする。
新品の約6割で購入できる?
一方、Reborn VAIOだけの特徴もある。
1つ目は、外装カラーをファインブラックに統一している点だ。これは、再生作業の効率化と、在庫バリエーションの一本化および在庫コストの削減にもつながっている。もともとVAIOのボトムケースとベゼルは、ブラックを採用しており、どんな筐体カラーのものを再生しても、ファインブラックに統一すると違和感はない。
2つ目は、今回の対象となっているVAIO Pro PKでは、ペンタッチには対応しておらず、その点では新品とは仕様が異なる。再生工程の中で、保護用ガラスを剥がしてしまうため、ペンタッチをすると傷がついてしまうのが理由だ。だが、指でのタッチ操作は可能となっている。なお、ディスプレイが180度開く構造は同じだ。
3つ目は、9万9,800円という購入しやすい価格設定となっている点だ。VAIO Pro PKでは、第11世代CoreであるCore i5-1135G7を搭載し、SSDは256GB。独自のVAIO TruePerformanceを採用したほか、LTEにも対応。さらに、AIノイズキャンセリング機能など、快適なビデオチャットを実現できるFull HDカメラも搭載している。なお、Officeは付属していない。
直接比較する機種がないため、あくまでも参考値となるが、第13世代Core i5と、256GBのSSDを搭載しているVAIOの新品の価格は31万6,200円となっている。また、ここには3年延長保証が付属しているため、それらも加味しなくてはならないが、2世代分のCPU性能の違いや、さまざまな仕様の違いなどを含めても、「新製品の6割程度の価格で購入ができる」と位置づけている。
新品に比べてCO2排出量は6割減
Reborn VAIOは、循環型社会の実現にも貢献できる製品としても評価されている。
VAIOの試算によると、部品を再利用していることから、それに関わる削減効果があり、Reborn VAIO の1台あたりのCO2排出量は、新品に比べて59.8%も削減できるという。
実は、Reborn VAIOを導入する企業にとって、これが重要なポイントになっている。
花村氏は、「導入した企業では、本体にReborn VAIOのロゴを入れて欲しいという要望がある。外観のほとんどを新品に変えてしまうため、新しいPCを導入しているように見えるが、むしろ、企業にとっては、環境に配慮したPCを使用しているということを訴求したいという狙いがある」とする。
こうした声があることから、現在、Reborn VAIOのロゴの制作について、検討を進めているところだという。
検品工程で声にならない不満の発見にも
もう1つ、Reborn VAIOによって、見逃せない効果が生まれている。それは、新製品の設計、開発への貢献だ。
再生用に入庫した使用済みPCは、最初に検品工程において、外観検査や機能検査を実施し、再生できるPCと、できないPCに仕分けをするが、この際に、「不良ではない事象」を発見することにつながっているというのだ。
VAIOの花村氏は、「PCを使用していると、日常的な使用ができるため、文句をいうほどの問題ではないという事象がたびたび起きている。隠れた不満ともいうべきものであり、設計部門では想定していなかった課題を見つけることもできる」とする。
たとえば、3年使用した結果、特定の場所の塗装が黒ずみやすい、傷がつきやすい、使用しているネジによっては筐体全体に少しガタつきがで始めるといった、声にはならない不満が検品工程で確認できるのだ。
しかも、法人で利用されていた同じ機種の使用済みPCをまとまって調達するために、個体の問題ではなく、共通した課題として捉えることができ、次期製品の開発にもフィードバックしやすくなる。
「個人ユーザーの場合だと使われる環境がさまざまであり、それによって不満とする部分が異なるケースが見受けられるが、特定の企業において、数千台規模で、ほぼ同じ環境で使用されるPCで、同一の課題が発生していることが分かれば、設計側も納得して改善に取り組むことができる。検品工程で発見された事象を、開発モデルの品質改善につなげるために、発見した課題をデータ化し、フィードバックできる仕組みを構築している」(VAIOの花村氏)という。
これも、Reborn VAIOから生まれる重要なプラス効果だといえる。
安曇野の熟練の技術者たちがReborn VAIOを作り上げる
Reborn VAIOは、長野県安曇野のVAIOの本社工場で、整備および再生を行なっている。
VAIOの生産は、同工場の1階エリアを使用して行なわれているが、Reborn VAIO向けには、2階エリアに専用ラインを新設した。
当初、個人向けPCでスタートした際には、1人の作業者が、最後まで組み上げるという仕組みであったが、量産体制に向けて、約10人でライン化。新品の生産工程で利用している作業台や工具、治具、検査装置なども導入した。
作業を行なっているのは、高度なスキルを持った技術者たちで、工程には、新品の生産ラインで使用されている自社開発の専用設備を導入。そこで培われた手法やノウハウを用いて、品質の高いモノづくりと、高い生産性を実現している。今後、整備する台数が増加するのにあわせて、ラインを増設できるようにもしている。
今回、Reborn VAIOの整備、再生工程を初めてメディアに公開した。写真を通じて、工程の様子をレポートしよう。
Reborn VAIOの再生現場を見てみる!
Reborn VAIOの整備、再生は、「検品工程」と「リファービッシュ工程」で構成されている。
検品工程は、入庫した使用済みPCの外観検査や機能検査により、再生が可能なPCと、再生が不可能なPCとに仕分けを行なう工程となる。
外観検査では、再生後も継続的に使用するボトムケースや液晶ディスプレイを中心に外観検査を行ない、同時に、メインボードに接続しているインターフェイスの摩耗や錆、汚れ、変形などを確認することになる。
外観検査は、専任の技術者が行なっている。新品の生産ラインでも、最終工程で外観検査を目視で行なっているが、そこで培ったノウハウが生かされている。
「厳しい外観検査を行なってきた専任技術者だけに、新品の基準で外観検査を行なう癖がある。その基準のままだと、すべてがはじかれてしまう。Reborn VAIOの限度見本を用意し、ここまでは再生が可能という基準を作った。この部分はかなり苦労した部分である」と、VAIOの花村氏は苦笑しながら、品質に厳しい安曇野工場だからこそのユニークなエピソードを披露する。
また、機能検査は、自動判定ツールを活用して、キーボードやタッチパッドの正常動作の確認など、30項目以上の機能や動作をチェックしている。これは新品の生産ラインの最終検査で活用している動作テストツールをベースに、Reborn VAIO向けに開発したもので、ここでも工場ならではのノウハウが活用されている。
外観検査が終わると、いよいよリファービッシュ工程に入る。ここでは、部品交換(部品取り外し/組み立て)、出荷検査、梱包/出荷の3段階で作業が進むが、細かく見ると10個の工程に分類することができ、組立や検査などは、新品の生産ラインとほぼ同じ流れで作業が進められている。つまり、新品の生産と同じ精度や品質を維持しながら整備が行なわれているのだ。
実際、使用されている設備や検査ツールは、新品の生産ラインで使用されているVAIOが独自に開発した専用のものが利用されている。
作業を行なっている社員は、新品の生産ラインで作業経験を持つエキスパートたちである。特に最初の分解工程を担当する社員は、組み立てだけでなく、修理も担当できるスキルを持ったエキスパートだという。
つまり、VAIOを生産してきたエキスパートが、VAIOの生産設備と組立技術、検査ノウハウを活用して、高い品質と効率性を維持しながら、再生したPCが、Reborn VAIOというわけだ。
ここからは、Reborn VAIOの再生の工程に入る。新品の生産工程で使用しているのと同じ道具や治具、設備を使用し、新品と同じ精度で組立作業を行なうのが特徴だ。検査も新品と同じ水準で行なわれており、一人ひとりの作業台も新品工程と同じものを使用している。
ただ、新品に比べると1日の生産量が少ないため、作業者1人が行なう工数が多く、その点でも作業者には高いスキルが求められている。
また、工程内では部品や工程がバーコードで管理されており、Reborn VAIOには新たな製造番号が付与され、どのReborn VAIOに、どの部品が使用されているのかといったことも分かるようになっている。
VAIOからReborn VAIOに生まれ変わると製造番号が変わるものの、一部の部品は継続的に使用し、バッテリやファンなどは新たな部品が使用されるため、それらの部品の管理も必要だ。また、マイクロソフトのMAR(Microsoft Authorized Refurbisher)プログラムによって、新たなOSライセンスが提供されることから、この管理も行なう必要がある。
製造番号と新旧の部品、OSの新ライセンスを紐づけて管理するためのシステム連携も、Reborn VAIOの実現においては、かなり苦労を伴った部分だったという。
3年後には6万台の販売を目指す
糸岡取締役 執行役員常務が語るように、Reborn VAIOは、VAIOの新たなラインアップとして位置づけて、販売を加速することになる。
VAIOの発表によると、2025年度は5000台のReborn VAIOを販売し、3年後には6万台の販売を目指す計画だ。
「Reborn VAIOを、安定的に供給するための調達体制や、再生できる体制が整った。法人向けのReborn VAIOに加えて、これまでは試験的に行なってきた個人向けのReborn VAIOも本格的に販売を進めることができる」(VAIOの糸岡取締役 執行役員常務)とする。そして、「Reborn VAIOの発表以降、想定以上の引き合いがある。大きな注目を集めている点は、想定外のうれしい驚き」とも語る。
企業の中では、社歴が浅い社員や、高い性能を必要としない部門で、低価格のPCを調達するといったケースがあり、比較的価格設定が高いVAIOはそこに当てはまる製品がなかった。だが、Reborn VAIO では、10万円を切る価格設定を実現していることから、そうした企業に対しても提案が可能になる。品質が高く、デザイン性にも優れたVAIOを活用することで、従業員満足度を高めることができるほか、環境意識が高まる中で、Reborn VAIOを導入することでの新たな価値も提案。全社規模でVAIOを導入するといった商談にもつなげることができる。
また、個人向けにおいては、子ども向けのPCとして、Reborn VAIOを購入するといった例が出ており、最初のVAIOとして、Reborn VAIOを提案することもできると考えている。これにより、若年層の市場開拓および認知度向上にも貢献できると見ている。
「価格と性能バランスに敏感な若年層の間では、中古スマホの購入が広がっているように、Reborn VAIOが、若年層にVAIOが広がるきっかけになることも狙っている。これまでVAIOに手が届かなかった層へのアプローチも可能になる」(VAIOの糸岡取締役 執行役員常務)とする。
実は、VAIOの市場シェアはまだ低いものの、VAIO利用者を対象にした調査では、Windows PCとしては、最も高い顧客満足度を獲得している。言い換えれば、VAIOに触れてもらう機会を増やすことが、今後のシェア拡大の近道であることは間違いない。Reborn VAIOが、それに向けたドアオープナーとしての役割を果たす可能性もある。
来年度以降は、12型ディスプレイ搭載モデルなどにも、Reborn VAIOのラインアップを拡大する予定であるほか、親会社である家電量販店のノジマとの今後の連携も気になるところだ。
糸岡氏は、「Reborn VAIO は、VAIOの新たなサブブランドとして、VAIOのユーザー層を広げるきっかけになり、VAIOのイメージを高めていくことができる」と語る。
Reborn VAIOは、新たな市場を開拓するとともに、環境に配慮した企業であるという新たなイメージづくりにも貢献することになりそうだ。そして、VAIO全体の事業成長においても、重要な意味を持つ製品だといえる。