FLOWERS -Le volume sur automn- (秋篇) その2(まとめ)

春篇の感想はこちら、夏篇の感想はこちらから。

シナリオ

「……ねぇ考崎君。どうしても手に入れたいものが二つあったらどうする?」


秋篇では「停滞」と「変化」が一つのテーマになっている。
そのために用意されたのが、春篇でも一要素として取り上げられていた三角関係である。

本当は恋人になりたいけれど、今の親友という関係を崩してしまうのが怖くて、一歩が踏み出せない――
こんなのはどこにでもある話だ。

譲葉は、変わりたいけれど変わることが恐ろしかった。
ネリネは、変わることそのことを恐れていた。
だから二人はずっとこの距離のまま停滞し続けてきたのだ。

けれど、林檎が一歩を踏み出すことで、否応なしの変化が訪れる。
(林檎が変化を恐れなかったのは、決して彼女が勇気ある少女だったからではない。
 自分を変えられるきっかけを待ち望んでいたのだ)

すべてを受け入れてくれる林檎との優しい関係か、実らないかもしれないネリネへの初恋か――
選択を迫られたとき、千鳥は言うのだ。

「私は、どちらかを必ず選ばないといけないと為ったら迷いません。自分の心に従います」
「私の好きなあの子の言葉を借りるなら“誰にでも佳い顔なんて出来ない”ということだと思います」

「一歩を踏み出すのは誰でも怖い。でも、踏み出さなかったら、ずっと同じ場所でとどまってしまう――」
「それは選ぶ側も、選ばれる側も損なわれる行為ではないでしょうか?」


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こういったテーマのシナリオゆえに「停滞し続けている関係を、最終的に変化させる」というストーリーにせざるを得ない。
そのせいで物語に起伏が少なく、やや退屈気味だったかもしれない。
(もちろん様々なイベントは起きるが、ヒロインたちの関係性に大きな変化が起きない――という意味で)

ちなみに、豆腐メンタルな私的には、林檎エンドがお気に入りです。
年下女房は年上のように、年上女房は年下のように。
甘えさせてくれる林檎と、甘えっ子な譲葉のカップルは、とってもお似合いだと思うのです!

テキスト

シナリオライターは同じなので、基本は夏篇以前の評価に同じ。
今回、テキスト的に特筆すべき点は特になかったよーな気がします。

グラフィック・ムービー

とにかく譲葉とネリネは写真写りが良すぎるんだよなぁ。
そのせいもあって、OPムービーの出来がハンパないことになっている。
特に、曲名が出るところの二人の「虹の魔法」のCGと、アウトロの「天体観測」のCGのキラキラっぷりがヤバイ。

あとは、過去回想CGの使いかたが上手い。
最初のタイトルコールではネリネの騎士のように譲葉を置いておいて、サビに入ったところで「幼少期:譲葉の手を引くネリネ」を出し、そして「現在:ネリネの手を引く譲葉」を見せる。
もう完璧な物語性ですね!

立ち絵と一枚絵を基本としたスライドショー形式のOPムービーとしては、全ギャルゲーの中でも最高峰の出来と言っても過言ではないかもしれない。
というか、イノグレはいつもOPのクオリティが高すぎる。

音楽

OP曲はシンプルに名曲だけれど、その挿入歌としての使いかたが上手過ぎる。
作中では、この「虹の魔法」がオズの魔法使いの「虹の彼方に」に充てられて、二人の思い出の曲になっているのだ。
その二重唱のシーンも、単純にアレンジとしての完成度も高く、うーん、まりのさん結構歌上手いんじゃないですか! ねえ?

それ以外のED・BGM等はふつう。

声優・システム

こちらの評価も夏篇に準じます。

総評

「百合系」とは言うけれど、譲葉はボーイッシュなキャラクターなので、あんまり百合感は強くない。

ちなみに「ミステリィADV」要素の進展は、ほとんどなし。
「真実の女神」に通じる「アガペのタルパ」という七不思議が明らかになり、七つすべてが出揃う。
これがマユリ消失の鍵になっているらしいのだが……冬篇ってけっこうサスペンス要素強めなんですかね?

ところで、春篇での私は蘇芳ちゃんにベタ惚れしていたけれど、それは「主人公」としての彼女が好きだという話。
「ヒロイン」としてなら、CV:洲崎綾な千鳥ちゃんがナンバーワンなのです。
そして、えりかちゃんもかなり上位なお気に入り。
なので、まるでアフターストーリーみたく「ちど×えり」の出番の多い今作は、もーたまらないですって!
(それにしてもチドリンはちょっと丸くなりすぎ感はあるけど!?)
(完全に恋する乙女なんですよねぇ……)

私の評価は、★4・佳作入選。
シナリオ的には良作の域を出ていないが、グラフィック・音楽・ムービー等のビジュアル面が秀逸。
批評空間ベースでは、80点です。
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