FLOWERS -Le volume sur printemps- (春篇) その2(まとめ)

シナリオ

「百合系ミステリィADV」と銘打たれているものの、中身は、やれば出来る系主人公の成長譚。
もちろん、女の子たちの百合百合しい距離感も、見どころの一つ。
詳しいレビューは、記事その1を参照されたし。

「マリア様がみてる」から影響を受けているような部分も散見されるが、ただの二番煎じではない。
もっと繊細な「自分探し」がテーマとなっている。

しかし、冷静になってみると、私たちは「自分らしさ」などという台詞をキーワードに、いつでも居場所を探している気がする。
その頻度は恋をするくらい高いようにも思える。
ひょっとしたら、だから恋をするのかもしれない。

テキスト

読み物としてのクオリティは十分満たしている。
漢字の使いかたに代表される、グラフィックにマッチした透明度の高い綺麗なテキストで作られている。

その文章自体にさほど意味のない、装飾的なテキストが多いのも特徴。
「文章力」という観点で採点したときの評価はわからないけれど、それが作品の雰囲気作りに大きく貢献しているのはたしか。
(そういう意味では、奈良原一鉄のような個性があると言えるのかもしれない)

ただ、選択肢はちょっと意味不明気味。

グラフィック

さすがイノグレ、さすがスギナミキと言いたい。
殻ノ少女シリーズのときはちょっとダークな雰囲気の絵が多かったけれど、今回はもっと明るくて優しい絵が多い。
はじめて図書室に入ったときの蘇芳ちゃんを見ていると、なるほど、一枚何十万とかの萌え版画を買っちゃう人の気持ちがわかる気すらしてくる。
グラフィック面では、間違いなくギャルゲー界最高峰の一角。

個人的にお気に入りなのは、聖アングレカム学院の制服。
ワンピースのセーラー服に、ベルト代わりにリボンを結ぶデザインだと思うのだけれど、これが妙にロリロリしい。
生地がずいぶん柔らかそうなせいか、スモックのようにも見えますね!?

声優

どうしてこんなところにまりのさんが!? とは思うけれど、全体的にナイスキャスト。
特に、やっぱり蘇芳ちゃん。
この控えめで優しい声で囁かれると、もー蕩けちゃいそうです。

苺と林檎の声優さんが一緒っていうのも、にわかには信じがたいところ。

音楽・ムービー

BGMやボーカル曲を単体で取り上げたときのクオリティは、中の上~上の下くらい。
つまり、「ふつーにいい」レベル。

ただ、この作品の雰囲気作りには二役か三役くらい買っている。
縁の下の力持ち、ってやつかな。

そして、OPムービーにはこのゲームの魅力が濃縮されている。
イノグレ作品はいつもそうだけれど、こういう一点に作品の雰囲気を凝縮して投影するのが上手なんだよなぁ。

システム

必要十分。
バックログがマウスでスクロールできないのが、ちょっと残念。
(ウィンドウモードが使えなくなってしまったのは、たぶん私の環境のせい?)

イノグレ作品では、キャラクター別音量調整は必ずしようね!

総評

ミステリィ風味の百合系日常ADV。
気になったなら、まずはOPを見てみよう。
そこで感じた雰囲気は、ゲームの中に広がる世界とまったく同じものだ。

また、作品を構成している要素すべてが「透明感」という統一性を持って、作品の雰囲気作りに寄与しているのは、特筆すべき点だと思う。
まったくブレがない、いわゆる「一貫性がある」というやつ。
こういった個性とセンスはなかなか持てるものじゃない。

大人数が関わって完成する作品にそこまできちんとした芯が通っているということは、それほど「作り込まれている」と言える。
その点のみでも評価されるべきだと思うし、さらに、その個性が私の好みにとても合っているのだ。

また、このゲームが18禁じゃないのも重要な点。
「マリみて」とは違って、このゲームでは女の子同士でキスするし、たぶんそれ以上もしてる。
(蘇芳ちゃんとマユリちゃんは図書室でマリア様に見せちゃいけないことをしたよ! 私はそう信じている)

もちろん、そういった18禁要素が一枚絵付きで描写されたならそれは至福の時だろうが、そうして作品がR18指定になった瞬間、すべての個別ルートでえっちなことをしなくちゃいけない義務が発生する。
それは、彼女たちの純粋さを大きく損なうことになる。
(男の子はエッチしたいから恋をするけれど、女の子は恋をしたからエッチをするのです!)

つまり、このゲームは全年齢レーティングだからこそ、透き通る輝きを放っているのだ。
FLOWERS・春篇、傑作評価・★4。
批評空間ベースでは、83点です。
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