集中治療室。
朦朧としているけど、意識はちゃんとある。 肺に水が溜まってるから横になれない。 45度ぐらい斜めになってる体の向きを変えてくれる。 定期的にかえないと床ずれするから。 でも、すでにどっちかのお尻が痛いという感覚もなかった。
数人きて「せーの」で変えてくれるけど、せっかく寝てるのに… と、こっちはつらい。眠っていることが辛さから逃れられるし時間が経過できる。
自分がどうなってるかもわからない。 みるのも怖い。怖いから触らない。
肺まで届く青い管が口にはいってるけど、痰がたまるとよくないのでズズズーーーーーと機械で吸い取ってる。 それが苦しい。 おえーーーーとなってまた体力が失われる。
青い口から入れる酸素の管は、二日目に鼻から入るものでレベル3。 3Lを1分間に入れる。そうしないと呼吸ができない。 それは口に入れた食べ物が外に出てしまう勢。 どうやってものを食べるのか。
いっときは、戦闘機パイロットのようなゴムで口も鼻も覆う呼吸器になって口に力を入れておかないと唇がばーーーーーとなってコントになる。
その苦しさ、乾燥、は病人の体力をよけいに奪う。 よかれと思ってあの機械をどこからかゴロゴロわざわざ用意してきたあの看護師さん。ごめんね。
「ムリ。つらくて死にそーーだから却下」
口から食べ物が吹っ飛ぶあれからよくみる緑色の鼻も口も覆うもの。
あらゆる酸素呼吸器を知った
最後は壁から出てるあれ。 あれが一番楽。 チューブは柔らか。
鼻に入れてレベルをかえられるの。 転院先では自分で横になるときにセットしてレベル1.5とかにしてた。 最後はレベル1。 赤い小さいボールが1のところで浮いてる。
集中治療室では 「咳をするときは、胸を押さえてくださいね」 やべーーー 身体をどう切ってどんなことが行われたのか全く知らされなかった。でも骨切ったからもろいから押さえろという指示は理解できた。 やべーんだな、ってことはわかった。
見えるのは天井と中央にあるナースたちのステーション。 どこからでも病床が見える。 明るくしているのは暗いと患者が暗くなるからかな、と。 昼夜もわからなかった。
どん底だった。
周りの音も聞こえる。 医師や看護師たちの声も聞こえる。 考えると頭おかしくなるので、目をあけて気を紛らわせたり。
よくドラマでリストカットする動脈、そこに点滴が入っている。 触らないように骨折のギブスように固められ、両腕は拘束されてた。 鏡でそっと見たら首にも針がささってなにか点滴されている。 首にささってるって…滅多に経験できないから。
動いて大事な針だのが抜けないように、抜かないように。 それには家族の同意書がいる。
両手の拘束はきちんと意思疎通ができるようになったらすぐはずれた。 隣のじいさんは、暴れまわったので最後は拘束された。 家族が呼び出されてすったもんだ。
「立ちましょうか?」
「はあ?」
動くのも難儀なのに立てだと?
体重を測るらしい。3人ぐらいに支えられて一瞬立つ。
「げげーーーーなんでこんな増えてるのよーー」
「ああ、手術したら普通増えます。7キロから10キロ。 10L輸血したからこんなものでしょう」
体内の水分らしい。 点滴の袋がいくつつながってるか知らんが、ホースだらけ。 腹からもホースって… 滅多ないぞ。
業界ではこういうのをスパゲティというとか。 リハビリ師さんからきいた。 酸素量、心電図。 この二つはだんだんリモートになってきて、線でつながれなくても腰にそれらの電波を出す機械をつけていればよくなった。 だが、これがやたら重かった。
古い友人の娘さんが集中治療室のナースになって若い子に指示してた。 顔がそっくりだったから声をかけたらそうだって。
身体を拭いてお尻も洗ってもらってすでに「恥ずかしい」の段階は超えていた。
世間話しをちょいとできるぐらいになってて…
「そうそう、今日のニュース… 俳優の、…なんっていったっけ、かっこいいの、まだ若いのに自殺したんだって」
「だれ?何をした?」
あれこれあれこれ…
「三浦春馬でしょ。最低の映画進撃の巨人のエレン役やったの」
マイナーなのを口にしてしまったけど、集中治療室の看護師さんたちは知っていた。
とにかく状況は痛い、つらい、苦しい、身の置き所がない。力が出ない。 復活できる未来が見えない。 精神が破壊されるのかもしれないと。
でもね…
物理的にとりあえず生きる道はあるのに…精神的に道がなかったのだろうかね。 集中治療室で必死で生きようとしているわたしとは違ったのだろう。
わたしは、生きようと思ったよ。 つらいけど、こんなの永遠に続くわけない。
絶対に復活してやる。
三途の河など見なかった。 あの世の父が「おいで」も、「こっちくんな」とも言わなかった。
とにかく生きて、FF7リメイクの続きをするんだ。
まーーーだ死ぬわけにはいかない。 残っている母親二人の葬式も出さねばならない。 先に自分の葬式を出させてたまるか。
集中治療室から出て回復室に移動したときには、夫と息子がいた。 「あれ?(休暇中の息子は戻るはずだった)もどらなかったの?」
事情を話して休暇を伸ばしてもらったとか。 二人とも笑ってたからとりあえず生きていけるんだろうとわかった。
スリープにしてきたパソコンや、その周りも片付けてない。 こんなのを、他者に見られてたまるか。
絶対に帰って片付けするんだ。 病院で出されるご飯も黙々と食べた。 足がウジュル病になって傷口からジュルジュル汁が出てきてもリハビリした。 ナースが手当てしてくれるガーゼもすぐウジュルウジュル。
湿潤液と正式にいうけど、通称「しる」。 「しる、たれ?」 「たれじゃないですね〜」って言われた。 しるとたれは内輪のネタ。
リハビリの若い人や看護師さんたちに、ホワイトプロパガンダをしながら、絶対シャバに戻るぞ、と。
欲望の塊のわたしは、どんぞこから復活をしてきた。 死亡率は25%だそう。 4人に一人は死ぬ。
誰かが「アレイズ」かけててくれてたのか。 HP「1」で生き残るような魔法があったのか。 マジで日赤の医師の腕がよかったのか。
まだ、最高HPが元に戻らず雑魚戦にも苦労しているけど。
自分の命を今日も絶った女優がいる。
いろいろあるんだろうな、と思うけど、とりあえず生きてみなよって。
わたしの今年の目標はさしより「生きること」。
周り、迷惑かかることすら頭にないから「自殺したい病」という病気だったんだろう。 わたしの古い友人はガソリンスタンドで灯油を買って周りになにもないところで車の中で焼身自殺した。 子を3人残して。
冷静なのかおかしくなってたのかいまだ、わからない。
わたしは放置してきた家のことやいろんなことがあるから「こいつは簡単に死ねないぞ」って。冷静。
それは仕方のない人間の病。
そういう人もいれば、
「生きて、生きて、生き抜いてやる」
と、ごうつくなわたしのような人間もいるってこと。
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