習近平中国国家主席の国賓としての招待は、日本を廃墟に導きかねない
(1)習近平国家主席の国賓招待への賛否
日本政府による中国の習近平国家主席国の国賓としての招待が実質的に決定されたのは、今年6月の20カ国・地域(G20)首脳会議(サミット)の時である。
安倍晋三首相は2019年6月27日、G20首脳会議(サミット)出席のため来日した中国の習近平国家主席と会談し、来春に国賓として再来日するよう求めた。習氏は「温かいご招待に感謝する」と応じる考えを示した。ここがスタートである。これを受けて、来春(2020年春)の来日に向けて準備が着々と進んでいるはずである。
しかし最近、習近平国家主席の国賓としての招待に対して多くの反対の声が上がってきている。当然である。香港の民主化デモでは、11月18日ついに香港理工大学に警察が突入し、多くの学生を拘束逮捕するにいたった。天安門事件の時と同じく、高圧的な弾圧による事態収拾を選択したのである。由々しき事態である。
日本政府内外でも懸念の声が相次いでいる。佐藤正久前外務副大臣は、① 香港問題 ② 北大の教授が拘束されている問題(2019年11月15日解放) ③ 尖閣問題 ④ 日本食品の輸入規制問題 の「4つのトゲを抜かないと、国賓というわけにはいかない」と断言されている。11月13日には、自民党議員約40名(「日本の尊厳と国益を護〈まも〉る会」代表幹事・ 青山繁晴参院議員)が、中国の習近平国家主席の来春の国賓来日に反対する決議を行った。
習近平国家主席指導下の中国は、このほかにも新疆ウィグル自治区でのウィグル族への弾圧、チベット問題、南シナ海領有など多くの強圧的な内政、外交の問題が山積している。
11月24日の香港の区議会(地方議会)選挙では民主派が(452議席のうち385議席獲得)圧勝して、香港政府による弾圧が支持されていないことが明白になった。
これを受け、菅義偉官房長官は26日の記者会見で「昨今の香港情勢を大変憂慮している。来春の習主席訪日を見据え、引き続き主張すべき点はしっかり主張していきたい」と表明。安倍晋三首相も25日、中国の王毅国務委員兼外相との会談で「引き続き一国二制度の下、自由で開かれた香港が繁栄していくことが重要だ」とくぎを刺した。(2019/11/27時事)。しかし、習近平国家主席の国賓としての来日については一言も触れられていない。
(2)中国の日本の天皇の政治利用の過去
国賓として習近平国家主席が来日することがそれほど大きな問題なのかといぶかしがる人もいるだろう。しかし相手が中国となると、そんなのんきなことを言ってはいられない。中国には、日本の天皇を政治利用して苦境を脱した過去があるのである。
国際ジャーナリストの北野幸伯氏は、次のように中国が日本の天皇を利用して国際的に孤立した中国を蘇らせた歴史を語られている。(詳しくは、下記webを参照してください。)
・1989年、中国は天安門事件で国際的に孤立した。
・中国は、ナイーブな日本政府に接近する。
・1992年、天皇皇后両陛下(当時)が訪中された。
・日本が中国市場を独占することを恐れた欧米は態度を軟化。中国の「天皇利用作戦」は成功した。
・天皇陛下を利用して包囲網を突破した中国は、「日本悪魔化工作」を開始。
・日本は、米中「共通の敵」にされてしまい、日米関係は悪化。
・逆に米中関係は、大いに改善された。
1988年から10年間外交部長(外務大臣)を務めた銭其シンは、その回顧録の中で、天皇訪中が西側諸国による対中制裁の突破口であったことを明かしている。
https://diamond.jp/articles/-/221300?page=2
(3)トランプ大統領の対応と日本の未来-日米同盟が日本の命綱
米国議会は、香港に高度の自治を認めた「一国二制度」が守られているかどうか毎年検証することを義務付ける香港人権・民主主義法案を上下両院において全会一致で可決した。11月27日には米中通商協議中のトランプ大統領も、「私は習近平国家主席と中国、香港市民に敬意を表して法案に署名した。中国と香港の指導者や代表者が対立を友好的に解消し、長期的な平和と繁栄をもたらすよう期待する」と述べて本法案および香港に対する非致死性武器の禁輸法案に署名し、法案が成立した。世界は、香港の人権・民主主義を支持することを明確にしている。
このような中で、日本政府が習近平国家主席を国賓として招くことは、天安門事件後の中国の苦境脱出の日本の天皇利用戦略に再びやられるだけである。その後の展開が見えないのであろうか。習近平国家主席の国賓として招待は、全世界に日本の元首である天皇と中国の国家主席が和合したとみえる映像を配信して、日本は中国の現政権の人権弾圧を容認したというイメージを拡散することになる。日本は、中国の現政権の友人であるとみられかねない。これを見て、世界の国の中には中国との外交関係を見直す機運が生まれるであろう。(現在でも、台湾との外交関係を断って中国との外交関係樹立に転向する国が後を絶たないことに留意しなければいけない。) 中国は、苦境の中から再び息を吹き返すことになる。
日本の同盟国である米国はこの事態を苦々しく思い、GSOMIA破棄に対して韓国に圧力をかけたように日本に対して圧力をかけてくるに違いない。その手始めは、日米通商交渉における自動車関税最大25%の追加関税である。そうなると、日本は一気に大不況になるであろう。中国は中国で、これ幸いと米国と通商交渉を妥結させ、悪者を日本にしてしまうであろう。日本は孤立しかねないのである。
私が主張している40年周期説によると、現在は第二次世界大戦の勃発前であり、判断を誤ると、日本は再び国際的に孤立して経済苦境に陥る。80年前の敗戦、40年前のバブル崩壊と同じように廃墟になりかねないのである。小さな選択であってもそれが国運を大きく左右する。日本は日米の同盟関係が命綱であることを肝に銘じるべきである。