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2012/12/19

 米長邦雄さん。大きい人だった。

 米長邦雄さんが亡くなった。何度かお目にかかって、その大きなお人柄に感銘を受けていただけに、早すぎる死が悼まれる。

 本当に、大きい人だった。

 ご自身が、コンピュータの将棋ソフトと対戦され、また将棋連盟会長として、棋士と将棋の棋戦を仕掛けるなど、新しい時代における将棋のあり方を考え抜かれた方だった。

 米長さんのことで、どうしても書いておきたいことがある。

 あれは十年くらい前だったか。対談させていただく機会があった。その際、米長さんに、将棋は男性と女性の棋戦が別で、女性棋士はなかなか男性に勝てないけれども、そのことについてどうお考えですか、とご質問した。

 その時の米長さんの答に、私は大変深い感銘を受け、今でも忘れることができない。

 米長さんはきっぱりと言われた。

 「私は、男性と女性で、将棋の能力に差があるとは思っていません。将来、必ず、女性で男性と闘って名人位をとる人が出てくると思います。問題は、女性の棋士がまだ少ないことと、世間の女流棋士の扱い方にあるのではないでしょうか。私の弟子の○○は、大変才能があって、私も期待していましたが、彼女がまだ十代の時、ある会社の社長と対談する仕事があって、そのギャラがとても高額だった。その仕事は、彼女の棋士としての才能よりも、美貌に注目したものであることは明らかだった。私は、その仕事を受けるのならば、私の弟子をやめるつもりで受けなさい、と言った。彼女は、その仕事を受けました。もし、彼女があのまま精進していたら、名人になっていたと思います。」

 世間で、男女の脳の差がどうだとか安易に決めつける風潮がある中で、米長邦雄さんはなんと大きく、そして厳しい方だったことだろう。

 稀代の棋士、そして人間であった米長邦雄さんの死を悼み、ここに心からご冥福をお祈りいたします。

2012年12月19日 茂木健一郎

12月 19, 2012 at 09:31 午前 |