とある魔術の禁書目録 二次創作 32
第八階層から爆弾の設置をしながら上を目指し、これで三つめのフロアに入った。第五階層、やっと半分を超えたところだ。ガラスではなく白い壁に仕切られ、部屋の中は見えなくなっている。
「第五階層は開発及び総合警備室のフロアです、とミサカは説明します。開発室では薬剤の投与や電極の使用、催眠による覚醒の誘発など、学園都市と同じ能力開発が行われています、とミサカは懇切丁寧に説明します」
「学園都市から盗み出した情報の集大成ってとこか」
やっと半分を超えたこととは関係なく、なんとなく心が落ち着いてきた気がする。学園都市と同じことが行われているフロア。『絶対能力進化計画』というおぞましいものも目の当たりにしたことはあるが、自分が受けていたものと同じ能力開発が行われている場所にいることを知ると、地上へと着実に近付いていることが実感できたからだ。
何より、ここから下のフロアから出られたことが、まるで胸が浮いたかのような気分にさせた。あの場所を二度と目にしたくはないと、そう上条に思わせた。自分が知っていた現実からはるかに乖離した現実が広がっているのをその場の空気から感じてしまうのだ。
目の前の扉をすぐさま開けてみたい衝動に駆られる。きっと自分が学園都市で何度も見たことのある機器が鎮座しているだろう。
「気分が優れませんか?とミサカは顔をのぞき込みます」
考えていたことが顔に出てしまったのだろう。ミサカは逆に捉えてしまったようだが、上条は先へと歩きながら正直に答えることにした。
「いや、むしろやっと気分が優れてきたとこですよ上条さんは。下のフロアにはあんまり長居したくなかったからな」
「訓練用フロアですか?とミサカは確認します」
第六階層は訓練用のフロアで、スポーツジムにあるような機具の他に広い範囲をレスリングで使うようなマットが占めていた。壁には所狭しとナイフや訓練用のあらゆる武器が並んでいた。アーネンエルベの子供たちはあの場所で効率的な人間の殺し方を学んでいたということだ。
「それもだけど、その更に下のだな。なんだか気が滅入っちまったよ」
二人はそんなことを話しながら、この階層の中心部分に辿り着いた。エレベーターや階段はむき出しではなく、重い扉の向こうにある。
「扉を開きます。少し下がっていて下さい、とミサカは命じます」
上条がミサカの背後に控えると、ミサカは扉の取っ手に手を掛け僅かに開いた。アサルトライフルは破壊されてしまったので今は素手と電撃だけが武器だ。
ゴーグルごしに目を光らせ、扉の隙間からミサカは中を窺った。
「誰もいないようです。中に入りましょう、とミサカは促します」
暗く広い空間の中心にはおなじみのエレベーターと階段があり、壁には数えきれない程のモニターが鈍い光を放っていた。
「総合警備室です、とミサカは説明します」
研究所全体をここから監視しているのだろう。
ミサカは隅に空になったバッグを置き、上条に向き直った。
「先程も説明しましたが、」
「あぁ、ここで別れるんだよな?」
「はい、ミサカはこの研究所が完全に制圧されるまで待機していなければなりません、とミサカは二度目の説明をします」
上条が護衛を伴って移動できるのはこの第五階層までだ。予定ではすでに学園都市からの部隊が控えているはずだったのだが。
ミサカは素早く数々のモニターに目を走らせてから口を開いた。
「上層に敵の姿は見られません。おそらく安全かとは思いますが、とミサカは懸念します」
「そういえば今までどの階層でも研究員も警備員も見なかったよな?いたのはあの超能力者だけだ。他の連中はどうしたんだ?」
「三、ないし二つ置きにいくつかの階層には脱出経路が設けられていることが分かっています。研究所を捨てて逃げたのでしょう、とミサカは推測します」
「逃げた?随分薄情な職員だな…」
「いえ、元から緊急時のマニュアルとして逃亡を優先、と決められていました。警備員も先程の超能力者も、防衛よりも時間稼ぎの面が強いのでしょう、とミサカは懇切丁寧に解説します」
人に見せられない研究を行うような、存在自体が秘匿されている研究所だ。籠城するよりもさっさと逃げて再びどこかで立ち上げた方が効率的と考えたのか。
「ところで、お一人でも大丈夫ですか?とミサカは一応確認してみます」
「敵がいないなら多分大丈夫じゃないか?銃で襲われたらどうしようもないだろうけど」
「なぜわざわざ死亡フラグをぶち上げたんでしょうか?とミサカの不安が留まることを知りません」
「うっ、そう言われるとなんか大丈夫じゃなさそうな気が…いや、どっちにしろミサカはここで待機してなきゃならないんだろ?一人で上を目指すよ」
本音を言えば不安でたまらない。いかにモニターに映ってはいないとは言え、ここが敵陣であることには変わりない。しかしミサカにはミサカの役目がある。今まで護衛をしてもらったのだからこれ以上甘えるのも癪だ。男として。
「そうですか。ではお気を付けて、なるべく早く地上に出て下さい、とミサカは見送ります」
「あぁ。ミサカも気を付けろよ」
そう言うと上条は先程入ってきた扉とはエレベーターを挟んで向かいにある扉から警備室を速足で後にした。
「本当に、無事に上に辿り着ければ良いのですが、とミサカは憂います」
直後、上条達が入ってきた方の扉が再び開いた。
「…クローンか」
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随分と遅くなってしまいましたが久しぶりのSS更新です。
お待たせということで若干長めに書きました。
話が進んだわけではないけれど。
ついでにぶっちゃけると書き溜めの方もあんまり進んだとも言い難いのですが。
まぁ休み休み進めようと思っております。
ここで上条さんとミサカ10840号は二手に分かれます。
さぁこの先待ちうける試練は?
「第五階層は開発及び総合警備室のフロアです、とミサカは説明します。開発室では薬剤の投与や電極の使用、催眠による覚醒の誘発など、学園都市と同じ能力開発が行われています、とミサカは懇切丁寧に説明します」
「学園都市から盗み出した情報の集大成ってとこか」
やっと半分を超えたこととは関係なく、なんとなく心が落ち着いてきた気がする。学園都市と同じことが行われているフロア。『絶対能力進化計画』というおぞましいものも目の当たりにしたことはあるが、自分が受けていたものと同じ能力開発が行われている場所にいることを知ると、地上へと着実に近付いていることが実感できたからだ。
何より、ここから下のフロアから出られたことが、まるで胸が浮いたかのような気分にさせた。あの場所を二度と目にしたくはないと、そう上条に思わせた。自分が知っていた現実からはるかに乖離した現実が広がっているのをその場の空気から感じてしまうのだ。
目の前の扉をすぐさま開けてみたい衝動に駆られる。きっと自分が学園都市で何度も見たことのある機器が鎮座しているだろう。
「気分が優れませんか?とミサカは顔をのぞき込みます」
考えていたことが顔に出てしまったのだろう。ミサカは逆に捉えてしまったようだが、上条は先へと歩きながら正直に答えることにした。
「いや、むしろやっと気分が優れてきたとこですよ上条さんは。下のフロアにはあんまり長居したくなかったからな」
「訓練用フロアですか?とミサカは確認します」
第六階層は訓練用のフロアで、スポーツジムにあるような機具の他に広い範囲をレスリングで使うようなマットが占めていた。壁には所狭しとナイフや訓練用のあらゆる武器が並んでいた。アーネンエルベの子供たちはあの場所で効率的な人間の殺し方を学んでいたということだ。
「それもだけど、その更に下のだな。なんだか気が滅入っちまったよ」
二人はそんなことを話しながら、この階層の中心部分に辿り着いた。エレベーターや階段はむき出しではなく、重い扉の向こうにある。
「扉を開きます。少し下がっていて下さい、とミサカは命じます」
上条がミサカの背後に控えると、ミサカは扉の取っ手に手を掛け僅かに開いた。アサルトライフルは破壊されてしまったので今は素手と電撃だけが武器だ。
ゴーグルごしに目を光らせ、扉の隙間からミサカは中を窺った。
「誰もいないようです。中に入りましょう、とミサカは促します」
暗く広い空間の中心にはおなじみのエレベーターと階段があり、壁には数えきれない程のモニターが鈍い光を放っていた。
「総合警備室です、とミサカは説明します」
研究所全体をここから監視しているのだろう。
ミサカは隅に空になったバッグを置き、上条に向き直った。
「先程も説明しましたが、」
「あぁ、ここで別れるんだよな?」
「はい、ミサカはこの研究所が完全に制圧されるまで待機していなければなりません、とミサカは二度目の説明をします」
上条が護衛を伴って移動できるのはこの第五階層までだ。予定ではすでに学園都市からの部隊が控えているはずだったのだが。
ミサカは素早く数々のモニターに目を走らせてから口を開いた。
「上層に敵の姿は見られません。おそらく安全かとは思いますが、とミサカは懸念します」
「そういえば今までどの階層でも研究員も警備員も見なかったよな?いたのはあの超能力者だけだ。他の連中はどうしたんだ?」
「三、ないし二つ置きにいくつかの階層には脱出経路が設けられていることが分かっています。研究所を捨てて逃げたのでしょう、とミサカは推測します」
「逃げた?随分薄情な職員だな…」
「いえ、元から緊急時のマニュアルとして逃亡を優先、と決められていました。警備員も先程の超能力者も、防衛よりも時間稼ぎの面が強いのでしょう、とミサカは懇切丁寧に解説します」
人に見せられない研究を行うような、存在自体が秘匿されている研究所だ。籠城するよりもさっさと逃げて再びどこかで立ち上げた方が効率的と考えたのか。
「ところで、お一人でも大丈夫ですか?とミサカは一応確認してみます」
「敵がいないなら多分大丈夫じゃないか?銃で襲われたらどうしようもないだろうけど」
「なぜわざわざ死亡フラグをぶち上げたんでしょうか?とミサカの不安が留まることを知りません」
「うっ、そう言われるとなんか大丈夫じゃなさそうな気が…いや、どっちにしろミサカはここで待機してなきゃならないんだろ?一人で上を目指すよ」
本音を言えば不安でたまらない。いかにモニターに映ってはいないとは言え、ここが敵陣であることには変わりない。しかしミサカにはミサカの役目がある。今まで護衛をしてもらったのだからこれ以上甘えるのも癪だ。男として。
「そうですか。ではお気を付けて、なるべく早く地上に出て下さい、とミサカは見送ります」
「あぁ。ミサカも気を付けろよ」
そう言うと上条は先程入ってきた扉とはエレベーターを挟んで向かいにある扉から警備室を速足で後にした。
「本当に、無事に上に辿り着ければ良いのですが、とミサカは憂います」
直後、上条達が入ってきた方の扉が再び開いた。
「…クローンか」
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随分と遅くなってしまいましたが久しぶりのSS更新です。
お待たせということで若干長めに書きました。
話が進んだわけではないけれど。
ついでにぶっちゃけると書き溜めの方もあんまり進んだとも言い難いのですが。
まぁ休み休み進めようと思っております。
ここで上条さんとミサカ10840号は二手に分かれます。
さぁこの先待ちうける試練は?