福島第一排気筒問題で一部作業員、偽科学関係者が振りまいた安全神話
最近、おしどりマコ氏がダイヤモンドオンライン記事「まったく報じられない「排気筒問題」と2号機「大惨事」の危険性」や大阪大学の講演で福島第一原発排気筒の倒壊懸念について発言し、菊池誠、竜田一人他、原発推進を標榜する宣伝屋のような一部原発関係者等が嘲笑の的にする事件が続いている(「イチエフ排気筒の話」ほか)。
もしこれが私に関することでしたら、もちろんこの資料は当時すべて調べております。そして東電資料だけでなく、規制庁やIRIDなど様々なところに取材に行っております。当時、この耐震安全評価の前提に大きなリスクがあることなど指摘されていました。 @TatsutaKazuto
— おしどり♀マコリーヌ (@makomelo) 2016年2月18日
【1】劣化しないという安全神話
残念ながら、震災前どころか建設時の材質強度を維持している前提で書かれているのは、東電資料の方なのだが。この人、大丈夫だろうか?@kitamurakenji 「本当はもっと酷いはずだ!震災前の写真を使っているんだ!」と言い出しても驚きません。
— あさくらトンコツ(仮) (@arthurclaris) 2016年2月17日
この件で、コロラド氏が先行ツイートしているが、煙突はメンテナンス需要があるので、ネットで確認可能だけでも複数の企業がサイトでPRしている。劣化を放置するとどうなるかも掲載されているので見てみよう。続)そして、健全と判断した部材は新設時相当の強度を維持しているという前提で評価し、弾性限界に対して0.981 倍、全塑性モーメントに対して 1.3 倍の強度が維持されていると仮定している。 @TatsutaKazuto
— おしどり♀マコリーヌ (@makomelo) 2016年2月18日
鉄塔支持型煙突の損傷例(ツカサテック)
次もツカサテックの写真だが、もっと興味深い。
ツカサテックの写真は福島第一と同時期、同規模の鋼製煙突が載っており、比較に最適である。
【2】目視検査だけで十分だという安全神話
このツイートに限らないが、煙突メンテナンス業者の挙げている検査項目を見る限り、目視だけで十分であるかのような発言は完全な虚偽である。高線量で近付くことができないのはスタックの南東側脚部だけです。構造材を遠くから望遠で撮影したのは、下から見上げても角度上、損傷部位が見えないから。
実際、南東以外の他の3本の脚部はスタックすぐ脇の道路上から撮影し点検しています。
https://t.co/wS8nskFtz0— あさくらトンコツ(仮) (@arthurclaris) 2016年2月17日
放射線問題が無ければ肉厚測定は人の手で行う。下記の業者の紹介には「高層工作物の為、肉眼では不具合な箇所の発見が困難なので合理的な維持・管理が特に必要です。又、点検により基礎データを収集し、一歩先んじた補修計画がより安全であり、且つ経済的です。 」と書かれている。
この板厚測定器、原理は超音波を使う。ちょっと検索すれば測定器メーカーサイトで売られている。現状が続く限り防食塗装は不可能なのだから、板厚は今後ますます問題になる。現時点だけを見て「使わない理由」を並べ立てる強弁(むしろ、必要性は増していると考えるのが妥当だろう)が、如何にピントのずれた、事実上の安全神話であるかが分かる。このような「作業員」の「現場感覚」に基づいた下らない放言は、無視しなければならないだろう。
「点検・調査」日本鉄筋コンクリート工業
原発作業員を称するあさくら氏の発言の場合はそれだけではない。近づける残り3本も補修工事したとは一言も書いてない点がポイントである。近づけるなら何故修理しないのだろうか。
上記は少しも誇張的な表現が無い。あさくらトンコツに強がりを吹きこまれた11人の部下が可哀想だ。なお、コロラド氏が指摘していた打音検査も一般の煙突検査で使用されている。例の排気筒だが、最低限、ペンキの塗り替えとサビ落としをしないと、損傷していなくても10年20年という時間で崩壊するよ。
その場合、他の建家に影響があるか否かは別として、膨大な量の放射能粉塵が舞って、プリュームを形成し、かなりの遠隔地まで汚染する。— LN BB-45 (@BB45_Colorado) 2016年2月18日
福島第一第二の下請け企業は東電の働き掛けで福島原子力企業協議会を作っているが、その傘下には250社程度の会員企業がいる。当然、いい加減な放言をする「作業員」を管理出来ない職場もあるだろう。壊れてる高経年の物にお墨付きを与えること自体、一般産業でも異常なことなんだけどね。
「煙突の点検調査」大正鉄筋コンクリート株式会社
一連の議論で一番得心した部分がここである。調べ物を始めたばかりの人が良く陥る罠として「欲しい情報は誰かが整った文書として持って来てくれると勘違いしている」とか「すぐ総花的に取り掛かる」というものがある。今回、推進派が嵌ったパターンがこれらとなる。私が排気筒の情報をお持ちの作業員の方を探しあてるまで、どれだけの時間をかけたか、全然話を聞いてくださってなかったのだな、と残念です。私は原発作業員の方が、原発のことを全てわかっているとは全く思っていません。 @kikumaco
— おしどり♀マコリーヌ (@makomelo) 2016, 2月 19
【3】修理・補強など不要であるという安全神話
竜田一人は軽率なことに東電の排気筒の報告書を盲信しているが、震災前に次のような例があった。
例えば浜岡だと、こんなことをして排気筒を改修していたりする。
JFE 技報 No. 25
(2010 年 2 月)p. 60–65
浜岡原子力発電所3・4&5号機
排気筒耐震裕度向上のための設計と施工https://t.co/Wo7MpyCkP2— LN BB-45 (@BB45_Colorado) 2016, 2月 23
浜岡が基準地震動1000Galを採用した時、排気筒が不適合になったため、このような補強が行われ見た目も変わった。要するにそれまでの耐震性にダメ出しということである。
福島第一でもこういった経緯はあった。建設時、排気筒の重要度分類はかつての区分でAクラスで設計の前提となる地震動は S1(現行基準Sdに相当)と呼ばれるもので、一般的な対外説明で使われていた基準地震動S2(現行基準Ssに相当)の3分の2しかなかった。
具体的には、S1は180Galであった。この値は、東北地方太平洋沖地震で1号機地下で観測された約440Galの4割以下である。排気筒の先端部は揺れの大きさは何倍にも増幅するので、部材の一部が折損したのは当然である。
また、福島第二の排気筒は震災発生時点で補強工事中だったが、一連の議論では何故か無視された。震災前の2006年、新しい耐震指針の元、福島でも基準地震動は再評価で引き上がったため、補強が必要となった。しかし、東電の工事は浜岡より数年遅れだった。よく対策の遅れで使われる「背景」として、中越沖地震で柏崎刈羽が全機停止し、浜通りの原発依存が強まったことが挙げられるが、浜岡と福島第二は運転しながら補強をしていたので、無関係である。
なお、排気筒の文書が出た後福島第一の基準地震動は900Galまで引き上げられているので、東電文書は内容的に古いものとなった。浜岡の1000Galに近いが、技報には次のような一文があるのは気になるところだ。
いずれにせよ、あさくらトンコツは11人の部下を連れて浜岡原発か煙突補修業者の事務所に行き、「お前等は放射脳、やってること、無駄(笑)」と笑いものにしてくれば良いのではないか。なお、福島第二の排気筒は、三菱系の重工工事が建設したと記憶している。下記のように、三菱も煙突の改修補強に関して提案営業をしているので、福島第一と違って補強工事着工するだけの根拠を提出するなどの結果に、漕ぎ着けたのかも知れない。
私は現役の原発建屋設計者に取材した際、浜岡活断層問題を解決できる見込みがないとの証言を得たこともあり、廃炉すべきと考えているが、この種の部分的な努力を全く評価しない訳でもない。
「煙突メンテナンス」三菱メカトロシステムズ
【4】塩害を警戒する電力会社
電力会社は元々、沿岸に発電所を持つので塩害に対して警戒心が強い。
このため、海岸沿いの発電所や各種工業プラントは防食塗装と言って塗膜を厚くしたり、塩害に強い成分の塗料を選択する(そもそもこうした耐塩耐候性を求められる塗料は工業用塗料に分類され、一般家庭用の塗料と材質が違う)など、内陸の施設とは異なった対応を取っている。海岸に近い地域では、風と波の作用により発生する海塩粒子が風によって運ばれ、がいしや電線被覆、金属の表面に付着する。当然のことながら、大気中に含まれる海塩粒子の量は海岸に近いほど多く、塩害の影響は海岸から数㎞程度が最も大きくなります。
また、台風の後などは、河川の河口付近を中心に海岸から20㎞程度までに及ぶことがあると言われています。(中略)各電力会社では、過去の実績や、限界ESDD(等価塩分付着密度)とその発生頻度により塩害対策地域を設定しており、図に示すように海岸線からの距離はおおむね1~4㎞以内となっています。
また、「塗ったら終わり」ではなく補修塗装も行なう。何故なら、電力会社自身が震災前から、上記工業用塗料について「長期の防食は期待出来ない」と記載しているからである。この記述は『原発と大津波』冒頭にも登場した『火力原子力発電土木構造物の設計 増補改訂版』(1995年)P329で確認したものだが、同書ではもう一つの欠点として、「衝撃に弱い」と書いてある。
数年前から廃墟ブームが続いているが、廃墟というのは言わば「メンテナンスを止めた結果」でもある。このように考えれば、排気筒が辿る道も分かるだろう。これが簡単に解体できる、或いは半永久に維持出来ると勘違いしたのが彼等の驕りの始まりである。
【5】微風振動および突風のリスク
煙突と言えば風のリスクなのだが、どこも触れてないので書いておく。元々、東電設計という会社は発電所の煙突や排気筒の設計業務も得意としてきた経緯がある。その東電設計OBが執筆した『建築のいろいろ』という本がある。
安全神話の語り部はこういう内輪物を知ってても隠す。良く覚えておこう。昔話と思う向きもあるかも知れないが、先のツカサテックにも微風振動のリスクは上がっている。
福島第一の排気筒は、トラスの一部が切断した状態になっている。本来のバランスを欠いてるなら微風振動の影響をより受けやすくなっていることは考えられるだろう。『火力原子力発電土木構造物の設計 増補改訂版』での煙突分類に、福島第一の排気筒を当て嵌めると鋼製鉄塔支持式に分類出来る。鉄塔支持式煙突は(地震力より)静的風圧荷重の方が支配的とされている。
風という点からのリスクは東電も昔は把握していた。『東北の土木史』という福島第一の建設期に書かれた本があるが、P177には次のようなエピソードが紹介されている。
突風の発生頻度という点では、本州にしてはリスクがある場所と言えるだろう。勿論、事故前の排気筒はこうした突風にも耐えてきたし、大抵の煙突は60m位までは設計上の考慮はしているが、条件が格段に悪くなり、今後、耐えられる保証は無い。
現状、排気筒について思いつくままに述べてみた。やはりビジュアルで示せるなら、そういったものは活用すべきと考える。最後の最後だが、原発推進派の作業員たちは、煙突のメンテナンスについて何らTogetterに事例紹介をしなかった。何故出来ないのか大変に疑問である。そういったことをスルーし、ひたすら他人の尻馬に乗るだけのryoFCのような者はバカな一部作業員以上に軽蔑されるべきだろう。
※暫くブログを休んでいたが、久々に投稿した。順次再開出来ると良いと思う。
※2016-3-9:一部ブラウザで画像が見えないトラブルがあったので画像ファイルに入替。関係ツイート引用等内容見直し。
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http://www.news-postseven.com/archives/20110602_21709.html
投稿: | 2016年3月13日 (日) 16時47分