言葉を形にして理解する(あるいは、テーブルにもいろいろある)

「図になっているとわかりやすい」と矢野さんは言った。
僕は、人の話している言葉はテトリスのブロックのように落ちてくる、と思っている。
そう。言葉はわかりやすい図にしてもらいたくて落ちてくるのだ。

言葉がテトリスのブロックのように落ちてくる

僕は常々、人の話す言葉にも、本に書かれた文章にも、テトリスのブロックのように、どれとどれをどう組み合わせればいいかを示す形があると思っています。

もちろん、テトリスのブロック同士もそうであるように、その組み合わせは決して1つの正解があるわけではありません。でも、意味をなす言葉であれば、必ずそれを構造的に組み合わせる形を、言葉は示唆してくれているのだと思います。

その形を、話を聞きながら、本を読みながら、頭のなかで組み合わせていけば、図表になる。
わかるということはそういうことではないかと思うのです。分節化された言葉同士の関係性をつなげることが「わかる」ということなのですから、「図になっているとわかりやすい」のは当たり前のことだと思うのです。
図という視覚的な要素の関係性を描ければ、言葉同士の意味のつながりを整理することにつながるのですね。ようするに、自分のためのインフォメーション・グラフィックスを自分で描くということです。それが理解のためのモデル化という作業にほかなりません。

瞬時に言葉のブロックを有意義な形に組み合わせられるか

論理的な理解力の多くは、言葉として示されたものを、いかに視覚的な図としてモデル化する能力がどの程度あるのかということに関わっています。
他人の話や本に書かれた内容を論理的に理解するというのは、テトリスのゲームをするように、落ちてくる言葉を瞬時に見方を変えながら適切な場所に配置してあげることが必要なんですね。

もちろん、ブロック化=分節化された言葉の形をうまく組み合わせられなければ、テトリスのブロックが消えないように、理解できないというもやもやが残ってしまうでしょう。ひとつひとつの言葉の意味はわかるのに、全体として相手が何を言っているのかわからないという状態がそれです。

知識というのは私たちと世界との間を切り離しているものでありながら、その知識をうまくつかうことができさえすれば、私たちと世界がつながることを約束してくれるという矛盾した性格をもっている。
松岡正剛『知の編集工学』

うまく言葉の意味を組み合わせてひとつの理解に達しないという状態は、まさに知識が世界と僕たちを切り離してしまっている状態に近いのだと思います。それはテトリスのブロックの組み合わせに隙間ができてしまったようなものです。
逆に、知識が「私たちと世界がつながることを約束してくれる」状態は、テトリスのブロックが隙間なく埋まって消えていく状態なんだと思うのです。

テーブルにもいろいろある

では、その言葉のブロックがきれいに配置された状態にはどんなものがあるのか? どんな図表が理解を促進するのか?

そして、図表=テーブルにはどんなものがあるのか?

ヨーロッパの「古典主義時代」の知性の〈形〉が一番端的にあらわれているものとして、それが〈表(タブロー)〉であるとフーコーがいっていることが、ぼくにはとてもわかりやすくて気に入ってしまった。「17世紀と18世紀において、知の中心は〈表(タブロー)〉にほかならない」。かくて「表(タブロー)の形をした空間」をフーコーは、当時の言語の理論、分類の理論、貨幣の理論にさぐりだしていった。「古典主義時代」が生んだ百科事典や博物誌の中には〈表(タブロー)〉がおびただしく姿をあらわしている。
高山宏『新編 黒に染める―本朝ピクチャレスク事始め』

〈表(タブロー)〉=テーブルです。それは、HTMLの表組みとしてのtable、データベースのテーブルを想像すればわかるでしょう。

テーブルの種類を列挙するとすれば、以下のような分類が可能だと思っています。

1.要素を時系列に並べたテーブル
まずは要素間の時間的順序という関係性を示した図表があります。スケジュール表やプロセス図などは、活動の予定や作業手順を理解するのに役立ちます。

  • 1-1.時計の時間の上でいつ何をするかを示すもの:カレンダー、スケジュール表
  • 1-2.プロセス・手順を示すもの:プロセス図、フローチャート、SIPOCダイアグラム


2.要素の空間的配置を示すテーブル
当然、要素の空間的な位置関係を示す地図や間取り図などもあります。

  • 2-1.要素間の地理的な位置関係を示すもの:地図、路線図
  • 2-2.建築物やその他人工物内部での空間的配置を示すもの:間取り図、断面図、機械設計図


  • 2-3.人体や生体内部での空間的配置を示すもの:解剖図


  • 2-4.三次元的に空間的配置を示すもの:建築パース、絵画表現における遠近法


3.要素間の意味的関係を示すテーブル
人間関係、生物進化における祖先と子孫の関係、階層構造的な関係性にある要素間の関係などを示す図もあります。

  • 3-1.要素間の階層構造的関係性を示すもの:組織図、ツリー図、ベン図、サイトマップ
  • 3-2.要素間のランキングを示すもの:ランキング表、番付


  • 3-3.ボリュームの差異や変化率を示すもの:円グラフ、棒グラフ、折れ線グラフ
  • 3-4.世界や宇宙の仕組みを示すもの:曼荼羅、太極図


  • 3-5.要素の意味と関係性を示すもの:データベースのER図、UMLのクラス図



上記で示した分類はまだ網羅性も十分ではないし、分類の仕方そのものもちょっと整理しきれていない感もあります。
とはいえ、なんとなく関係性を描くテーブルの種類にもさまざまなものがあり、どのテーブルを使って関係性を描くかで理解できる内容も異なるのだというのことはイメージしてもらえるのではないかと期待しています。

話を図にする訓練を繰り返すことで、話の理解力は変わる

まさに他人の話や本に書かれた文章をこのようなテーブルを使って図式化して整理することが、理解のために役立つんですね。

『ペルソナ作って、それからどうするの?』や「ユーザー行動を構造的に分析するための5つのワークモデル」というエントリーで紹介しているようなワークモデル分析で人間の行動をモデル化するのも、図にすることでインタビューで得られた言葉がより深く理解できるからです。

こういう図表の引き出しをもっていると、他人の話を聞いたり、本の文章を読む際も、言葉同士の関係性を組み立てる力が増すと思います。
もちろん、図表の引き出しを増やすというのは、ふだんから言葉を図表化して整理する訓練が必要です。
人の話を聞いてメモをとる際も、単に言ったことをそのまま箇条書きにするのではなくて、聞きながら図を描いて関係性を理解する訓練をしてみるといいと思いますよ。

そう。形を聞き、構造を読むんですね。繰り返し、いろんな図表を描いてみることで、言葉のテトリス感覚を養うのです。この訓練を続けると、本当に言葉の理解力が違ってきます。

とはいえ、さすがに話を聞きながら、曼荼羅や太極図を描くシーンというのはないと思いますがw

  


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