じつはリハビリの効果はかなり少ない…多くの人が抱いている「リハビリで元通りになる」という幻想
世の中にはそれを肯定する言説や情報があふれていますが、果たしてそのような絵空事で安心していてよいのでしょうか。
医師として多くの高齢者に接してきた著者が、上手に楽に老いている人、下手に苦しく老いている人を見てきた経験から、初体験の「老い」を失敗しない方法について語ります。
*本記事は、久坂部羊『人はどう老いるのか』(講談社現代新書)を抜粋、編集したものです。
リハビリ幻想
私がかつて勤務した老人デイケアのクリニックでは、リハビリの施設もあり、理学療法士がいろいろなリハビリをしていました。
脳梗塞で車椅子生活だったJさん(78歳・女性)が、リハビリの甲斐あって自分の脚で少し歩けるようになりました。それまでは立ち上がることもできなかったので、大きな進歩です。Jさんは涙を流して喜びました。
「先生、ありがとうございます。こんな嬉しいことはないわ」
私は利用者さんたちの前でそのことを報告しました。
「Jさんはみなさんに励まされて、歩けるようになりました。みなさんも頑張ってください」
職員たちが拍手をし、利用者さんたちもそれに倣いました。近くにいたJさんの友だちが、「あんた、よう頑張ったな」と肩を叩くと、Jさんは涙と笑いで顔をクシャクシャにしていました。
すると突然、同じく歩行困難のあるGさん(72歳・男性)が、さっと手を挙げてこう言いました。
「先生。僕にもマイクロ(超音波治療器)をやってください。ローラーベッドもして、リハビリももっと増やしてください。お願いします」
我慢の限界を超えたような切羽詰まった声でした。
Gさんの歩行困難は少し変わっていて、亀のように背中が丸くなり、変形性膝関節症のため脚が極端なO脚で、うまく足が運べないのです。神経症状で杖もうまくつけず、脳梗塞やパーキンソン病ともちがう珍しい病態でした。大学病院でも検査を受けたそうですが、診断がつかず、病名は不明とのことです。それでよけいに苛立ち、不安と焦りを感じていたのでしょう。
「大学病院で診てもろたのに、なんでわからんのやろう。ちゃんと診てくれたんやろか」
Gさんは何度もそう繰り返していました。彼には大学病院ならどんな病気もわかるという思い込みがあったようです。もちろん、大学病院でもわからないことはいくらでもあります。
多くの高齢者は障害が起こると、その原因を知りたがります。病名を知りたいのです。病名がわかると少し安心します。治る希望が持てるからです。「病気ではありません、年のせいです」と言われるとがっかりします。老化は治らないと思っているからです。