2024.12.25

「なりたくない病気No.1」の病気が、じつは恐れる心配はないと医師が断言するワケ

老いればさまざまな面で、肉体的および機能的な劣化が進みます。目が見えにくくなり、耳が遠くなり、もの忘れがひどくなり、人の名前が出てこなくなり、指示代名詞ばかり口にするようになり、動きがノロくなって、鈍くさくなり、力がなくなり、ヨタヨタするようになります。

世の中にはそれを肯定する言説や情報があふれていますが、果たしてそのような絵空事で安心していてよいのでしょうか。

医師として多くの高齢者に接してきた著者が、上手に楽に老いている人、下手に苦しく老いている人を見てきた経験から、初体験の「老い」を失敗しない方法について語ります。

*本記事は、久坂部羊『人はどう老いるのか』(講談社現代新書)を抜粋、編集したものです。

なりたくない病気No.1

病気はどれもイヤですが、特にこれだけはなりたくないと多くの人が思うのは、がんと認知症ではないでしょうか。がんは死ぬ危険性が高いし、認知症は自分がなくなるような恐怖がありますから忌避されるのです。ほかにも認知症はまわりに迷惑をかけるとか、何もわからなくなるとか、記憶も全部消えてしまうとかの不安もあるでしょう。

だから、「認知症にだけはなりたくない」という人は少なくありません。ですが、私は医療や介護の現場で多くの認知症の患者さんを診てきましたが、認知症になってそのことを悔やんでいる人は一人もいませんでした。認知症になりかけの人で、将来を恐れる人は何人かいましたが、認知症になりきってしまえば、不安も忌避感もまったく消えてしまいます。

すなわち、認知症に対する恐怖や不安は、認知症になっていない人の感覚ということになります。

「でも、やっぱり家族に迷惑をかけるのはイヤでしょう」と言う人もいましたが、それも認知症でない人の感覚で、認知症になってしまえば迷惑をかけていることにも気づきませんから、イヤだとか申し訳ないという気持ちも起こりません。

認知症を極度に恐れる人は、健常な目で認知症になった自分を思い浮かべるから、嫌悪の気持ちが強まるのでしょう。認知症にかぎらず、悲惨な病気の状態を見たら、だれでも同じようになりたくないと思うのは当然です。

しかし、認知症にはほかの難病などとは決定的にちがう側面があります。それは病気になったあと、病気であることを認識できないということです。わからなければ、恐れる必要も悔やむ心配もありません。

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