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2009年2月 8日 (日)

我先に出口に殺到するな 賃上げで景気底割れ防止を

連合総研の『DIO』2月号に、脇田成氏の標記文章が掲載されています。

http://rengo-soken.or.jp/dio/pdf/dio235.pdf

政治的観点からは、春闘のこの時期に賃上げの意義を説得する文章ということになるのでしょうが、マクロ経済的に内需拡大の意義を説いた文章としてとても明晰で、引用する価値があると思いますので。

>今年も春闘の時期になりました。未曾有の金融危機のもとで、賃上げどころではない、との声も多くあります。しかし筆者は、景気の底割れを防ぐためにも、適切な賃金確保が重要な意義を持つと考えています。実際、ここで賃金・雇用が減少すれば、今時の不況はスパイラル的に悪化することは必然です。

 現在、世界中の政府が金融危機というショック状況に、財政というカンフル剤を処方しています。個別の企業が自己防衛に走って、賃金を切り下げてしまえば、カンフル剤の効果さえもなくなってしまうのです。

 たしかに、しばらくの間苦しい状況が続くかもしれません。しかし我先に出口に殺到すれば、より大きな悲劇を招いてしまうことになりかねません。実は日本経済には2つのバッファーが存在しているのですから、現在はそれをまず使うべき時でしょう。

一つめのバッファーは内部留保だと言います。

>ただ大切なことは、企業部門には平均的には巨額の内部留保が積み上がっていることです。景況感はGDP比1 〜2%(約10兆円程度)に左右されることから思えば、十分な量があるはずです。まずこのバッファーをまず使うべきでしょう。

 ケインズ的な政府の財政政策は各部門が自己防衛のため貯蓄に走る状況で、全体としての貯蓄過剰、つまり合成の誤謬を打破するために行われます。このロジックから言えば、貯蓄過剰で内需不振をもたらした部門の第一は企業部門であり、その貯蓄を使うべきです。

もう一つは「雇用保険のいわゆる埋蔵金」だといいます。この「埋蔵金」という言い方は、例の脱藩官僚の高橋洋一氏ら一派のものの言い方を想起せしめるので余り愉快ではありませんが(そういう「埋蔵金」などという卑俗低劣な発想が、この期に及んで雇用保険料引き下げなどという愚劣な政策のもとになるわけですからね。)、それはそれとして非正規対策には雇用保険のカネを使えという内容自体はもっともだと思います。

>それでは二つめのバッファーは何でしょうか。それは雇用保険のいわゆる埋蔵金です。現在、困窮した非正規労働者の中途解雇や雇い止めの問題が盛んに報道されており、心が痛みます。たしかにこの状況で、正規社員のみが高賃金を要求して良いのか、という問題は深刻です。

 しかし筆者はまず政府にできることがあり、財源もとりあえずはあると考えます。現在、政府・与野党から提案されている非正規雇用対策は、雇用保険のいわゆる埋蔵金を使ったものが中心となっています。この埋蔵金は、あれほど格差社会と言われながらも、正規雇用者の保険料が中心に4兆円もの巨額に積み上がっているのです。

 現在、最も状況の深刻な製造業派遣労働者は50万人程度ではないかと思われますが、一人100万円使っても、5000億円程度にしかなりません。(ただ派遣労働者はアルバイト・パートより時給が高いため、モラルハザードを防ぐ現物支給にならざろうえないでしょう。)

 また約1700万人以上の非正規雇用全体から考えると、製造業派遣は言わば例外的少数であり、大多数はサービス業など内需に依存しているのです。つまり内需喚起は非正規雇用労働者にメリットが大きく、逆に賃下げなどで内需が冷えれば、より影響を受けるのは非正規労働者であると予測されます。

最後に、こう述べて、今の事態を皮肉っています。

>皮肉な見方かもしれませんが、現在、非正規雇用問題の犯人と対策の押し付け合いが政府・経営者・正規労働者の三者で行われていると考えることができるでしょう。リーマンショックよりわずか数ヶ月で、経営者は赤字を喧伝しています。いずれも危機打開を計ることなく、我先に出口に殺到しているのです。そしていずれは企業収益V字回復とやらが喧伝されるのでしょう。その騒ぎのなかで今後、正規労働者の条件切り下げや制度いじりが、声高に叫ばれるでしょうが、それは「奥の手」と言うべきでしょう。まず短期的にはバッファーを使い、中期的には産業構造の転換を図る、そのために賃上げの役割は大きいのです。

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