ペーター佐藤というイラストレーターがいた

 むかしペーター佐藤というイラストレーターがいた。1994年に48歳で亡くなった。ミスタードーナツのポスターなどを描いていて人気があった。Wikipediaによると、

(アメリカからの帰国以降)1970年代前半にエアブラシのテクニックで一世を風靡し、国内はもちろんニューヨークなどの海外でも高い評価を得る。後半には近未来の女性をモチーフとして、エアブラシによる美人画の画法を確立したといわれる。ニューヨーク滞在中にはイラストレーション以外にヘアメイクやファッションの分野でも活躍していた。1980年代に入るとタッチの粗いパステルを使った人物画に力を注いだが、中でもジェームス・ディーンや美空ひばりなど内外のスターや、アメリカの子供達をモチーフにした一連の作品群が人気を博した。

 私も前職にあった頃、一度イラストの仕事を依頼したことがあった。亡くなる数年前頃だったと思う。佐藤の事務所で打合せをした後、ギャラはいくらですかと聞くと、マネージャーに聞いてくださいとその電話番号を教わった。帰社してそこに電話をすると女性が出て、(イラストを使用する印刷物の)媒体は何ですかと聞かれた。パンフレットの表紙ですと答えると、即座に60万円ですと言われた。イラストの内容とは無関係に媒体の種類(ポスター、新聞広告、パンフレット、CDのジャケットなど)で定価が決まっているらしい。その割り切った合理性に感心した。ほかのどんなクリエーターでも料金をここまで規格化した人はいなかった。
 私も美空ひばりのCDを1枚だけ持っている。「美空ひばり/歌謡名曲100選Vol.6」(日本コロンビア)というもので、「ラヴ・イズ・オーヴァー」「大阪しぐれ」「昴」「釜山湊へ帰れ」「川の流れのように」なんかが入っている。ジャケットの美空ひばりのイラストをペーター佐藤が描いている。

 これがそのイラストだが、腕がなくてまるで掌が肩から直接生えているように見える。いわゆるデッサンが狂っているのだ。ペーター佐藤は写真をプロジェクターで投影してそれをなぞって描いていたと言われる。おそらくそうなのだろう。
 60万円で描いてもらったイラストも下手で、会社のデザイナーがいっぱい手を入れてしまった。原画といっしょに印刷見本を送ったが、それに対するクレームはなかった。


歌謡名曲100選 VOL.6

歌謡名曲100選 VOL.6