囓り続けないと死んじゃうというのは本当なの?

NHKの動物番組でビーバーが伸び続ける歯を適度な長さに調整するため、木を囓り続けているというお話が派手なCGで紹介されたのだそうです。
でもこのお話、実は都市伝説なのでは?というのが、複合猫の先輩(complex_cat様)のこのエントリです。

齧歯類の歯について

本文から引用させて貰います。(強調はどらねこによる)

NHKの動物番組でビーバーの歯が木材を囓って伸び続ける無根歯をメンテしているという古来からの説明がでてきた。柔硬の二重構造はノミでも包丁でも同じなのだが,ものを削って刃が立つならこんな楽なことはない。齧歯類の顎と歯の構造を見れば,そこのすりあわせははっきり分かるし,そうやって歯を摩耗させ切っ先を尖らせるメンテをしているだろうと考える方が無理がない。顎を左右に摺り合わせる行動は観察すれば分かる。小型齧歯類では昆虫食が好きな種も多くて,囓ることができないケージに入れて昆虫やソフトフードだけで飼えるが,勿論歯が伸びすぎて死んだりしない。囓ることによる摩滅の延長線上で歯がメンテされるわけではない。もの囓っても確かに摩耗させることにはなるだろうが,実際に無根歯が伸びることに抗するだけの効果があるか,微妙。材料工学的に検証は可能だと思う。
<中略>
お子さんに話したら分かると思いますが,「ネズミって硬いものずっと齧っていないと歯が伸び続けて死しんじゃうなんて,伸びないようにすればいいじゃない。なんて馬鹿なの死ぬの?」って言われたとしたら,そうだね,間抜けだねって答えて,疑問が生じるかどうかという話なんです。
歯が伸びてしまわないような方向にやりくりしなかったのは,硬いものを齧り続けるからではなく,硬いものでも対処できるように歯をメンテするために必須だったからが正しいということになります。「だったら,硬いものを相手にしない場合は,どうなるの?」っていう疑問に対して,「それには硬いものを齧るんだよ」。という素晴らしく間抜けなストーリーが,「ネズミは硬いものを齧り続けないと歯が伸びて死んでしまう」という言説の正体です。何にも答えになってないし,トートロジーにはまった間抜けな生き物に,げっ歯類を貶める反自然科学的所業ですな。
ネズミは,硬いものを齧らなくても大丈夫です。但し,顎筋のメンテ上,齧る行動は必須かもしれない。それは動物園の経験則から言ってもありえそう。もしそうであれば,ここはもう一寸ややこしい話になるのですが,少なくとも,齧って歯をすり減らさないとだめということではないし,そんな危うい歯のメンテはやっていないということになるかと思います。

齧歯類全てとは考えておりませんでしたが、そういう種族はいるのだろうとホンキで思っておりました。目から鱗!
よく考えたら、環境中に必ずしも硬い物があるとは限らないし、その場合貴重なエネルギーを消費してまで硬い物を見つけ出し歯をすり減らすというのは相当効率の悪いやり方に思えます。あと、自然環境で出会う堅い物体は、形状も一様じゃないし、部位によっても硬さが違うでしょうから、歯を均等に削るのは相当難しそうな気もしますね。勿論、摩滅するのはあると思いますが、囓る行為に依存はしていなそうな印象です。
でも、指摘されないと気がつかないですよねー。コワイコワイ
ちょっと調べてみたら、百科事典などでも硬い物を囓って歯の長さを調整すると書かれています。都市伝説のレベルを超えているみたいですね。紙媒体の辞典などではなかなか新しい情報に更新されないから・・・という事もありそうだな、と思いwikipediaを確認してみたらこんな風に書かれておりましたよ。

wikipedia ネズミ目 (2010å¹´6月24日現在の記述)より

ネズミ目の動物は、上顎、下顎の両方に伸び続ける2つの門歯をもつ。この門歯は物をかじることで次第に削れてゆき、長さを保っている。漢語名齧歯目、および学名「Rodentia」はラテン語で「かじる(齧る)」という意味のrodereからきている。歯は木を削ったり堅果類の皮をかじったり身を守るために使われる。ネズミ目の動物の多くは、種子などの植物質を食料とするが、魚や昆虫を主食とする種もわずかに存在している。

う〜ん、まさに定説扱いですね〜。

昔から謂われている事は覆り難いというのはどの分野でもある話ですが、情報が誤っていたとしても何の問題も発生しない部分について顕著だと思うんですよね。誰も不利益を受けないわけだからわざわざ検証するメリットが殆ど無いのでそのまま放置されても不思議はない。
あと、ヒトの心理傾向として、不合理な行動には違和感を持つと思うのですが、その行動に納得できる説明が与えられると安心するのですよね。
この場合、「奴らは何で食べるわけでも無いものを無暗矢鱈とかじりつくのだ?」という疑問があって、それに「伸び続ける歯を削る為だよ」という説明が与えられると居心地の悪さが解消されるのだと思います。行動には意味があるべきだ!と、思う方は多いんじゃないかな。

この言説の強み(?)は、完全な誤りというワケでは無いところですね。噛むことによって確かに摩耗するはずで、伸びる歯を一定の長さに維持するための寄与はあると思うから。もしかしたら、自分ですりあわせた歯の切れ味を確かめる行為かも知れないし・・・(憶測)
でも、なんで彼らはあんなに囓るんでしょうねぇ。気持ちいいのかなぁ、どらねこの無知がばれますねぇ。

c_c様の処のエントリはどんどん追記もされていますし、写真もアップ予定だそうなので、今後も要注目ですね!

ところで、このネズミ話に既視感を持ったのですが、日本人の腸が長いというデータは存在しないという記事を以前自分が書いている時に感じたことでした。
納得ポテンシャルの高い言説は論拠が乏しくても信用されて広まってしまう可能性が高いので要注意!・・・なのかも。世の中ヒトの都合に合わせて出来ているワケじゃあないのよね。

※便乗宣伝※
腸が長いのは気のせいです
http://blogs.dion.ne.jp/doramao/archives/8281389.html
凄いよこのクスリ
http://d.hatena.ne.jp/doramao/20090917/1253178109
これについては、c_c様も援護射撃して下さってます。
肉食の日々
http://complexcat.exblog.jp/11854563/

両者の話とも科学教育に於ける、素朴理論問題にも通じるお話だなぁ、と思いました。