シートン俗物記

非才無能の俗物オッサンが適当なことを書きます

「大きな政府、小さな政府」など存在しないよ


ども、明日からは大道芸ワールドカップin静岡。しばらくお祭り気分のシートンです。前回のエントリーえらく騒ぎになったんですね。久々に覗いてみて驚きました。大した事を書いたつもりは無いんですけど。
なんか、私が「日本を出て行けー!」と云っているかのように勘違いしている人たちがいますけど、全然そんな事無いですよ。単に、「小さな政府にならなければ日本は没落する」だの「規制をしなければ日本はおしまいだ」なんて悲観するくらいなら、ネオリベ・ワールドにでも移った方がお得なのに、という程度のことです。ネオリベのインセンティブって、個人の欲望の全面的肯定だと思っていたんで、「遠慮することは無いですよ。合理的に考えれば日本に留まる意味は無いでしょ?」と教えてあげたんですけど、なぜか反発を喰らっております。恩を仇で返された!
それにしても、皆様日本を愛されているようで、愛国者だらけの日本。未来は明るいですね。これで一安心。所得税の累進化を進めても大丈夫。バンバン金持ちから税金を頂きましょう。なにせ、日本国を愛される皆様ですもの、まさか税金を上げたくらいで「日本脱出!」などとは仰いますまい。
ところで少々気になる言葉がありました。


copa_de_vinoさん

これは新自由主義ではありません。小さな政府、大きな社会を志向するのが新自由主義です。

robinsさん

まず新自由主義と市場原理主義を混同している点が致命的。

luckyparaさん

新自由主義=金儲けってのがちがうでしょ。


ブコメから

ijustiHさん

これは新自由主義ではありません。小さな政府、大きな社会を志向するのが新自由主義です/だよねー…


アンタら、「小さな政府」とやらに夢を見すぎですって。そもそも、新自由主義ってのは“市場における利己的な競争(神の見えざる手)”によって社会の富の適切な配分が成される、と主張しています。逆に云えば、それまでの政府機能による再分配(徴税機能)を否定するところからきているんです。それが、特にアメリカにおける個人の自助努力と独立を重んじる気風と結びついた。アメリカではしばしば銃による犯罪が問題となりますけど、それでも銃は保守派(つまり、新自由主義者ら)からの主張によって規制を免れています。それは、市民の自らの身は自分で守る、という「武装権」からきているわけで、自分の身さえも政府による保護は受けない気概から来ているんですよ。西部劇でお馴染みの保安官(town marshal)も警察と司法を兼ね備えた存在として街で選出される。自分達で何でも決める、という気風、そこまで来て「政府の機能を小さくしよう」「政府に税*1など払わない」と主張するわけです。
新自由主義の存在無しには小さな政府は有り得ませんし、であれば「そんなのは真の『小さな政府』ではない」などと主張されてもねぇ。


さて、政府による規制の問題ですけど、その規制が少なくなれば、経済活動が活発になり豊かになる、なんてのはマヌケも良いところですよ?
「小泉・竹中コンビのやらかしたことをよく見てみろっての」と主張も出来ますし、
「アメリカ(ウォール街)・イギリス(シティ)・アイスランドらの惨状を見てみろ」
とも云えますけど、それ以外にもっと本質的な事があります。


dbfireballさん

その理論を昔の人が突き詰めてたら、未だに馬車で移動してる事になるぜ。。。

marupinさん

競争が人の暮らしを豊かにしてきた歴史はスルー。

kkさん

あなたのこうしてこの記事を書くのに使っているインターネットだって、資本主義的成長がなければここまで急速に発達しなかったんですよ?
あなたが経済的豊かさにこだわらないと言うならさっさとパソコン捨てて自給自足の生活に移ったらどうですか?


はぁ、そうですか。そういえば、フロムダもこんな事を口走ってましたな。

この20年、日本経済が低迷していた間、GoogleもYahooもマイクロソフトも大きく発展し、アメリカに良質の雇用を生み出してきましたが、GoogleもYahooもマイクロソフトも米国政府や政治家や役人が作り出したわけではありません。これらのビジネスや雇用は、アメリカの民間の若者達が作り出したのです。(人類史上何度も起きた、クソ労働環境の劇的な改善の原因)

http://d.hatena.ne.jp/fromdusktildawn/20090928/p1


ここには、決定的な抜けがあります。
つまり、新たな技術の開発も産業の興隆も政府の関与無しには行われなかった、ということ。
まず、ご存じではありましょうが、インターネットの基礎がARPANET(アーパネット)、つまり国防総省の国防高等研究計画の下で発案され、研究・開発されたものです。WWW、HTTPら現在のインターネットの元はCERN(欧州原子核研究機構)でのデータ管理システムとしてティム・バーナーズ=リーが開発したものですし、最初の実用的ブラウザー「Mosaic」はイリノイ大学で開発されたものです。
企業が無ければ急激な進歩が無かった事も確かでしょうが、企業による「利益追求」だけでは多様性のある創造が行われなかったでしょう。


もっと直接的な政府の関与があります。それ無しにはGoogleもYahooもマイクロソフトも大きく発展、どころか存在すら出来なかったでしょう。それは「特許」です。
発明者に優先的な使用権を与える事を政府が保証する、それ無しにはGoogleもYahooもマイクロソフトも起業自体が不可能だったでしょう。
特許関係では有名なエピソードがあります。最初の抗生物質「ペニシリン」の発明者(発見者)、フレミング。彼はその発見を特許とはしませんでした。その知識が遍く利用されるよう、とのことでしたが、それは逆に製薬メーカーの事業化を躊躇わせ実用化を遅らせた…。
「もしも彼(フレミング)の発明に特許があれば、もっと早くにペニシリンの工業化が実現し、第二次世界大戦中に破傷風などの細菌感染で死んでいった負傷兵の多くを救えたかもしれない」
と「工業所有権標準テキスト:特許編(H13)」にはあります*2。


参考:「ペニシリンの特許」が教える特許の本質
http://nichiben.gr.jp/kaihou/h14/pdf/Nichiben_vol26_p85-87.pdf


やたら「規制緩和」を望む金融関係だって政府規制によって恩恵を被っています。
以前、浜松のブラジル人労働者の苦境について述べたことがありましたが、浜松地域では「地下銀行」の問題もしばしば取り上げられました。


ブラジル銀の一部業務停止 地下銀行と取引で初の処分

 金融庁は16日、中南米最大手のブラジル銀行の在日支店に対し、不法就労者らの海外送金を請け負う「地下銀行」と取引し、銀行法などに違反したとして、外国為替送金を伴う法人顧客との新規業務を1年間以上停止とする処分を発表した。  同庁が地下銀行との取引に絡んで、銀行を行政処分したのは初めて。  同業務の停止期間は今月24日から。来年12月26日以降、銀行側から業務再開の申し出があれば、改善状況をみて再開を許可するか決める。  ブラジル銀行は政府出資の銀行。日本国内では東京支店のほか、茨城や群馬、長野、浜松、名古屋、岐阜に6出張所を展開し、中南米からの就労者らの送金業務などを行っている。

http://www.47news.jp/CN/200412/CN2004121601002661.html


海外送金や外貨取引を行う人には常識ですが、送金手数料や為替取引手数料ってえらくボッているんですよね。日本で働く外国人労働者にとっては僅かな稼ぎから送金するのに高額な手数料を回避しようとするのはある意味当然でした。ブラジル・リアルから円へ換えようとする人たちにとっても「規制緩和」されれば「恩恵」があったでしょう。
「NPOバンク」「市民金融」なども同じです。ですが、こうした「規制緩和」は銀行界は望まないでしょうね。


「政府による規制を少なくすることが素晴らしい」という考え自体が的外れなのです。単に自分達に都合の良い「規制」には鈍感で、都合の悪い「規制」は目障り。だから「規制緩和」を望む。それだけのことです。


大きな政府も小さな政府もありません。あるのは「適切な関与か」「不適切な関与か」だけです。この「適切・不適切」だって人によって異なるのです。一律的な「規制緩和」など無意味であり、有害でもあります。
それを示すために、「じゃあ、それほど規制が少ない事が素晴らしいなら、全部の規制の無い生活を想像してみなよ」という事で前エントリーを書いてみたわけですね。


それにしても、規制緩和が行われれば経済活動が活発になる、って経済活動を行っている人間を舐めすぎですよ。「トラブルはチャンスの手掛かり」「問題こそ創造の素」。私はこうした言葉から新しいものを生み出そうと日々仕事をしています。規制があるなら、それを逆手にとって商売のネタにする。それくらい逞しくなくてどうします?「規制があるからダメだ」なんて詰まらない言い訳しているようじゃ、規制が緩和されようと関係ありませんよ。最初から負け決定です。


「小さな政府」とは、政府の規模を指すのだ、という人もいるかもしれません。そちらにも釘を刺しておきましょう。大体、日本における公務員数は文官武官併せても他国には遠く及びません。


公務員数の国際比較に関する調査
http://www.esri.go.jp/jp/archive/hou/hou030/hou021.html


以前説明したように、「小さな政府」を追求したアメリカ・イギリスでさえ(人口比に直して)公務員数ははるかに多いのです。政府による国民生活に対する関与はどうかといえば、buyobuyoさんが書かれたとおり。


【OECD】教育への公的支出下から2番目っていうか実質最下位【最下位爆走中】
http://d.hatena.ne.jp/buyobuyo/20090909/p1


社会保障においてもとっくに「小さな政府」ですわよ。


社会保障給付の国際比較
http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/2798.html


日本が支出において世界に誇れるものって


突出した公共事業への支出
http://hodanren.doc-net.or.jp/kenkou/gkhtml/gktop/gk6s/gk6s3p/gk6s3p.html


なんとアメリカ・イギリス・カナダ・イタリア・ドイツ・フランスの公共事業費合計よりも大きいのだそうです。なるほど、「大きな政府」ですねぇ。それを推進してきた、また推進しようとしている政党ってどこでしたっけ?


谷垣総裁が八ツ場ダム視察 地方重視で再起アピール

自民党の谷垣禎一総裁は2日午前、鳩山政権が建設中止を表明した八ツ場ダムの予定地、群馬県長野原町を訪れ、地元住民や大沢正明知事らと意見交換を行った。この中で谷垣氏は「民主党が特定の事業を血祭りに上げるのはいかがか」と述べ、鳩山政権の対応を批判した。

http://sankei.jp.msn.com/economy/finance/091002/fnc0910021115014-n1.htm


このざまで「小さな政府を」って唱っても、それはまったく的外れなんです。政府が関与しなくてはならないものは何なのか、それをどう適切に行うか、の問題であって、「小さな政府」「規制緩和」というのは、そうした細かな検証の積み重ねを蔑ろにしてしまうのです。


あと、税の問題ですが、皆が日本を出る気が無いのですから遠慮無しに所得税を拡充致しましょう。消費増税は論外です。消費税は安定した財源だ、というような事が唱われますけど、それって低所得層や貧困層が消費を減らせない状況に追い込まれている事を示唆しているんじゃないですか?大体、増税したとしましょう。


平均貯蓄額1,624万円 貯蓄ゼロが2割

今回の調査結果で気になった点は、貯蓄ゼロの家計が20.6%だったことです(給与振込や自動口座振替等で、一時的に残高がある口座は含まれていません)。

平成7年まではほぼ10%未満だった貯蓄無保有世帯ですが、その後増加傾向をたどり、ここ5年間は毎年20%を超えています。

http://allabout.co.jp/finance/gc/12588/2/


この可処分所得と消費支出がほぼ等しい世帯にとっては消費増税にどう対処したら良いでしょうか。さらに消費を抑制すればよいか?そうはいかないでしょう。例えそれによって社会保障を充実させようと、それでは自分達の足を食べる蛸と同じです。そんな形なら社会保障など行わない方がマシです。キチンと再分配機能を持たせる、それこそが重要です。


最期に。

kさん

新自由主義がケインズに変わって台頭してきた理由をご存知ですか?フリードマンを崩せるような論をお持ちですか?
なんだか陳腐なことをおっしゃられている印象をうけます。

取って変わった理由については推測することは幾らもありますが、ここでは控えましょう。ただ、フリードマンとその弟子、シカゴボーイズ達はピノチェト独裁下のチリ、ブラジル、アルゼンチン、などに新自由主義を広めましたが、大失敗に終わりました。同じくIMFの元で新自由主義へ政策を進めたタイ、ロシアなども大ダメージを負います。でも、なぜか反省されませんでした。アメリカもレーガン政権下では経済は復興しませんでしたし(後継者ブッシュシニアの落選理由は、経済立て直しに失敗したから)、イギリスも別に国民生活は改善していません。なぜ、日本において新自由主義がもてはやされるのかさっぱり理解出来ませんね。


この件については、また書きます。では、良い週末を。

*1:国民皆健康保険が無いのも同じ。日本でも無くせ、というのだろうか

*2:この意見が自分の意見では無いことは断っておく あくまでも特許の意味を示した意見として取り上げた