『海軍の日中戦争』

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1997年に刊行された『日中全面戦争と海軍―パナイ号事件の真相』の続編ともいうべき笠原十九司さんの新著。本書でもパナイ号事件は第4章で扱われている。
1997年と現在とを比較すれば「海軍善玉史観」を取り巻く環境は多少は変わってきていると思われるが(『海軍反省会』が世に出たのがその変化の一例)、旧日本軍の蛮行が話題になる際にその主体は陸軍であることが多いのは相変わらずのように思われる。もちろん、陸軍の方が組織の規模が大きかったこともあるだろうが。
というわけで、本書のうち私にとって最も興味深かったのは海南島における海軍の「治安掃討戦」が紹介されている第5章だった。ミニ三光作戦と呼ぶことのできそうな作戦が、華北での燼滅作戦開始とそう変わらない時期に行われていたのだ。
もっとも、一般的な観点から言えば本書の「目玉」と言えるのは第1章で論じられている「大山事件=日本海軍の謀略」説だろう。この主張の当否によって日本軍の、また日本海軍の戦争責任の基本的な図式が左右されることはないにせよ、日本軍擁護論者が持ち出す定番のトピックの一つが大山事件であるのだから。専門家の議論を見守りたい。