教科書に虚偽の記述を加えさせる教科書検定

2016年度から使用される中学校の教科書に対する文科省の検定結果が昨日発表されました。
検定基準に「政府見解がある場合はそれに基づいた記述」などが加えられたことで注目されていた検定ですが、文科省は政府見解とは異なる記述を加えさせているようです。

 今回、初めて教科書をつくった「学び舎(しゃ)」の歴史では、旧日本軍の元慰安婦の記述が対象になった。同じページには旧日本軍の関与を認めた「河野談話」も書かれていたが、07年に閣議決定された「軍による強制連行を直接示す資料は見当たらない」など別の見解があるとして、追加を求めた。いったん不合格となり、出し直した教科書では、この見解が追加された。中学校教科書に「慰安婦」の記述が載るのは10年ぶり。河野談話の記述は小中高を通じて初めてだという。
(http://digital.asahi.com/articles/ASH426456H42UTIL035.html?iref=comkiji_txt_end_s_kjid_ASH426456H42UTIL035)

このブログでは何度か指摘していることですが、第一次安倍内閣は「軍による強制連行を直接示す資料は見当たらない」などという閣議決定を行っていません。正しくは「同日の調査結果の発表までに政府が発見した資料の中には、軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示すような記述も見当たらなかったところである」というのが「政府見解」です(「同日」は河野談話が発表された93å¹´8月4日を指す)。「同日の調査結果の発表までに」と「政府が」という2つの限定を省略してしまったのでは「政府見解」を歪めることになります。
さらに、河野談話とともに発表された政府文書「いわゆる従軍慰安婦問題の調査結果について」には、政府が発見した文書の一つとして「〔法務省関係〕(バタビア臨時軍法会議の記録)」があり、そこに含まれる「ジャワ島セラマン所在の慰安所関係事件」に見られる記述について、2013年に共産党の赤嶺政賢議員が「これらの記述は、「軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示すような記述」にあたらないのか」などと問いただす質問主意書を提出しています。これに対する答弁書(閣議決定されたもの)の回答は、07年の「閣議決定」された答弁書の次の部分の通りだとされています。

 お尋ねは、「強制性」の定義に関連するものであるが、慰安婦問題については、政府において、平成三年十二月から平成五年八月まで関係資料の調査及び関係者からの聞き取りを行い、これらを全体として判断した結果、同月四日の内閣官房長官談話(以下「官房長官談話」という。)のとおりとなったものである。また、同日の調査結果の発表までに政府が発見した資料の中には、軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示すような記述も見当たらなかったところである。
 調査結果の詳細については、「いわゆる従軍慰安婦問題について」(平成五年八月四日内閣官房内閣外政審議室)において既に公表しているところであるが、調査に関する予算の執行に関する資料については、その保存期間が経過していることから保存されておらず、これについてお答えすることは困難である。

文科省は是非、「スマラン事件の記録は『軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示すような記述』を含む文書ではないのか?」という問いに対して「同日の調査結果の発表までに政府が発見した資料の中には、軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示すような記述も見当たらなかったところである」と答えるのが「政府見解」である、ということも是非教科書に記述させてほしいものです。また、マスコミも文科省が「政府見解」とは異なる記述を文科省が追加させたことを、是非問題にしてほしいものです。


関連エントリ
http://d.hatena.ne.jp/Apeman/20131104/p1