右派は恨む相手を間違えている

「日本は慰安婦問題で世界から誤解されている」「誤解されたのは吉田清治/朝日新聞/韓国ロビーのせいだ」という右派の認識そのものが「誤解」であることはいまさらいうまでもありませんが、ひとまず「誤解されている」という仮定を受け容れてみることにしましょう。では、一体誰が悪いのか?
そもそもこの問題で日本政府が主導権を握れなくなったのは、「民間業者が連れて歩いていた」などという稚拙な嘘をついたからです。こんな大嘘をついた政府の言うことがそうそう簡単に信用してもらえるわけがありません。さらに、「慰安婦」問題が注目を浴びた1990年頃であれば、自民党にも元軍人、元内務官僚の政治家が少なからずいたわけです。主計将校として「慰安所」設置に尽力した大勲位を筆頭に、です。彼らが率直に事実を話していれば、日本政府のペースで「慰安所」制度についての認識が形成される可能性はあったのに、彼らは沈黙を守っていました。
その一方、余計なことを喋った政治家もいます。「それから朝鮮の慰安婦が14万2000人死んでいる。日本の軍人がやり殺してしまったのだ」と放言した荒舩清十郎です。右派はマクドゥーガル報告書がこの発言をとりあげたことをしきりに非難しますが、なにせ荒舩は日韓条約協定特別委員ですからね。当時の日本の政治的文脈に疎い人間が信じてしまっても不思議はありません。なんで右派はこんな放言をした側を非難しないんでしょうか?
さらにもう一つ、日本政府が当時フィリピン、インドネシア、マレーシアでの調査を故意にネグっていた、という問題があります。この地域できちんとした調査をしていれば、そして同時に戦犯裁判関連資料をすべて開示しておけば、この地域では「人さらい」のような強制連行が行なわれていたことをはっきりと裏付けることができました。そうやって、「狭義の」強制連行がまぎれもなく行なわれたことを日本政府が自発的に明らかにしておけば、朝鮮半島では民間の人身売買ネットワークを利用した徴集が主だったという主張も国際社会に素直に受け容れてもらえるはずです。右派はなぜ、東南アジアでの調査をネグった当時の日本政府を非難しないのでしょうか?
最後に「慰安婦」数の推定について。軍が正式に設置した慰安所で働かされた「慰安婦」の数は軍が把握していたのですから、日本軍と日本政府が敗戦時に公文書を隠滅していなければはっきりわかっていたはずなのです。推定に頼らざるを得ない(そして推定である以上、数に幅が生じるのはむしろ当然)のはすべて敗戦時の政府・軍指導者の責任です。しかし「20万人とは何ごとか!」と噴き上がっている右派が、敗戦時の公文書隠滅を非難しているのを見たことがありません(ついでに言えば、「20万人じゃない」根拠をあげているのも見たことがありません)。