「証拠を出せ? 出したらちゃんと自分の目で見るんだろうな?」その5

 また安倍内閣は同日、慰安婦問題で「新しい資料が発見される可能性はある」とする答弁書を閣議決定した。紙智子参院議員(共産)の質問主意書への答弁。

ワシントン・ポスト紙は答弁書の内容についてもう少し踏み込んだ表現をしています。こちらでは紙議員の名前は挙げられていませんが、日付からして紙議員の質問主意書に対する答弁書のことであるのは明白です。

A parliamentary statement signed Tuesday by Prime Minister Shinzo Abe acknowledged the government had a set of documents produced by a postwar international military tribunal containing testimony by Japanese soldiers about abducting Chinese women as military sex slaves. That evidence apparently was not included in Japan’s only investigation of the issue, in 1991-1993.
Tuesday’s parliamentary statement also said documents showing forcible sex slavery may still exist. The statement did not say whether the government plans to consider the documents as evidence showing that troops had coerced women into sexual slavery.

1990年代半ば以降の研究の進展をそれなりにフォローしていた人間にとっては「なにをいまさら」な話にすぎないのですが、「朝鮮半島における徴集の様態」を「戦地・占領地も含めた徴集の多様な様態」とすり替える右派の常套手段が政治の場できちんと追及されたことには意味があるでしょう。
紙智子参議院議員(共産)の質問主意書(第183回国会質問第83号)のうち、ワシントンポストの報道に関連するのは次の部分です。

一 政府の「慰安婦関係調査」は不十分な点も多く、関係省庁が保有する「慰安婦」関係文書、資料の全てが集められたものではない。政府は内閣官房外政審議室長から関係機関に対し、一九九六年七月二十四日、「いわゆる従軍慰安婦問題に関連する資料等について(依頼)」を通知し、河野官房長官談話発表後も資料収集を行っているが、歴史研究者や「強制動員真相究明ネットワーク」などの市民団体も国立公文書館等の資料調査に継続的に取り組んでいる。
 その中で、一九九九年度に法務省から国立公文書館に移管された東京裁判(極東国際軍事裁判)関係文書「A級極東国際軍事裁判記録(和文)(NO.一六)、(NO.五三)、(NO.五四)」の文書綴りに、軍や官憲が「慰安婦」被害女性を強制的に連行した証拠書類が残されていることが判明している。書証番号三五三の「桂林市民控訴 其ノ一」、書証番号一七二五の「訊問調書」、書証番号一七九四の「日本陸軍中尉ノ陳述書」である。
 ・ 書証番号三五三の文書には、中国桂林での事案として、「工場ノ設立ヲ宣伝シ四方ヨリ女工ヲ招致シ、麗澤門外ニ連レ行キ強迫シテ妓女トシテ獣ノ如キ軍隊ノ淫楽ニ供シタ。」との記述がある。
 ・ 書証番号一七二五の文書には、被害女性の証言として「私ヲ他ノ六人ノ婦人ヤ少女等ト一緒ニ連レテ収容所ノ外側ニアッタ警察署ヘ連レテ行ッタ。(中略)私等ヲ日本軍俘虜収容所事務所ヘ連レテ行キマシタ。此処デ私等ハ三人ノ日本人ニ引渡サレテ三台ノ私有自動車デ「マゲラン」ヘ輸送サレ、(中略)私達ハ再ビ日本人医師ニ依ッテ健康診断ヲ受ケマシタ。此囘ハ少女等モ含ンデ居マシタ。其処デ私達ハ日本人向キ娼楼ニ向ケラレルモノデアルト聞カサレマシタ。(中略)私ハ一憲兵将校ガ入ッテ来ルマデ反抗シマシタ。其憲兵ハ私達ハ日本人ヲ接待シナケレバナラナイ。何故カト云ヘバ若シ吾々ガ進ンデ応ジナイナラバ、居所ガ判ッテヰル吾々ノ夫ガ責任ヲ問ハレルト私ニ語リマシタ。」と記録されている。
 ・ 書証番号一七九四は日本陸軍中尉の宣誓陳述書であるが、次の一問一答が記録されている。
 問「或ル証人ハ貴方ガ婦女達ヲ強姦シソノ婦人達ハ兵営ヘ連レテ行カレ日本人達ノ用ニ供セラレタト言ヒマシタガソレハ本当デスカ」
 答「私ハ兵隊達ノ為ニ娼家ヲ一軒設ケ私自身モ之ヲ利用シマシタ」
 問「婦女達ハソノ娼家ニ行クコトヲ快諾シマシタカ」
 答「或者ハ快諾シ或ル者ハ快諾シマセンデシタ」
 問「幾人女ガソコニ居リマシタカ」
 答「六人デス」
 問「ソノ女達ノ中幾人ガ娼家ニ入ル様ニ強ヒラレマシタカ」
 答「五人デス」
 (中略)
 問「如何程ノ期間ソノ女達ハ娼家ニ入レラレテヰマシタカ」
 答「八ヶ月間デス」
 これらの文書には、軍の直接関与、「慰安婦」被害女性に対する強制、脅迫が具体的に記述されている。
1 政府は、これらの文書の存在を河野官房長官談話発表までに承知していたか。
2 河野官房長官談話の発表後も、政府は「慰安婦」問題の調査を継続しているが、今日まで政府はこれらの文書を内閣官房に保管しているか。
3 これらの文書は、安倍首相の答弁内容である「軍や官憲の強制連行」「人さらいのように、人の家に入っていってさらってきて、いわば慰安婦にしてしまったということ」を示す文書とみなせるのではないか。

強調は引用者。これに対する答弁書の回答において、「御指摘の文書つづりについては、法務省において保管されていたもの」とされていることが、"...... acknowledged the government had a set of documents produced by a postwar international military tribunal containing testimony by Japanese soldiers about abducting Chinese women as military sex slaves" という報道につながったものと思われます。