店頭にズラリと並んだ多肉植物の鉢植え。さて、どれにしようかなと、選んだ来店客は、自宅に持ち帰って窓辺で育てるのかと思いきや、おもむろにフォークで食べ始めた! そんなシュールな光景が、中国・上海でじわりと広がっています。多肉植物の鉢植えの正体は、実は本物そっくりに作ったカップケーキなのです。

 上海では微信(WeChat)や微博(weibo)といったSNSを使う若者が多く、たくさんの「Like」を得られるネタを日々探しています。見た目の可愛らしさや意外性、ユーモアなどから、この「多肉植物ケーキ」はまさに打ってつけのネタ。買った人はもれなくSNSにアップするため、瞬く間に拡散し、一躍、人気商品となったのです。

 ブームに便乗しようと、最近では多くの業者が類似品を売り始め、デパ地下や個人経営のケーキ店は、もはや花屋さながらの様相。結婚式や企業のイベント、立食パーティーなどでも、欠かせないスイーツの一つになっています。

 似たようなスイーツは、隣国の韓国にも広がっています。ソウルのトレンドエリアであるカロスキルで開業したカフェ「Banana Tree」では、小さな植木鉢に模したプリンが話題です。バナナ、ストロベリー、ブルーベリーの3つの味で、価格は6300ウォン(約617円)。土の表現にココアパウダーを使い、スコップ型のスプーンで食べるなど、こだわりを見せています。

 一方、ベトナム・ホーチミンのカフェ「Dear Joe」には、植木鉢そっくりのアイスクリームが登場。アイスの上にチョコレートクッキーを砕いて土に見えるようにまぶし、植物の芽に見立てたミントが添えられています。こちらもスコップ型のスプーンでまるで土を掘り返すようにして食べるのが特徴です。

 容量は小・中・大のスリーサイズから選べ、大は5万5000ドン(約275円)。韓国でも、ベトナムでも、若者は「Like」必至のネタとして撮影し、拡散させることでさらに集客に拍車がかかる好循環を生んでいます。

 アジアの都会は時代の変化が目まぐるしく、あまりの流れの速さに“都会疲れ”を感じる人が増えています。その反動で流行しているのが、箱庭風に植物を寄せ植えして、癒しを得ようとする、自然回帰の動きです。植物に似せたスイーツが、同時多発的に各地の都会でブームになっているのは、「癒されたい」という想いがアジアの若者の間に共通して蔓延していることと、無縁ではないでしょう。

上海で人気の多肉植物を模したケーキ。「癒されたい」若者の間で、SNSによって瞬く間に拡散された
上海で人気の多肉植物を模したケーキ。「癒されたい」若者の間で、SNSによって瞬く間に拡散された

キャラ消費がモノから体験型にシフト

 日本のキャラクターもアジア各国で根強い人気があり、SNSで拡散する格好のネタです。例えば、ベトナムで1992年に発刊されて以来、国民的人気を誇るドラえもん。ベトナムで118店を展開する日系コンビニのファミリーマートでは、2015年4月から定期的にドラえもんのキャラクターをかたどった中華まんを販売し、支持されています。これまでにドラえもんをはじめ、ドラミちゃん、ジャイアン、スネ夫、のび太のママ、のび太のパパを模した中華まんをそれぞれ商品化しています。

 一つひとつ手作りで丁寧に製造され、細部にわたり非常によくできており、購入後SNSにアップするベトナム人が続出。拡散して、売り切れになる店が出るほどの人気です。92年当時は海賊版による発刊から始まったドラえもんですが、その後ライセンス契約がしっかりと交わされるようになり、このファミリーマートの中華まんも、小学館から正式に委託された現地のエージェントがライセンス契約を行って展開しています。

とても良く再現されているドラミまん(1万2000ドン=約60円)。手作りで数量限定のためすぐに売り切れてしまうという
とても良く再現されているドラミまん(1万2000ドン=約60円)。手作りで数量限定のためすぐに売り切れてしまうという

 一方、シンガポールでは休日に家族でキャラクターカフェに出かけるのが定番。そうした中、2016年4月に「ポムポムプリン カフェ」、同年5月に「ハローキティ カフェ」と、サンリオのキャラクターのカフェが続々オープンし、2014年にオープンした競合の「チャーリー・ブラウン カフェ」をしのぐ人気になっています。

 台湾でも、ハローキティのしゃぶしゃぶ店や、「リラックマ カフェ」が次々と新規開店して話題をさらっています。キャラクターをあしらった店の外観や内観に加え、食事のメニューもキャラクターをイメージしたものが提供され、その世界観にどっぷり浸れるのが特徴。ファンにとっては「聖地」のような場所になっており、スマホで思い思いに店内や料理を撮影し、ファン同士の間で瞬く間に拡散して、それが集客につながっているのです。

 シンガポールや台湾などアジアの中でも経済が成熟している国では、キャラクター関連の消費が「物」から「体験型」にシフトしていることがうかがえます。ただし、ベトナムでも2018年にハローキティのテーマパークを開業させる計画が報道されており、今後体験型の店や施設が徐々に増えていくことが予想されます。

台湾のリラックマ カフェは連日ファンが訪れ、店の前には行列ができている
台湾のリラックマ カフェは連日ファンが訪れ、店の前には行列ができている

台湾で広がる「電球ドリンク」

 台湾からは、もう一つSNSウケしているヒット商品を紹介します。台湾では、連日夜遅くまで営業する屋台街「夜市」が生活に浸透していて、台湾旅行でははずせない観光名所ですが、その夜市で2016年一番の人気となったのが、電球型のボトルを使ったドリンク。西南部の都市、台南の夜市では、電球型のミルクティーを売る屋台に、開店1時間前から長蛇の列ができるほど盛況です。

 ミルクティーの色は紫色や黄色、オレンジ色など何とも毒々しい色ですが、例えば紫色は蝶豆花(バタフライピー)というハーブの一種によるもので、アンチエイジングに効果があると言われており、意外にも健康ドリンク。これまでになかったボトルとその魅惑的なドリンクの色はとても写真映えするため、SNSウケを狙った若者たちが争うように投稿し、瞬く間に台湾全土に広まりました。その余波は海を隔てた韓国にも達し、ソウルでも同じような「電球ドリンク」がヒットしています。

台湾や韓国では、電球型のボトルにドリンクを入れて販売。価格は70~80元(約250円~290円)。見た目の奇抜さがSNSウケした
台湾や韓国では、電球型のボトルにドリンクを入れて販売。価格は70~80元(約250円~290円)。見た目の奇抜さがSNSウケした

 アジアの若者は日々、SNSで発信するためのネタを探しています。インスタグラムの人気からも理解できるように、今はどの国でも、文字よりも写真が重視されており、SNSウケする見た目かどうかは、アジアでヒット商品を生むための極めて重要な鍵なのです。

 本コラムは、アジア各国の最新トレンドを発信している「TNCアジアトレンドラボ」が調査した「アジア10ヵ国フードトレンド」をベースにトレンドを深掘りした記事を連載します。次回のテーマは、アジアの大都市で広がりつつある「脱コメ」「脱パン食」の動き。なぜ、コメもパンも食べないのか。背景には健康とダイエットを過剰に意識するアジアの都会人の共通項が見えてくるのです。

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