「EV(電気自動車)は高精度で車両の動作を制御することが可能なため、内燃機関車両よりも自動運転に適している」。こう語るのは、日産自動車の浅見孝雄専務執行役員だ。
日産は2年前の前回モーターショーに続き今回の「東京モーターショー2015」でも、自動運転のできるEVを前面に展示した。
カルロス・ゴーン社長は「市街地を走行する本格的な自動運転を2020年に商品化する計画だ。最初に導入するのは、日本になるだろう。なぜなら、公道でのテストができるから。欧州では公道テストすらできない。日本に続き、中国、欧州、米国に展開していく」と明言している。
このため、混雑した高速道路上での安全な自動運転を可能にする「パイロットドライブ1.0」を2016年末までに日本市場に導入する。次いで18年には高速道路での車線変更や合流を可能とするよう、段階的に技術開発を進めていく。16年のパイロットドライブ1.0を含め、自動運転はEVに導入すると正式に言ってはいない。
しかし、2013年9月にカリフォルニア州で日産は初めて本格的な自動運転技術を公開して以来、実験車両はEV「リーフ」をベースにしたものばかり。10月には、高速道路から一般道まで自動運転が可能なリーフベースの最新実験車両を日産は公開。これは18年から20年までの実用化を見据えている。また、今回のモーターショーでも、自動運転機能満載のEV「日産IDSコンセプト」を出品している。
外見は同じリーフベースの自動運転車両でも「この2年間で、自動運転の技術レベルは3倍に伸びた。センサー技術の進化が大きい」(日産幹部)と話す。
日産は20年には「国内販売の10%ほどをEVにしたい」(星野朝子専務)という目標を掲げる。14年度に国内で日産が売ったEVは約1万4000台で、国内販売全体の2.3%だった。これを、少なくとも6万台程度に上げていく形だ。
日産は①EVを頂点とする電動化と②自動運転を頂点とする知能化の「二本柱に沿ってマーケティングや販売力強化などの国内事業を推進する」(星野専務)計画だ。市街地に対応する本格的な自動運転を日本から導入しようとしているわけで、少なくともEVトップメーカーである日産がEVの自動運転車両を投入していくのは間違いない。
EVは低速時に細かな制御が可能
ではなぜ、EVはその制御特性が自動運転に向くのか。
車の運転には①認知②判断③操作と3つのステップがある。自動運転は、人が行うこの一連の動きを、AI(人工知能)などICT(情報通信技術)を活用し車に担わせていくもの。現実に「事故の93%はドライバーが原因であり、3ステップとも車は人の100倍の能力を持っている」(日産)としている。
“ストップ・アンド・ゴー”を頻繁に要求される市街地での自動運転においてEVが優位なのは、モーターのトルク特性が大きい。モーターは電気が流れた瞬間から最大トルクを発生する。つまり、電力量が一定ならば回転数が低いほど、大きな力を出すのだ。認知、判断、操作まではガソリン車もEVも一緒だが、EVは発進をはじめ、低速時に細かな動きを制御することが容易なのだ。
ガソリンエンジンやディーゼルエンジンは、回転数が上がるのに比例してトルクが大きくなり、最大となった後、緩やかに小さくなっていく。いわゆるエンジンの温まり加減は、季節や天候によっても偏差が生じる。
高速道路での走行なら出力が大きく変化しないため、ガソリンエンジン車やディーゼルエンジン車でも円滑に自動運転することができよう。しかし、市街地となるとバイクや自転車なども同じ道路を併走し、人などの飛び出し、道路工事など、走行する車両の周辺環境がいつも変化する。雨の日の信号や白線の認識、歩行者を思いやる運転なども要求される。急ハンドルや急ブレーキといった非連続、かつ精密な制御が市街地の自動運転には求められる。そもそもEVは、操作から動作において、電気信号を受ける機器の反応性が高い。車載するスキャナーやカメラなどの電子機器への電力供給も、大型電池を積んでいるためEVの方が容易だ。
究極の安全を求めた交通インフラ構築を目指す
EVの基本構成は、高容量のリチウムイオン電池、インバーター(電池からの直流を交流に変えてモーターの回転数を制御する)、モーターの大きく三つ。ガソリンやディーゼルエンジン車と異なりEVには、トランスミッション(変速機)がない。モーターが生む回転する力がそのまま車軸に伝わるシンプルな仕組みだ。
ミリ波レーダー、レーザースキャナー、カメラなどの複数のデバイスや、専用のHMI(ヒューマンインタフェース)などを車両に搭載。外部とは交通管制システムの活用、さらに自動運転車両間で情報を管理し合っていく。
自動運転車両はカーナビの設定に沿って目的地まで自動走行する。「常に更新できる地図ソフトが対応する地域かどうかが、自動運転を実用化する決め手」とゴーン社長。車とICTとで実現を目指す市街地を含めた自動走行は、精密に制御が可能なEVを中心に、レンジエクステンダー、燃料電池車(FCV)などのモーター駆動による車両がやはり基本となるだろう。
【初割・2カ月無料】お申し込みで…
- 専門記者によるオリジナルコンテンツが読み放題
- 著名経営者や有識者による動画、ウェビナーが見放題
- 日経ビジネス最新号12年分のバックナンバーが読み放題