まもなく任期が終わろうとする米オバマ政権。「クラウドファースト政策」などIT業界に大きな影響を与えた同政権が、最後の年にも強烈なIT政策を打ち出した。米連邦政府の諸機関が開発した業務システムをOSS(オープンソースソフトウエア)として公開する方針を明らかにしたのだ。

 米政府CIO(最高情報責任者)のTony Scott氏が、業務ソフトをOSS化する方針「Federal Source Code Policy」を発表したのは2016年8月のこと。今後は連邦政府機関がカスタム開発した業務ソフトはOSSとして公開し、他の機関が再利用できるようにすることを掲げた。

 連邦政府機関が業務システムを新たに開発する際は、まず他機関が公開したOSSをチェックし、使えるものは再利用する。他に存在しないソフトだけを新規に開発し、それもOSSとして公開する。ホワイトハウスは今後3年間に開発するソフトの20%をOSSとする目標を掲げる。国家の安全保障に関連するシステムなどはOSSの対象外とする。

 米政府の狙いは、ソフトという「資産」を組織をまたいで共有することで、IT投資の効率を高めることにある。現在は人事管理や予算管理など様々な業務システムを開発するため、ITベンダーと年間4万2000件以上のソフト開発契約を締結し、年間60億ドル以上を支出している。各機関がバラバラにソフト開発を進めているため、重複する案件が後を絶たない。OSS化によってこのような事態が起こるのを防ぐ。

OSSの「文化」を忠実に導入

 米政府のOSS政策のポイントは、単に業務システムのソースコードを公開するだけでなく、民間の有志による貢献(コントリビューション)も受け入れて、人々の力を借りながらソフトをより良いものにしていこうとする姿勢を示していることだ。OSS開発の「文化」を、忠実に政府システムに取り入れようとしている。

 その象徴がソースコード共有サービスGitHubの採用だ。GitHubはソースコードのバージョン(履歴)を管理する機能や、ソースコードをレビュー(査読)したりコメントを付けたりする機能、「イシュー(Issue)」という単位でプログラム開発の進捗を管理する機能を備える。一般の人々もGitHubのソースコード管理機能を使って、政府OSSの開発に参加できる。

 「政府がOSSとして公開しているのは『国民のコード(People's Code』だ」。米政府CIO室のAlvand Salehi氏(写真)は、米GitHubが2016年9月に米サンフランシスコで開催したイベント「GitHub Universe」の基調講演に登壇し、来場者の多くを占めるOSS開発者にそう訴えかけた。

写真●米政府CIO室のAlvand Salehi氏
写真●米政府CIO室のAlvand Salehi氏
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 既にホワイトハウス退役軍人省連邦調達庁などがGitHubにページを設け、様々な業務システムをOSSとして公開している。例えば、ホワイトハウスであれば請願システムを、退役軍人省は年金給付の受付システムを、連邦調達庁は米政府が保有する様々なデータを公開する「Data.gov」のシステムをOSSとして公開済みだ。

 Linuxなど成功しているOSSは、さまざまな技術的背景を持つソフト開発者が参加することで、ソフトの機能や品質を高めてきた。同じことを政府が利用する業務ソフトでも実現しようというわけだ。

 ホワイトハウスが8月に発表したFederal Source Code Policyの文面自体も、GitHub上で管理されている。政府の方針に対して一般からのコメントを受け付ける「パブリックコメント」が、GitHubで運用されているわけだ。

IT業界に再び激震

 米政府のOSS政策は、連邦政府機関によるIT投資の重複を減らし、税金の無駄遣いを縮小するという点では、米国民にとって朗報となるだろう。その一方でITベンダーにとっては大きな減収要因になる。政府機関が利用する業務ソフトの開発は、ITベンダーにとってドル箱中のドル箱と言えるビジネスになっているからだ。

 オバマ政権は2010年に、連邦政府機関が業務システムを開発する際に、クラウドコンピューティングの利用を第一に検討するよう求める「クラウドファースト政策」を発表し、行政だけでなく民間におけるクラウド利用に弾みを付けた。今回の「OSSファースト」とも言える政策が、同じインパクトを再びIT業界に与える可能性は大いにありそうだ。

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