年末が近づいてくると、なぜかこの1年を振り返りたくなる。2015年は筆者にとって、「善い会社とは何か」を改めて考える良い機会になった。
きっかけは、2015年2月9日号の特集で「善い会社 2015年版 いま必要とされる100社ランキング」を担当したこと。その時は特集班で議論し、「『善い』会社とは、単に業績が『良い』だけでなく、社会に広く貢献する会社」と定義付けていた。その後、本特集とは全く関係のない取材をする時も、「この会社は善い会社か」を考え続けた。そして今は、当時とは少し違う「善い会社の定義」を持つようになった。
仲間のありがたさを感じられるポイント制度
具体的な事例を見ていこう。11月19日(この原稿を書いている日の前日)に取材した会社、米マリオット・インターナショナルだ。オランダから来た改善コンサルタント軍団が、東京マリオットホテルの顧客満足度を上げる取り組みについて学ぶというので、同行取材させてもらった。取り組みの内容は改めて別の記事で紹介するが、その取材で興味深かったのが、プレゼンテーションを担当したホテル社員2人の生き生きとした表情だった。
プレゼンテーションでは、副総支配人の篠原純氏が取り組みの全体像を紹介。セールスエグゼクティブの山口英基氏が、自身の体験談などを交えて具体事例について話した。印象的だったのは、2人のプレゼンテーションから、ホテルや一緒に働く同僚への愛情がひしひしと伝わってきたことだった。
「なぜそんなに自分の会社が好きなんだろう」。そんな疑問を漠然と抱えていると、山口氏はプレゼンテーションの中でこんなことを(英語で)話し始めた。
「この会社では、たくさんの成長の機会が与えられます。例えば、私は先日、英語の勉強をがんばってテストで良い結果を出しました。すると、会社から5ポイントが付与されました。5ポイントは5000円の価値があって、当ホテルの中でなら自由に使えます」
「ワオ、ナイス!」。オランダの人たちからそんな感想が漏れると、山口氏も篠原氏も誇らしげな表情を浮かべていた。
この制度は一見すると、「よくある社員向けポイント制度」とも受け取れる。だが、そこには会社の深い意図があるように感じた。
社員を大切にすると、社員も会社を大切にする
着目したのは「当ホテルで」というところ。レストランで食事するにしろ、料金を追加して宿泊するにしろ、がんばったご褒美を手渡してくれるのは同僚なのだ。同僚のサービスを肌で感じれば、同僚への感謝の気持ちも出てくるだろうし、「自分ももっとお客様に良いサービスを提供しよう」とも思うだろう。自分が成長すれば、会社も善くなる――。そんな「プラスのスパイラル」を生み出すことに成功しているのだ。
もっとも、このスパイラルを生むには「会社が従業員を大切にする」のが大前提になる。
東京マリオットホテルを運営するマリオット・インターナショナルは、2014年12月期の売上高が137億9600万ドル、純利益は7億5300万ドルだった。2015年11月16日(取材の2日前)には、同業の米スターウッド・ホテル&リゾーツ・ワールドワイドを約122億ドルで買収すると発表し、5500ものホテルを運営する世界最大のホテルチェーンになった。
世界最大の外資系ホテルチェーンと聞くと、「カネの亡者」のようなイメージが何となく付きまとう。しかし、同社の企業ウェブページには、基本理念の筆頭に次の文章が掲げられていた。
「何よりも人を大切にします。従業員を大切に扱えば、従業員もお客様を大切にするようになります」
川崎の「下町ロケット」
次の事例は、2015年8月に取材した伸和コントロールズ(本社川崎市)。売上高は約80億円、従業員約330人の中小メーカーで、産業機械向け電磁弁(気体や液体の流れを制御する部品)や半導体製造向け精密空調装置などを開発・製造している。マリオット・インターナショナルに比べれば知名度も低いし規模も小さいが、善い会社だと感じた。
イメージは、TBSで2015年10月から放映されている『下町ロケット』(池井戸潤氏原作)に登場する佃製作所。中小メーカーながら、大手に負けない高い開発力と加工力で新規案件を勝ち取っている。「優秀な社員がコンペに勝てる製品を開発してくれているおかげ」。川崎市の本社で幸島宏邦社長を取材した時、幸島社長の口から出てくるのは社員への感謝の言葉ばかりだった。
長野県伊那市にある工場も取材させてもらった。整理整頓が行き届いた生産ラインと、従業員への愛情にあふれた社員食堂が印象的だった。
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