訪日外国人が急増し、ホテルの空き部屋が不足している。お手頃料金で泊まれるイメージが強かった「アパホテル」の宿泊料金が1泊3万円程度に高騰する日も出始めた。2020年に開催される東京五輪に向け、訪日外国人はさらなる増加が見込まれる。これまで以上に需給が逼迫することが予想される国内のホテル料金は今後、どうなっていくのか。

「うちはどんなに混雑していても正規料金以上の値付けはしませんよ。でも、“あのホテル”は違うんですよね…」。「ホテル不足は認識していますが、正規料金以上の値段で売るのは抵抗があります。“Aホテル”のように強気の値段設定で、お客さんの足元を見るような商売はしたくないですから」――。
振り返ればこの夏は、全国主要都市のビジネスホテル業界関係者とホテル不足問題について議論する機会が多かった。日経ビジネス8月24日号のスペシャルリポート「出張先でホテルがない!~本誌厳選9つの解決策~」を執筆するためである。
取材の際、必ずと言っていいほどオフレコで飛び出すのが、「あのホテル」もしくは「Aホテル」と、名前をぼかして語られるホテルグループの話。それは愚痴のように聞こえる一方で、「風評を気にせず、高い料金で部屋を売れてうらやましい」という羨望も含まれているように聞こえた。
「あのホテル」――それは「アパホテル」のことである。
実際、この春以降、出張が多いビジネスパーソンから、主要都市や観光地が近い地方都市で「アパホテルが1泊2~3万円もした」という話をよく耳にしていた。筆者自身も春に出張した際、大きな衝撃を受けたことがある。宿泊検索サイトで出発前日にホテルを探すと、シングルの部屋が1泊3万円程度のアパホテルしか表示されなかったのだ。
だが、業界関係者から陰口をたたかれ、出張族にネタにされながらも、アパホテルは今も東京都心部だけでなく全国各地で増え続けている。それだけアパを支持する顧客層が多く、積極投資ができるほど業績も好調ということなのだろうか。アパグループに、さっそく取材を申し込んだ。
取材に応じていただいたのは、よく写真を見かける名物女性社長ではなく、その夫で、アパホテルの親会社アパグループの代表を務める元谷外志雄(もとや・としお)氏だ。

「料金が大幅に変動し、アパホテルの部屋がものすごく高くなる日があります。これはどういうことなのでしょう」。筆者は元谷代表に尋ねた。
「大根は朝昼晩と、価格が変わるでしょう。ホテルの部屋も需給状況によって、その日の値段が上下するのは当たり前。グローバルではこれが普通です。そもそも日本のホテル料金は世界的にみて安すぎたし、数が少なすぎることも問題なんですよ」。元谷代表はこう言い切った。冒頭で紹介したように、正規料金以上の値付けに躊躇する事業者がいるビジネスホテル業界に、グローバルスタンダードを持ち込むべく一石を投じる覚悟のようだ。
「需給により1泊3万円の日もあれば、1万円の日もあるのがアパホテル」(元谷代表)という、値付けのカラクリは単純だ。同グループでは、正規料金を基準として、周辺のホテル需給のひっ迫状況を見ながら、一定の倍率で料金を上げ下げする権限を支配人に持たせている。そのため、閑散とする時期には1泊数千円~1万円台の部屋も、繁忙期には2~3万円程度と大きく料金が変動する。ただ、「倍率は企業秘密だが、あまりにも常識外れなことはしない。仮に『いくらかかっても泊まりたい』と希望するお客さんがいても、正規料金の5倍とか10倍の料金をふっかけるようなことはしない」と元谷代表は笑う。
アパホテル以外の多くのビジネスホテルも需給により宿泊料金は上下する。だが、混雑時でも、正規料金を超える高い値付けをするホテルはそれほど多くない。そのため、アパホテルの料金が一泊2~3万円に高騰すると話題になるのだ。
「アパホテルが1泊3万円!」と客から驚かれたり、同業他社から陰口を叩かれたりしようとも元谷代表がこのように余裕の表情を見せるのは、実際にアパホテルが高い稼働率を維持し、客室平均単価も上昇基調にあるからだ。
アパカード会員は1000万人弱に
国内のビジネスパーソンの出張需要は旺盛で、日本人観光客の利用も堅調。加えて、訪日外国人利用も増えている。アパホテルは国内に338カ所もあり、合計の部屋数は5万4836室(建築・設計中のホテル、パートナーホテル含む)に上る。これだけのホテル数を抱えながらアパホテル全体の稼働率は年々上昇し85%超となっている。
中でも好調なのは東京都心部のホテル。2014年7月にオープンした全411室の「アパホテル<新宿御苑前>」は、開業して1年以上が経過したが、稼働率は毎日100%を記録している。
「ある海外の有名な宿泊検索サイトが外部に公開していない情報として教えてくれたが、アパホテルは利用者ランキングのかなり上位にいる」(元谷代表)。
このため、今の料金戦略を続けても、国内外の顧客に十分に支持される、との確信がある。アパカードの会員数は959万47人(8月23日時点)で、利用見込みの顧客層はかなり厚い。多くのホテルが最寄駅から徒歩5分以内と利便性が高く、混雑していなければ1泊数千円というお手頃料金のビジネスホテルとして、急速に認知が進んだ。
「アパホテルはとても儲かっている」と豪語する元谷代表は、2020年度までに日本国内で10万室(直営、フランチャイズ、パートナーのホテルの合計)を提供する目標を掲げる。需要が旺盛な東京都心では、特に積極的な展開を計画する。東京23区だけで45カ所へホテルを増やし、合計の部屋数を1万1077室(直営ホテルのみ。設計や建築中を含む)にする予定だ。
アパホテルの客室単価も上昇中。8月中旬時点で、全国のアパホテルの客室平均単価は約8800円。東京や大阪の客室平均単価は特に高く、約1万~1万2000円になっているという。
ここで俄然興味がわくのが、東京や大阪のホテルはどこまで高くなるのかという元谷代表の見通しだ。躍進を続けるビジネスホテル業界の異端児は、今後の国内のホテル相場をどう見ているのか。
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